8.
貴族令嬢風の少女、アリスとお付き二人はこの休憩所を離れて行った。その三人を追うようにミーシャも校舎の方に戻って行った。
何かぼそぼそと言っていたがきっと俺の事に違いない。
一方で、理事長はと言うと、ベージュ色のスーツを着こなし、大人の気品そのものって感じだ。
「お待ちしておりました黒嶺刻夜さん。でわ、あちらの理事長室まで案内しますね」
校舎の反対側、休憩所を挟むように建てられた別棟へ向かう理事長の後ろに付いて行く。
大きな扉を守護するように立つ屈強な騎士二人がその扉を開けた。
中に入ってまず、目に飛び込んできたのは、そこいらの図書館以上の膨大な本だ。それと、中央に造られた床を文字盤とした大きな時計にそれを囲むように二階、三階、四階へ枝分かれしながら続く螺旋階段だ。
理事長はこの部屋の事を説明しながら俺を理事長室まで案内する。
説明を聞くに、ここは世界の原初をイメージして設計されているとの事、さながら、ここは生命の樹セフィロトをイメージして建てられているのだろう。確かにこの螺旋階段は、枝分かれした樹に見えなくもない。
俺は三階まで登り下を覗く。そこからは床に造られた時計が良く見えた。
時刻は午後一時になるとこ。昼の休憩時間が終わった時間。ちょうどチャイムの音が鳴り出した。
ここ三階の通路の先にある部屋が理事長室なんだろうか。
「黒嶺刻夜さん。ここが私の部屋、理事長室です」
理事長はドアをノックして中にいる人にドアを開けさせた。
「セシリー様お帰りなさいませ」
クラシックなメイド服を着た女性は頭を下げたまま、俺達が入った事を確認してドアを閉じた。
校舎の外観から察するに、きらびやかな室内を想像していたが、いたって普通だった。違うと言えば、メイドがいるところだろうか。ここにいるメイドは萌え萌えキュンとは言わないメイドの
窓際に社長が座ってそうなオフィスチェアとその手前には、たくさんの資料が乗った机があり、部屋の中央には、応接用のテーブルとソファーがあり、俺はそこに座るよう言われた。
「俺、汚れてますけど」
「構いませんよ。ずっと立たせてしまうよりは座ってもらった方がよろしいので」
「そうですか」
俺はソファーに腰を下ろした。
対応が
学校に関する事は秘書か学園長に一任すると思うが、直々に説明をしてもらえるとは……新天地で緊張していたが、さらに身体がぎこちなくなってしまう。
「ようこそ。シャフレヴェル騎士学園へ私達は貴方を歓迎いたします」
「……はい。よろしくお願いします」
「そんな緊張なさらないで下さい。アリシアさんお茶を」
「只今、お持ちします」
メイドの名前はアリシアと言うのか、とりあえず覚えておこう。情報の幅が多いメイドと知り合えば何かと後々が楽になるだろうと仮定してだ。でも、真面目すぎるイメージが強い。洗練されたと言うのか、物音を立てず無駄のない動きをする完璧なメイドだ。
俺はそんなアリシアさんが入れてくれた紅茶を飲み心を落ち着かせた。少しだけ。
「これから簡単に説明しますね。まず、こちらの資料より、ここの学校では生徒を騎士として教育します。騎士とは、主君を守る剣と盾である事」
「はあ……」
ここに来てからと言うもの、騎士と言う言葉を何回耳にしただろう。現に戦闘しているところを間近で見た訳だから、信用してない訳ではない。とまあ、おれ自身がその騎士になるというのだから、何がなんだか皆目検討がつくはずもなく。
「どうやって騎士として教育するかですが、学生の皆さんには小隊制を推奨しています。小隊を組ながら訓練や依頼を通して経験を積み治安を守る為に学んでもらいます。ここまでで、質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「でしたら、これが刻夜さんの生徒手帳になります。アリシアさん水晶を持ってきてもらえます?」
理事長は後方に待機してたアリシアさんに水晶を持って来るよう頼んだ。
「はい。今お持ちします」
水晶と聞いてイメージしたのは占いで使うような紫色のクッションに置かれた水晶玉だったが、実際アリシアさんが持ってきた水晶は、土台の上にあり、水晶玉の回りをドラゴンが巻き付くように飾られた物だった。
「お手数ですが、このドラゴンの顔の前に手を翳してもらえますか。その手帳にステータスと騎士のタイプが記入されますので」
俺は手を翳す。すると、ドラゴンの飾りは翼を広げ、眼が赤く光り、水晶球事態も色のない透き通った球体から、一瞬白く変化し、最終的に黒く染まった。そして、ドラゴンが口から炎を吹き出すように赤いレザー光が生徒手帳の白紙のページに文字を焼き付けていく。
(あら、珍しい色……)
「これはいったい?」
「刻夜さんのステータスですよ?」
「……なるほど、ゲームみたいに自分のステータスが数値化されたのか! これは分かりやすくていいが……」
「
思わず唖然と開いた口が閉じない俺の表情を見て理事長は優しい言葉をかけてくれたはいいが、結果は超絶に残念ステータスだ。
予想をしてない訳ではない。初期ステータスだから低いのは当たり前、百歩譲ってそれはよしとしよう。にしてもこれは、ひどい。
「リセマラができるならやりたい気分です」
「リセマラ? ですか?」
「もう一回できたりしますか?」
「ああなるほど、無理です」
「なっ!」
あっさり否定された……。
「気落ちしないで下さい。最初のステータスはみんなそんな感じですよ。それより、刻夜さんの魔技の素質はすごい珍しいものですよ」
「そうですか……今なんと!」
「ですから、最初のステータスは」
「その後、魔技がなんたらと」
「ああ、刻夜さんの魔技の素質はすごい珍しいですよ」
「俺の魔技は補助系じゃないんですか?」
俺は身体を前にぐっと乗り出した。
理事長は俺の行動に驚いたか、一瞬たじろぎ、落ち着きを戻して俺に理由を語った。
「おそらく、そんなんじゃないですよ。この水晶球の色の変化は魔技の素質を見抜きますから、例えるなら、炎の素質を持ち合わせたなら、透明から赤に染まりますし、水なら透明から青に変わりますから。刻夜さんはそうですね……透明から白そして、黒に二色に変化する事がまず、あまり例を見ない変化でしたし、色の変化事態は素質の大まかなものを表すため珍しいと」
「そうなんですね! よっしゃー!」
ステータスの低さは諦めよう。しかし、これはレアを当てたようなもんだろ。これはすごい運がいいんじゃなかろうか。
「喜んでいるとこごめんなさい」
「なんすか理事長!」
「また気を落とすかも知れませんが、聞いてもらえるといいかと、おそらく刻夜さんは魔技を使いこなすためには人の倍以上は努力が必要だと思います」
「マジっすか……」
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