7.

 何でこうなった?


 休憩所にいたはずの青髪の少女を何で俺が抱き締めてる?


 くそーいまいち思い出せん!


「本当に申し訳ないんだが、こうなった経緯と言いますか、君が俺に抱かれている理由をお聞かせ願いたい」


「この状況で貴様がそれを聞くか?」


「ごもっともです」


「いい度胸だ。私が貴様に抱かれた理由を教えてやろう」



 ■-休憩所


「理事長、この度は私の意見に賛同いただき光栄の極みであります」


「いいえ、とんでもありません。アリスさんがこの学園を守るためにしていただいた事なんですから。ですが、あまり無茶な真似はなさらないくださいね。相手側と交渉するのは私の役目なのですから」


「はい、次は控えるよう気をつけます。それと、さっきから気になっていたんですが、あちらに見かけない者がいっらしゃいますが、どなたですか?」


「もしかして、やっと来てくれたのかしら」


「では、あの者が例の転入せいですか?」


「おそらく」


「彼は何をされているんですかね。こっちを見てるようですけどなかなかこちらに来ませんし。葵さんあの者を連れてきてくださいますか?」


「イエス・ユア・ハイネス」


「すいませーんそこどいてくださーい助けてくださーい」


 葵は少女の声に気づいた。


「この声はミーシャか? それ以外に獣の足音が聞こえる……何でガルムに追いかけられてんだあいつは。それになぜ避けないあの男……ったく」


 子犬のような少女ミーシャを追いかけていた大型犬はガルムと言う北欧神話に出てくる番犬の名前がつけられた魔獣。大きさはライオンや虎に近い。


「葵さん急いで下さい」


「はい! アリス様」


 †


 そんなこんなで俺たちの元へ急ぎ、青髪の少女は俺の正面に立った。と、言うわけだ。


 つまり、要約すると、俺は子犬のような少女を助けるつもりが、俺達を助ける為に俺の前に立った青髪の少女を抱きしめながら倒れたわけだ。


 自分でもわけがわからない。


「つうか、さっきガルムとミーシャちゃん? 通り抜けて行ったぞ」


「貴様のせいだろ!」



 ◼―休憩所。


「あらあら」


「まさか、助けに行った葵さんを倒してしまうとか、あの男意味がわかりませんわね。一条さんわたくしがガルムを捕獲します。忠誠ロイントをお願いしますね」


「アリス様が直々にですか? わかりました。では、失礼します。我、一条穂波が汝、アリス・ブラッドフィールドに命ずる我が剣となりて、あのガルムを捕獲し、追われている少女ミーシャを助けよ」


「我、貴公を主と認め其方の剣とならん」


 アリスと穂波の周囲にサークルができ、アリスの服装が制服から装飾など無い無難の弓兵スタイルに変わり、左手には服装と不釣り合いな彫刻されたような装飾がある弓が握られた。


「擬似で良かったのだけど。まあいいですわ」


「すみませんでした。アリス様」


あたふたしながら、頭を何度も上下している少女の側で弓を構えた令嬢風の少女。


「我が剣は敵を射ぬく矢となりて、敵を仕留めん。必中の弓フェイルノート」


 倒れこんだ俺達を通り抜けて行ったガルムの動きはパタリと止まり、まるで自ら的になるようにアリスの方を遠くから覗く。その隙にミーシャは逃げ出すのに成功した。


 アリスの放った矢は黄色き閃光を放出しながら、ガルムに向かって一直線に飛んでいく。ガルムはその攻撃にも反抗せず、自ら的になるように一歩も動かない。


 ガルムに向かって放たれた矢は、見事に眉間に命中した。そして、ガルムは麻酔が効いたように大人しく倒れこんだ。


「さすがアリス様! 一撃で仕留めてしまうとは」


「お世辞はよして、これぐらい大したことありません。それより、解いてくださるかしら」


「そうですね今解きます。汝、アリス・ブラッドフィールド我の剣よこの刻を持って我の鞘に眠らん」



■-黒嶺刻夜

 

 俺はそれを倒れたまま逆さに見ていた。ただ、遠くからでもそれは綺麗だった。


 遠距離武器である弓は騎士としてはあまり用いられないはずだが、戦う者を騎士とするなら変なことでもないか、それに遠距離武器の使い手はゲームでも助かるし、心強い。何より暴走したガルムを捕獲したのだから無事落着と言えるのだろう。


「おい! いつまで私に抱きついているいい加減離してくれ! と言うか、どさくさに紛れてどこ触っている」


 ……フニ? なんだこれは……俺の手の中にフィットしている……


「きゃっ!!」


「ちょっ! これは、無意識なんです。それとついでに恥ずかしながら言い訳を聞いてくれると助かります」


 冷静な判断ができていなかったと認めよう。


 俺は手を放し葵と共に汚れを払いながら立ち上がる。


「言い訳とやらを聞いてやる」


「えっ!? うそっ!? 言ってよろしいのですか?」


 言い訳を聞いてくれるとは思っていなかったため、まさかの事に出た言葉が丁寧になってしまった。俺は目を会わせられず、頭が上がらない。 言い訳と言ってもその言い訳を考えてはいなかったのでなかなか言葉が出ない。


「場合によれば、どさくさに紛れて揉んだ事を公表するがそれで良ければな。さぞかし人気者になるだろうな」


冤罪えんざいだ! つか、人気者じゃなくて、嫌われ者だろそれ! まあ確かに、あの子を助ける為に間違えて抱き付いていた事は否定はしないけど、揉む何て滅相もない! 揉むならしっかり揉みたいさ! でも、感触がなかった」


 何言ってんだ俺?


「そうか……抱き付いていたのは本意だったんだな。それより今何てった! この変質者め!」


 葵は手のひらに青い球体を出現させ、俺を睨み付けながら、球体はどんどん大きくなっている。


 すごい幻想的な水の球体だ。なに感心してんだ俺、あれをくらったら人溜まりもない事は俺でもわかるぞ。


「いや、待ってくれと言うか待って下さい。その手をどうか下ろして下さい」


「知るか! 理事長が貴様を待ってんだから行くぞ!」


「はい!」


 葵は手を下げ、球体は消えた。そして休憩所まで葵の後方に付いて行った。


 理事長は先ほどの落ち着きのある女性で間違いはなかったようだ。


「葵さん御苦労様でした」


「理事長が見ている前でみじめなところをお見せしました」


「いいえ、ここからは二人の仲がよろしく見えましたよ」


「そんな事ありません。誰がこの変質者と」


「誰が変質者だ!」


「事実だろう」


「フフフ……」


 笑う理事長の向かいに座る貴族令嬢風の金髪少女、アリスは立ち上がった。


「葵さん行きますわよ」


「はいアリス様」


「でわ、私達は失礼いたしますわ理事長」


「はい」

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