6.

 憲兵の男は俺達に近づいてきた。


「そこの荷馬車。この先は見ての通り封鎖してるから迂回してくれ」


 目の前には、道を挟んで向かい合う高層の建物二棟が崩落していた。そのせいで正面の道を塞いでいる為に通れないないことは分かる。


 俺は一旦降りて尋ねた。


「ご苦労様です。ここで何かあったんですか?」


「昨晩この辺りで爆弾騒ぎがあってな、見ての通りこのありさまで、近頃出てきたテロリストの仕業なんじゃないかって言うから俺達が情報を集めてるんだよまったく嫌になるぜ」


 親切に答えてくれた憲兵の背後に近づいて来た女憲兵はその男の肩を掴んで説教を垂れた。


「おい! そこで何してる持ち場を離れるなんていい度胸しているな」


「はっ! はい……」


 表情一つ変えない女憲兵は冷徹な上官と言ったところか、それに比べ彼の凍りついたような表情、さっするに毎度ひどい目に遭っているにちがいない。


「さっさっと持ち場にもどれ!」


「はい!」


「学生がこんな所になんのようだ。早く学校に戻りなさい」


 どうやら荷台にいる天月さんは目を覚ましているようで、山盛りの藁で身体を隠した。


(私はいない事にして)


 ……はぁ? 


「ちょっとおじさん荷台を確認してもいいですか?」


(この女、私に気づいたの? やばい、この女、学校の教師なのよ!)


 女憲兵は腰に下げたレイピアを抜き問答無用に藁に隠れた天月さんの顔すれすれに突き落した。


「ひぃーっ!!」


 俺は言葉が出ず、身体が凍りついた。


 この女、知っててわざとやったぞ……。


「おい天月やっぱりお前か、毎度毎度おじさんに世話になって、おじさんだって忙しいんだ」


 嫌々ながら藁の中から出て女憲兵に目を会わせず反抗した。


「当たったらどうするんですか!」


「知ったことか! お前ならこれくらい避けられるだろう」


 この人、憲兵としてあるまじき台詞を……絶対敵にしたくない。


(ほんと最低よ)


 女憲兵に連絡が入ったのか、そんな素振りを見せないが、説教の途中で俺達の側から離れて行った。


「こっちの仕事が終わったら学校に行くからな」


 憲兵から別れた後、迂回しておじさんの荷馬車で学校まで送ってもらった。


 おじさんは女憲兵のレイピアで荷台に穴が空いたようで、あの後ずっと悲しそうだった。


 †


 学校は想像通りまるで王国の城でした。


 綺麗すぎる。豪華すぎる。基本金いくらだよ!


「そう言えば、理事長に挨拶に行くんだったわよね。理事長室は校舎の別棟にあるからそっちに行けば会えるはずよ」


「ありがとう天月さん」


「後君、私の事は朔乃と呼んで良いわよ。一応君のおかげで今日は助かった訳だし。さん付けだと呼びづらいでしょうし」


「そうか、じゃ俺も刻夜って呼んでくれ。あっ、そう言えばこの忠誠の儀はどうやれば解けるんだ?」


「そうね。君が私を契約した状態だから、君が私の眉間に向かって腕を伸ばして、この台詞を言えば契約は解けるわ。『汝、この後私の名前そして、我の剣よこの刻を持って我の鞘に眠らん』と、言えばオッケーよ」


「なるほど、じゃっやってみるかな。えーと腕を伸ばしてそれから……汝、天月朔乃我の剣よこの刻を持って我の鞘に眠らん」


 再び、俺達の周囲は赤いオーラの陣に包まれた。


 これでやっと心を見透かされないですむのか。……あれ!?


「さいてー変態!!」


『パシン』


 朔乃はとんでもない姿になった。


 こんな事になるとは俺は聞かされていないわけで無実である。まさか、朔乃が下着姿同然になるなんて。


 朝、着ていた軽装の服はぼろぼろで僅かしか残っていない。


 これじゃさすがに傍から見れば俺はただの変質者である。


 俺は周囲を確認をした。


 数名の女子生徒に見られた事に気づいた。 転入する前から変態のレッテルを張られる事を確信した。そして、おそらくここでも引きこもり生活が始まるかもしれない。


「「きゃー変質者ーー」」


 さいやくだ。


 誤解を少しでも解消すべく、ブレザーを朔乃にかけ、必死に俺は謝った。それから王宮の扉の如し昇降口まで一緒に行き、俺は理事長のいる別棟に向かった。


「えーとこの辺か?」


 理事長がいるであろう別棟の周りは色様々な花が絨毯じゅうたんのように広がっており、中央にある鳥籠のような休憩スペースには、優雅にティータイムをしている人達がいる。


 ここの制服を着た可憐な貴族令嬢風ゆるふわロングの金髪女生徒と、その子の後ろで立っているのはお付きの生徒だろうか、腰ぐらいの青髪とショートボブの茶髪の女生徒二名がいる。それともう一人、金髪の少女と向き合って座っている大人の落ち着きを感じさせる女性がいた。


 俺みたいなどこにでもいる一般人が立ち入ってはならない花園である。よって、俺はこのティータイムを邪魔せずにすむ方法を考えなくてはならない。


 考えた結果、俺はさらに気まずさがました。


 藁が積まれた荷馬車に乗って来たわけで、藁で汚れた田舎者は、この空間にふさわしくない。


 絵に描いたような場所にどうやって踏み込んでいいものか、こういう時、アニメとかの場合は……ドジっ子キャラがぶつかって来て笑ってごまかしながらと言うやり方があっただろうか。


 作戦と言うのは大げさだが、ドジっ子キャラと俺が偶然ぶつかって、俺の存在アピール。そして、俺は押し倒されて汚れるのは当然である。そんな都合のいい話があるものか。


「すいませーんそこどいてくださーい助けてくださーい」


 なにやら、大型犬らしきものに追われている小動物らしき人? 少女だ! 犬の耳を連想させるブロンドショートツインテールの小柄な少女。さながら大型犬から逃げ惑う子犬。


 おぉ! まさか、作戦を実行に移す時なのか? よし! 来い子犬の少女よ! 


 と、思いながら俺は退かずに待ち受ける。そして、俺はタイミングよく受け身をとりつつ少女と倒れこむ。その時、反射的に目をつむってしまった。


「きゃっ」


 きゃって、可愛い声出すんだなこの子。でも、なんか小柄じゃないし、予想より重く、柔らかい。そして、いい臭いだ。


 それもそうだ。目を開けて見てみたら上には、先ほど貴族令嬢の隣に立っていたお付きの青髪の子がいたのだから。

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