5.
いやー……
「何言っているの。お爺ちゃん生きてるわよ?」
「うそ……本当だ。手がピクピクしてる。って! どうなのこれ!? お爺さんまた襲って来るんじゃ……」
「もう平気。この者の悪しき心だけを浄化したから」
「そうなの? 結構便利なんだな聖剣って。流石天月さん。頼もしい限り……にしても生きてるなら剣を抜いてあげれば。パチパチ」
心ない拍手をしてしまった。
「……あったり前じゃない。抜くわよほらー」
老人から紅い血が噴水のように……。
「うそ……」
「大丈夫じゃ……これは血じゃない。トマトジュースじゃ」
「爺さん正気に戻ったのか? 胸一突きだったけど大丈夫か?」
「なあに騎士の持つ『聖剣』に胸を突かれても悪しき魂だけが消えるだけじゃし、儂が悪魔と契約してしまったのが悪いのだからな。嬢ちゃんには感謝しかない……ブハー」
「爺さーーん!! 何で聖剣だけ強調したんだーー」
「だって、聖剣じゃないと死ぬもん……ブハー」
「安心しろ爺さん。この剣は俺の知る限りじゃ聖剣だ!」
「そうか……ブハー」
なんか、どうでも良くなってきた。
「爺さん後は一人で頑張ってくれ。行こう天月さん」
「そうね。お爺ちゃんごめんね。憲兵には連絡しとくから、反省してね」
「あれ……儂見捨てられた? ブハー」
俺達は階段を上がり、建物の裏を抜け、透き通った川の上の橋を渡る。
「なんかさー。最初はスリル感じたけど、最後ぐだぐだだなー」
「しょうがないわよ。ほとんどの人が最後はあんなもんよ」
「そうなの? 正気に戻った時の爺さんは完全に別人だったしなー。そう言えば、聖剣ってやっぱ凄いんだなー」
「まぁね。あのお爺ちゃんも言ってたけど、聖剣は悪しき魂を浄化して、それ以外を治癒する事が出来るのよ。普通の剣は突いたり切ったりだけ、何も出来ない。そこが聖剣との違い」
「成る程、俺は殺されかけたと」
「ち・違うわよ! あれは……あんたが私の隣に寝てたからとっさに……」
「わかったから、今はもう気にしてないから」
照れ顔、本当に可愛いなー。
「そお? おだてたってリンゴしかないわよ……あれ? そう言えば、私のリンゴは?」
「……子どもにあげた……」
「何でよ! 私がもらったリンゴなのに!」
「子どもが
「はぁ? 意味分からない。 じゃあ朝ごはん抜きじゃん……」
「それは……ね。俺も昨日からほとんど食ってないし」
「そんなの知らないわよ。まぁしょうがないから諦める。子どもの為になったならそれでいいし」
「あのさ、天月さん? さっきから気になってたんだけど、天月さんは俺の心の声聞こえてる?」
「何を今さら、忠誠の儀を交わせば当然の事よ。君だって私の考えが聞こえてるはずよ」
「確かに……」
忠誠の儀にはそう言った効果があるのか、と言うことは?
「
「だから、してからだから」
俺は家での事を思い返す。
馬鹿だろ俺! おっと待て! 考えるの中止! また聞かれてしまう。
「天月さん! この忠誠の儀はどうやって」
「ダメ! 学校までこのまま。私、学校に制服忘れて来てるから解くのはダメ!」
「道理で、でも、どうしたら制服忘れんだ?」
「うるさいわね。いろいろ忙しかったのよ」
会話しながら、川を越えた先の街を歩く。
そこは、交通機関が充実していた。西洋文化が
金持ちが乗っていそうな四輪馬車や石畳の中央に敷かれたレール上を走る路面電車。それが進先に見える大きな建物は、ここの役所だろうか、手前にある噴水を囲んだロータリーの周りに人だかりがある。
俺らもそっちに向かう。
「学校までどのくらいなんだ? どうせ、遅刻は確定だろう?」
「遅刻? 私達は既に遅刻は許されたのよ?」
「何でそうなんの?」
「私達はさっき人鎧と交戦して市民を救った。これは何より騎士の仕事をしたわけだから、学校としては有益つまり、遅刻にはならない。その証拠に私の生徒手帳に履歴が……」
「どうした?」
「手帳がない……そりゃそうだよー私の手帳制服の中だもん。私達、遅刻確定。 アハハハ」
「アハハハって……」
俺は遅刻しようが今日は関係ない。とりあえず、理事長に挨拶すればいいだけだし、まだ生徒じゃない。
天月さんは一足先に噴水の側に行った。
向かった先は、荷馬車だ。ここは農村地ですかってくらい荷台に山盛りの藁いっぱい。何故にいるのかわからないが、この都市には不釣り合いな事だけは分かる。
この荷馬車に乗ると言い出すのでは? いや、藁が多過ぎて乗る所がないからあり得ないか。
「おじさんいつも助かるよ今日も学校までよろしくね」
言っちゃったよ! 荷馬車に乗る前提? つか、今日もって言ってなかったか?
「おぉ朔乃ちゃんの頼みならどこまでも行くよなんなら魔王城の入り口まででもおじさん行っちゃうよ」
「またまた、冗談うまいね流石だねいつも頼りになるねおじさんは」
めちゃくちゃ親しげに話している……。
「今日も決まってるね麦わら帽子にオーバーオール」
いろいろと突っ込みたい事大有りだけど、ここは落ち着いて二人の話に合わせるとしよう。
「ねぇおじさん学校まで送ってくれるんですか?」
「誰だオメーは!!」
「あのー……なんかすみませんでした」
なんなのこの人、気さくな人じゃないのスゲー厳つい顔したんだけど。
「なにやってんのよ。せっかくおじさんと交渉してんのに」
「朔乃ちゃん。そこの男とはどういう関係で」
「転入生の……あれ名前なんだっけ?」
「刻夜です。黒嶺刻夜です」
何でせっかく聞いてきたから答えてやったのに覚えてないんだよ。
「失礼な! わざとに決まってるでしょ。自分で名乗る機会を与えてあげたのよ」
「そうか、転入生なら乗ってきな!」
おじさんの荷馬車で学校まで送ってもらえる事になったのはいいが、藁を寄せ空いた空間に俺らは体育座りで座る。とんだ災難かこれは? 異世界初日でドナドナされてる感半端ねーよ。
穏やかな風を身に感じながら荷馬車はゆっくり進む。
このスピードでいつ着くのか不安なんですけど……。
天月さんは背伸びをして寝そべった。先程の戦闘で疲れたんだろうな。俺も、初めての魔技で結構活躍したかな? 元の世界じゃあり得ない事をこの世界では可能な訳で、まさに魔法を奇跡の能力と例えた人は間違ってない。いやー俺すげーかも。今思えば、誰も知ってる人がいないこの世界なら……やばい封印した黒歴史が解き放ってもここの世界なら違和感がなさそうじゃんか。
(うるさーい。聞こえてるんだからなにも考えないで!)
「はい。すいません」
そう言えば、黒いフードの人はいつの間に居なくなってたんだ? 後でお礼しないとな。
心地よい荷馬車の歩みに身をゆだねていたら不意を突かれたようにいきなり荷馬車は急停止した。
「すまないね朔乃ちゃん。ここから先はどうやら通行止めのようだよ」
進路先には、青服の憲兵らしき人達が道を封鎖していた。
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