第16話 壊滅

森の中に逃げ込んで、どれくらい経っただろう。

精霊を通して聞こえる村人たちの声は徐々に加熱していくようだった。

村人たちは本格的に一族を殲滅するため、なにか企んでいる、そう感じ取った僕は、こちらへ加勢に向かっている仲間に警告しに行こうと考えた。

<黒いワシ>はいたく心配していたが、やはり体調が優れないのであろう、木の上でサミュエルおじいさんと身を隠して仲間の到着を待つと約束した。


用心し、<黒いワシ>たちと十分に離れると、僕は仲間に狼の遠吠えで合図を送る。

返事は意外と近くから帰ってきた。

僕が最初にソツグナングに運んでもらい到着した村の外れから、数百ヤードのところにいるようだ。

そのあたりなら、村人の犬たちに存在を悟られる可能性もある、僕は彼らの元へ走った。


イタムアナグマ、人間とは恐ろしいものを考えるのだな。)


「タイオワ、どういうこと?」


(お前も感じないか?)


僕は足を止め、タイオワがもたらす言葉に耳を傾ける。


 鉄の雨が降る。鉄の雨は戦士の命を奪う。

 それは僕が仲間のもとに着く少し前に始まる。


それは恐ろしい未来だった。

村人たちは、ぼくの仲間の存在にすでに気が付いて先制攻撃するつもりのようだ。

僕らは接近戦でしか、実力を発揮できないが、村人たちは違う、彼らは戦争用の武器を持っていた。


「早く、早く行かないと…!」


僕は音を立てるのも構わずに一心不乱で走った。

ソツグナングによる移動はもう力が残っていない。

しかし、あと数十ヤード、<金のキツネ>の顔を見つけ目が合ったときに、予知通りそれは始まった。

大砲だった。

それもただの砲丸ではなく、火薬の詰まったものなので、着弾後に爆発する。


ヒュウウゥゥゥウ、ドォォォォオオオオンッ


その場は蜂の巣をつついたような地獄絵だった。

あの、強い一族の戦士たちが、悲鳴を上げて逃げまどっていた。

あるものは腕を失い、あるものは顔を半分失い。

地響きと共に放たれる鉄の雨は一瞬で数十名に瀕死の傷を負わせた。

距離があるはずの僕の顔や服にも血や内臓のかけらが飛んできた。

10発の砲撃が終わると、戦士のかすかなうめき声のほかは静かになった。

我に返り、戦士が倒れていくさまをただ眺めていただけの僕は皆のもとに恐る恐る近寄っていく。

足元が生暖かく、グチョグチョと嫌な音を立てた。

先ほどと同じ場所に<金のキツネ>の姿が目に入ったので、安堵し駆け寄って名前を呼ぶ。

返事がないのでよく見ると、下半身がなかった。


そこで感情が爆発した。


ドウシテ

ドウシテ

僕ガ、僕タチガ 何ヲシタッテ言ウンダ


激しい怒りが全身から吹き出てくる。

もう村も村人も滅茶苦茶にしてやる。

怒りは精霊を通じ強大な力を引き出した。


「ココピラマウナ、この地を二度と草木が生えない枯れた大地にしてしまえ。

彼らの畑を枯らせ。

彼らの家畜の餌を腐らせ。

彼らに病気を蔓延させろ。」


「ソツグナング、第3の世界を終わらせたようにこの世界も終わらせてしまえ。

害をなすものは水に流れろ。

害をなすものには二度と子供に恵まれない。

金輪際、我らを迫害する者はみな水に溺れて死ぬ。」


「タイオワ、彼らを罰せ。

我が同胞を肉塊にしたやつらは肉塊に。

打ち抜いたやつは打ち抜き。

石を投げたやつは石に当たれ。」


呪いは忠実に実行された。遠くで、悲鳴が何十にも重なって聞こえる。

しかし、精霊を使った呪いは禁忌だ。

僕もすぐに苦しみ、死ぬだろう。禁忌を犯した者は輪には還れない。

永遠の闇の中で呪った分だけ苦しむだろう。

それでもあいつらが報いを受けたのならば、もうそれでいい。


やめろ、と遠くで聞こえた気がした。

ああ、<黒いワシ>だ。

いつもいつも僕の心配をしてくれる<黒いワシ>だ。それなのに僕は――。

<フクロウ>だけでなく、<金のキツネ>まで死んでしまったよ。間に合わなかった。





ごめん。元気で。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る