第13話 蜂起
事態は望ましくなかった。
<黒いワシ>たちの第一陣は、少数精鋭でサミュエルおじいさんの救出を目的にすでに岩窟を発ち、そろそろ村に到着するころだという。
さらに第二陣は、成人していない子供と戦えない老人のみを岩窟に残し、
彼らの命運についての情報をタイオワから引き出すのはあまりにも恐ろしく、強固に情報を占め出したが、彼らが村へ行くことについて思いを巡らせると、一族の人々の顔がどす黒い暗雲にかき消えた。
すでに岩窟を後にした<黒いワシ>たちは自分が追うので、残りの皆は別の居住地を求めて旅立って欲しいと<金のキツネ>に声高に主張したが、拒否された。
<金のキツネ>が本心から拒否したいわけでないのは感じ取れたので、余計に歯痒かった。
「なぜですか!村を襲撃すれば、確実にたくさんの仲間が死にます!
それはタイオワと共にある僕が言うのだから、確定された未来です!
新しい場所へ行きましょう、皆で幸せに暮らしましょう。」
「違うんだ、<アナグマ>。よくお聞き。
本当の意味では、
今回、彼らとの争いを避けることができても、彼らの破竹の勢いの侵略を見れば、今後も我々の住居が追われることは明らかだ。
大地は有限だから、住居を追われれば、別の地に住む他の一族とも対立しかねないし、新しい土地が全く見つからなくなるかもしれない。
まだ力が均衡している今のうちに我らの力を主張し、境界を理解してもらい、今後の衝突を抑止するしかない、<アナグマ>が寝ている間に話し合いでそう決めたんだ。
これは<アナグマ>と<アナグマ>のおじいさんのためだけではない、一族の意思なんだ。」
僕は反論ができなかった。
しかし、優れた火器と飛び道具を持つ
僕たちは滅びる運命にあるのではないだろうか、そんな考えがふと頭をよぎった。
でも、と心で反論した。
僕が死なせない。
僕が皆のことは死なせない。
<フクロウ>から引き継いだタイオワと、ソツグナング、ココピラマウナがいる。
そうでなければ、<フクロウ>に申し訳が立たない。
「わかりました、<金のキツネ>。
もちろん、僕も参加していいですよね。
僕も成人です。」
<金のキツネ>は悲しそうに頷いた。
一族の余十名、日の落ちた中で焚火を囲んでいた。
だれも口を開く者はおらず、火のはじける音だけが大きく響いた。
老人と子供以外は、戦闘の用意が整っている。
総長の証であるキツネが刺繍された頭飾りをつけ、<金のキツネ>は重々しく口を開いた。
「すでに多くの者が知っていることだが、今いちど皆に申し伝える。
まずは悲しい知らせだ。
我らを導てきた偉大な呪術師<フクロウ>が今晩、大いなる輪の中に還っていった。
返還の儀はこの戦いが終わってから行う。
戦いに参加しない者は、その準備を進めていてくれ。」
命あるものは全て、いつか大いなる輪の中に還っていくと分かっていても、何人かはすすり泣きを漏らしていたし、僕も本当は大声で泣き叫びたかった。
「しかし、喜ばしいことに我らの守り神、タイオワを引き継ぐものが誕生した。
<アナグマ>じゃ、皆の新しい拠り所になるだろう。
<アナグマ>は、我らの守り神タイオワ、水の神ソツグナング、豊穣の神ココピラマウナと契約し、成人の儀を終えた、この戦いで十分に我らに恩恵をもたらしくてれると信じている。」
3体同時の契約について<金のキツネ>からは知らされていなかったらしい一同からざわめきが起こる。
僕は立ち上がり一礼した。
「最後に、今からの戦いについてだ。
さらに劣悪極まることに、神聖なるこの森を浄化の名のもと焼き払おうとしている。」
一同が怒りの声を上げた。
その声を片手で収め、<金のキツネ>は話を続ける。
「
これは、わしたちのためだけではなく、わしたちの孫、ひ孫の子孫が永くこの地で健やかに暮らすためでもある。
そして、話して分かる相手なら、初めからこのように戦う準備などしていない。」
<金のキツネ>は焚火に照らされた一族の顔を一人づつ確かめ、最後に僕を見るとかすかに頷いた。
「そして、<アナグマ>は我らの仲間だ!
仲間が侮辱され、仲間の家族が痛めつけられているのに立ち上がる理由は十分だ!
すでに一族の戦士<黒いワシ>たちが先に向かっている、我らも後に続け!!!」
<金のキツネ>の激励に応えたウォーという雄たけびは、村にまで届いたに違いないと僕は思った。
侮蔑や迫害に慣れ親しんできた僕は、僕のために戦いを決意してくれる仲間に涙が出そうで慌てて上を向いた。
その時の僕は預かり知らぬことであったが、僕が幼いころこそ僕の両親に対する風当たりは強かったものの、一族に平安が取り戻されてからは、僕が
その度に僕が願い出たら考えると、<金のキツネ>は僕のおじいさんとの暮らしを尊重してきた。
また僕への好意的な印象とは裏腹に、初めは片鱗だけだった僕の霊力が高まるにつれ、その評価が壁となり、多数が気おくれして遠巻きにしていた結果、気安く話しかけるのは総長の一番孫である<黒いワシ>だけだったというわけだ。
だから僕は一族の中では疎まれていたわけではなく、
僕の自己評価が不必要に低かったことと、考えが幼かったせいでそこまで理解し得なかっただけなのだ。
僕は僕が思っている以上に一族から愛されていた。
灯りを一切持たない一陣は夜の闇に紛れ、森の中を音もなく駆け抜けた。
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