第9話 接触
日が完全に昇り、村が一時の休みに着いたとき、<黒いワシ>は仲間の2人引き連れ素早く村に舞い戻った。
狩りで鍛えた戦士である<黒いワシ>たちは足音も気配も消し、見張りと称して役場の入り口で寝こけている村の男に気づかれずに、役場の地下牢に潜入した。
<黒いワシ>は仲間の一人を役場の入り口近くに残し、武器を持った村人がこちらへ来たら知らせるように伝えてある。
武器を持たない村人なら、何人集まっても一族の戦士の敵ではない、その村人が気取らぬうちに見張りの仲間が、一瞬で静かにさせるだろう。
地下水で濡れた足元の悪い牢屋には錆びた鉄格子がはまり、レンガ壁と天井の間に等間隔で空いている明り取りの小さい窓から日の光が差し込んでいる。
牢屋は3つに区切られており、その一番奥にぼろ布のような老人は倒れていた。
「サミュエルさん、無事ですカ。」
<アナグマ>の祖父はうめき声を上げた。
<黒いワシ>は鉄格子の間から腕を入れ、老人の口元に革袋に入った水を注いだ。
老人の喉が頼りなく上下する。
老人は目脂と血で固まった瞼をどうにか押し開け、<黒いワシ>を見ると、それが誰だか理解したようだった。
「うちの、孫は、無事か。」
聞き取れないほどのかすれた声でつぶやいたため、<黒いワシ>は鉄格子に頭を押し付けできる限り、老人に近づいた。
「無事でス。怪我もなく、今は、私たちの庇護下にいまス。
私は、あなたを助け出したいですガ、今は無理でス。もう少し待っていてくださイ。」
「わしのことは、構わない。
息子にも旅立たれ、あとは孫しかおらんが、その孫ももう守ってはやれん。
お前たちに頼むのは、心苦しいが、どうか頼みたい。」
息も絶え絶えに<アナグマ>の祖父は自分の命を諦め、<アナグマ>の輝かしい将来を<黒いワシ>に託すが、<黒いワシ>は認めなかった。
「<アナグマ>が、あなたの孫が悲しみまス。
助けるので、少し待っていてくださイ。
これは、感覚を麻痺させる薬草で、多めに渡しますかラ、今日の夜はもつと思いまス。」
<黒いワシ>はすりつぶした薬草を、老人の口に押し付け、もう一度革袋に入った水で嚥下させた。
≪ケー・ケッケー・ケェーー≫
武装した村人が役場を訪れたようだ、仲間の合図が聞こえ、間を置かず罵声と銃声が聞こえた。
どうやら自分たちの侵入が露見したようだ。
<黒いワシ>は素早く身を翻すと、仲間の加勢に向かった。
地下牢から役場の入り口まで<黒いワシ>が駆けあがると、仲間の一人が肩から血を流し、もう一人がその傷の具合を確かめているところだった。
二人の周りには村人が5、6人折り重なるように倒れている。
「<火花>、<ワタリガラス>!大丈夫か?」
「少し切れただけだ、毒もない。」
二人の無事に胸撫でを下ろすが、鋭い警笛が鳴り、
「人殺しだ!サムたちが倒れているぞ!」
「野蛮人が出たぞ!」
「悪魔の仲間が来た!」
狩猟銃を担いだ男たちが三々五々集まってくる。
その声に誘われ、女や子供の野次馬も戸口から顔を覗かせる。
「<火花>、<ワタリガラス>、屋根伝いに逃げるぞ急げ!」
<黒いワシ>は二人を先に行かせ、自分は
村人の一人が、窓枠から屋根に飛び移ろうとしている<火花>に狩猟銃の照準を合わせるのを見ると、<黒いワシ>は弓を素早く引き、狩猟銃の引き金を引こうとするその右手を射た。
射られた男は叫び声を上げて、狩猟銃を落とし、周りの男たちは攻撃されたのを知り、色めき立ち<黒いワシ>に向かって射撃を始める。
弾の速さは自然界にないもので<黒いワシ>たちの命を脅かすものだが、動き回っているものを打ち抜けるほど優秀な狙撃手はいなかった。
<黒いワシ>は仲間の二人が3軒先の家まで辿り着き、森への退路が確保されたことを確認し、二人の後を追った。
その間も銃声と怒声は激しくなる。
<黒いワシ>は軽やかに屋根から屋根へ飛び移り、森へ逃げ込んだ。
「<黒いワシ>、大丈夫か。」
先に森の樹上で待機していた仲間と合流した<火花>が駆け寄ってきた。
「問題ない。」
「すまない、自分が怪我をしたばかりにお前に敵を引き付けてもらってしまって。」
役場の入り口で手傷を受けた<火花>が申し訳なさそうな面持ちで謝る。
「<黒いワシ>!右手を怪我している、あの銀の弾が当たったんじゃないか?」
<ワタリガラス>が驚いて声を上げた。
<黒いワシ>が自分の手を見ると確かに血が流れていた。
疼痛があるが、深い傷ではない。
流れる血をぬぐって木の幹に、円の中にX字、いわゆる誓いの輪を描いた。
「精霊のキバにかけて、あの残虐非道な
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