p4 安倍首相の中東訪問

このあと、イスラム国は空爆の報復として、拘束していた英米人を殺害する


2014年8月19日

米国人記者とみられる男性の殺害映像をインターネットで公開


2014年9月2日

別の米国人記者とみられる男性の殺害映像をネットで公開


2014年9月13日

英国人の人道支援活動家の男性の殺害映像をネットで公開


これに対して英米は「テロに屈しない」とした、強硬な態度を見せた。

2013年6月にフランスジャーナリストが解放された事態とは違ってきた状態を思い、Yさんの行動、素性からその安全を多村は心配した。


2014年10月6日

北大生のイスラム国渡航未遂事件が報道され、今まで遠いところと対岸で見ていたが、なんだか身近な問題として多村は感じられるようになっていた。

北大生の言葉・「非日常の世界に身を置けば充実感が得られるかもしれないと思った」は、動機は違え、何かYさんと同じものを見る思いであった。


11月に入っての麻里子からの情報で長谷部に会ってからは、日本人二人の問題として多村はニュースから目が離せなくなっていた。依然としてGさんが拘束された報道はなされない。外務省、政府はどのようにことを進めているのか気になった。長谷部に電話を入れてみようかと思ったが、思い止めた。


そんな折、新聞は安倍首相の中東訪問を報じた。

2014年12月22日

首相は来年1月16~21日の日程で、エジプト、ヨルダン、イスラエル、パレスチナを訪問する。各首脳らとの会談では、過激派組織「イスラム国」への対応で連携し、中東地域の安定化に協力する方針などを伝えると・・。

 

多村はこんな折に何故?と驚いた。外交予定はもう少し前から詰められていたのだろうが、Gさんの拘束の件が伏せられているのはこれと関係するかと思った。それにしても、何故、Gさんのシリアで行方不明になったことが報道されないのか不思議でならなかった。麻里子ですら察知しているのである。Gさんはシリア内戦で今や売れっ子のフリージャーナリストではないか、今回のシリア行きだってどこかの報道機関の依頼を受けてのものだろうし、帰って来てのアポだって麻里子一社ということもなかろう、長谷部の言う、〈命に関わること〉という圧力なり、ブレーキがかっかっているのだろうか?考えれば考えるほど不思議でならなかった。


そして、年が明け、

2015年1月7日

フランス紙襲撃テロ事件が起き、白昼、警官2名を入れ編集者・記者12名が殺害された。テロ犯人が襲撃し逃亡する映像に多村は衝撃を受けた。9・11でも衝撃を受けたが、何か世界は違う戦争の只中にいる実感が更に身近なものになったと多村は思った。さすが、フランスである。直ぐに反応し、300万人を超す国民が抗議行動を起こした。それにしては、日本は少しのほほんとしてはいないかと思わずにいられなかった。日本ではまだ、拘束されているのは民官軍事会社の得体の知れない人物一人としか思っていない。


これで、首相の中東訪問はひょっとして取りやめになるのではと、多村は思ったが、予定通り実行された。何かこの訪問がおかしい結果を生まないか危惧した。Gさんのことを仮に報道機関が知らなかったとしても、既に日本人一人がイスラム国に拘束されているのは政府も把握していることではないか?この訪問の危惧することを報道は書くべきではないか?Yさんのような少し変な人だから軽く考えていいのだろうか?邦人の命の保護は外務省、政府の大事な役割ではないか、人格で判断されては堪ったものではないと、多村は自分に照らしてもそう思った。外務省の長谷部の考えを是非訊きたいものと思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る