春はあけぼの
「集計は以上です。ご覧の通り、浅倉さん立案で田村くんが主演の『フェンシング・ミュージカル』と、篠原さん立案で田村くんが主演の『秘密の花園』が15票ずつの獲得で同数のトップです。」
春海が集計結果を発表する。
「勝手に俺を主役に据えるなよ!」
田村が吠え、クスクス笑いが教室内にもれる。
「いずれにせよ田村を主役に抜擢するのは決まったとして、どうしたもんかな?」
田宮先生が皆を見回した。
「よくないっスよ!薔薇の名前なんて絶対ヤバいって!!」
田村の泣き言に一同が噴き出した。
確かに、万が一、彼が演じることになったなら、田村の高校生活は暗黒時代と化すだろう。
「それもいいな。」
千秋が呟いたのを真冬は聞き逃さなかった。
“千秋って、結構怖いとこあるかも”
仲間は大切にしよう、真冬は強く誓った。
「田宮先生、おかしいです。票が一票足りません。」
数を数え直していた夏樹が、気がついて言った。
「本当か?間違いないか?」
「ハイ。このクラスの人数は41人なのに、集計した数は全部で40票です。」
「そうか、それは困ったな。どうしたもんかな。ン?そういえばクラス委員長、おまえ自分の分は書いたか?おい御厨、おまえだおまえ!」
「は、ハヒ?そういえば書いてません。」
「ばかもん!ソレだ、ソレ!」
「ぁあーそっかソレかぁ?!」
のん気な春海の素っ頓狂な答えに、教室中に爆笑の渦が湧き起こる。
「流ッ石春海!スイカ頭は無敵だわ」
呆れて真冬が呟く。
「ヒー!春海の天然ったら最高w」
千秋など涙ぐみながら手を叩いて大喜びしている。
「千秋、笑い過ぎだよ。」
真冬も釣られて笑い出す。
「真冬だって笑ってるじゃない。あー可笑しい!」
千秋と真冬は肩を叩き合って、ついには涙を流して大笑いし始めた。女子高生は、こうなるともう誰にも止められないのだ。
生徒らの笑いがひと段落すると、田宮は両手で皆を制し、
「君たちのリーダーに春を選んでしまった俺の責任だ。みんな許してくれ。」
と、謝罪した。
「しょんなぁー。」
春海が情けない声を出し、生徒たちのクスクス笑いが止まらない。
「今更、無記名投票しても仕方ない。御厨、おまえならどっちを選ぶ?」
「あたしはそのお色気お花茶屋カフェがいいかな〜って」
「ダメだ。“ミュージカル”か“映画”か、どちらかで選べ!」
田宮が二択で決断を迫る。
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