春はあけぼの
「うーん、それじゃあ私は歌謡曲が大好きなので、『会いに来れるアイドル公演』を。〇〇坂みたいにみんなでフリフリのドレスを着て歌って踊るの!」
基本的に歌って踊るらしい。
「今度は俺たちが女装するのか!?」
さっきの男子が質問する。
「あなたならきっとフリフリのドレスも似合うと思うわよ。」
真冬はにっこりと微笑んだ。
「いいぞ田村、この男殺し!」
男子を応援する?ヤジが飛ぶ。
田村と呼ばれた生徒は、苦笑して黙り込んだ。
「では次、篠原さんお願いします。」
春海が続けて指名する。
「ハイ。私は以前『櫻の園』って映画を観て、こんな映画を作ってみたいなってずっと憧れていたので、短編映画の製作と上映をしてみたいです。」
「でもさぁ、脚本とか、編集とか、時間が掛かるんじゃないか?来月末までには、間に合わないんじゃないかな?」
隣の男子が異論を掲げる。
「脚本なら、幾つか書き貯めてるのがあるから任せて!」
千秋が胸を張った。
「頼りになる!」
真冬が唸る。
「例えばどんなお話ですか?」
春海が尋ねる。
「お勧めはやっぱり学園物かな。『秘密の花園~The Seacret Garden~』ってタイトルなの。中身は全然違うけど、フランシス・バーネットの『秘密の花園』からインスパイアされたの。」
「いいかも〜!」
早くも周りの女子達の心を掴んだ様子である。
「あらすじを簡単に聴かせてもらってもいい?」
春海の進行役もなかなかサマになってきた。
千秋が頷いて続ける。
「いいわ、みんな聴きながら頭の中で想像してみて。
舞台となるのは、聖バレンタイン学院高等部。解体が決まっている旧木造校舎の裏手には、代々園芸部の女生徒たちが手塩に掛けて世話をしている秘密の花園があるの。男子禁足の聖地よ。
何故、秘密の花園と呼ばれるのかには、所以があるの。
彩り艶やかな薔薇の生垣に挟まれた潜り戸を抜け、そのまま藤棚のアーチを抜けてゆくと、色鮮やかな花々が競い合うかの様に咲き誇り、その濃密な香りに誘われた蝶や蜜蜂がせわしなく飛び回っているのよ。
花園には、活き活きとした生命の息吹きが満ち溢れており、まるでこの星の小世界を表わしている様だわ。
少女たちはこの美しき楽園で、彼女たち独自の世界を築いているのよ。
ここには幾つかの暗黙のルールが在るの。
一つ、花園で交わされた会話は、外部にはけして漏らしてはならない。
一つ、花園に、噓偽りを持ちこまない。
一つ、花園では、お互いを花の名で呼び合う。
一つ、花園には、年功序列はなく、皆が平等である。
但し、例外は存在するの。
卒業式の日、園芸部の卒業生は在校生の中から唯1人薔薇の名前を持つ者を任命する。
新たに入ってくる新入生の花の名は、その年選ばれし薔薇の名前を持つ者が命名する。
拝命した花の名は、薔薇の名前を与えられる場合以外は変えることはならない。
新しい薔薇の名前の命名は、卒業する薔薇の名前を持つ者の最期の仕事となる。・・・オチはまだ内緒。」
ここまで一気にまくし立てた千秋が、休んで呼吸を整えた。
「凄い、素敵だわ、千秋!本物の作家さんみたい!」
真冬が感動して素直な気持ちを伝える。
「演劇部に頼まれたりして、脚本書いたりした事はあるから。でも、このお話は舞台劇よりも、ロケーション映えするお話だなって思っていたの。」
なるほど、それなりに経験は積んでいる様である。
「俺もいいあらすじだとは思うけど、まさか篠原、俺たちにまた女装しろなんて言わないよな?」
さっきの田村が怯えた目で問い掛ける。
「田村くんなら、制服のスカートがとっても似合いそうネ!」
今度は千秋が優しくにっこり微笑む。
「いいぞ田村、いよっ千両役者!」
周りからも合いの手が入る。なかなかノリのいいクラスだ。
「冗談言うな。勘弁してくれ〜!」
田村が悲鳴を上げ、皆から笑い声がもれた。
「うふふ大丈夫よ。花園以外の場所でなら男子の出番は作れるし、映画作りの現場や裏方の作業は、男の子達に特に頑張ってもらわなきゃいけないもの。」
千秋が、今度は真面目な顔で男子達に向けて語り掛けた。
“千秋はお嬢様育ちで顔立ちも可愛いし、性格的にも男の子達に好かれそうだなぁ”
夏樹は漠然とそう感じた。
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