春はあけぼの

「あーコラコラ、春と夏。元気なのはいいが、もう少し控えめにやってくれ。」

田宮先生が苦笑いして指導する。


「すみません、つい思わず。」

夏樹が神妙に謝る。


「ひどいよ夏樹ィ。」

春海にも元気な声が戻って来た。


「ゴメンゴメン悪気は無かったんだ。ほらボクの姓は浅倉じゃない。最初によくクラス委員長やらされる事も多いもんだからさ。」

経験者による援護射撃という訳である。


「流石夏樹、体育会系ギャグ!」

真冬が感心する。


「え、今のギャグなの?!」

お嬢様学校である水仙女学苑出身の千秋が吃驚する。


「流石千秋、お嬢様はコントは観ないか。」

真冬が変な納得をして頷く。


「罰として浅倉さん、何か意見ありませんか?」

調子を取り戻した春海が、ビシッと夏樹を指名する。


「えーっとですね、ボクは学園物でフェンシング部を舞台にしたミュージカルをやりたいです。」

剣道有段者でボーイッシュな夏樹が、彼女らしい提案をする。


「浅倉!俺たちに一体何をさせようって言うんだよ!?」

勘のいい男子のひとりが異論を掲げた。


「決まってるじゃない。みんなで歌って踊るんだよ。勿論、女の子は男装をしてね。」


無言の春海が、黒板に『フェンシング・ミュージカル ただしイケメンに限る』と、大きく書いた。


クラス内にオォーッ!と二度目のどよめきが巻き起こる。


「・・・夏樹の隠された趣味が、今判った気がする。」

千秋が笑いを堪えて振り返る。


「うん、あたしも。」

真冬も追随した。


「女子校でも、クラスに何人かはハマってるコがいたもん。」

千秋が続けて呟いた所で、


「はいそこ、篠原さんと白河さん!相談してもう決まったかな?早速ふたりとも発表してください。まず白河さんからお願いします!」

前から春海の声が掛かった。


「春海めェ!」

「やられた!」

千秋と真冬が顔を見合わせる。



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