春はあけぼの
「わーい見て見て!本当に真っ白な雪をかぶってるみたい!」
春海が無邪気な仔犬みたいに駆け出していく。
「ほら春海ィ、おべん持って転ばないでよ!」
慌てて夏樹が声を掛ける。
「あはは、夏樹ったらお母さんみたい。」
真冬が屈託なく笑い転げる。
「でも初めてあれを観たらああなっちゃうよねぇ。」
千秋が今朝の自分を思い出して呟いた。
「ウン。ボクもあの娘の気持ちはよく解る。真冬はよく行かないね?」
夏樹が今度は真冬に尋ねる。
「わたしの場合、父の実家が秋田の角館っていう小京都で、それは綺麗な桜が満開に咲くの。冬には真っ白な雪が茅葺き屋根に積もってとても幻想的で綺麗なんだぁ。小さい頃には、ひとりで預けられてた事もあるから、慣れちゃってるのかもな。」
真冬は、遠く離れた田舎の四季を思い返して、とても懐かしそうな表情をした。
何やら込み入った事情もありそうだ。
「そっか。だから真冬はのんびり屋さんで穏やかなんだね。私は生まれも育ちもこの街で、ママもこの学校を卒業したもんだから、よくここの思い出話を聴かされて育ったんだぁ。だから、あの雪桜には凄く愛着があるんだなぁ。」
釣られて千秋まで遠い目をしている。
「ハイッ!ふたりともトリップから目を覚まして!さぁ、みんなでお花見を始めるよ!」
パンッ!夏樹が大きく手を叩いて仕切り直すと、たちまちふたりを現実に引き戻した。
「ヤバいヤバい。思わずあっちの世界に行っちゃってたww」
真冬が苦笑いして誤魔化した。
「いけない。あたしも釣られてたww」
千秋も続いてきゃっきゃと甲高い声で笑い合った。
「オーイ何してんの〜!?早く来ないと雪桜溶けちゃうヨ!みんなこっちにおいでヨォォ!」
向こうでは待ち兼ねた春海が手招きして叫んでいる。
「もぉ溶けちゃうワケないじゃん!今行くゥ!」
「アーッ食いしん坊!ひとりで食べ始めちゃダメだからねェー!」
「ちょっとォズルい!ボクの分も残しておいてネ!」
3人同時に顔を見合わせると、思い思いに叫きながら、春海の後を追って雪桜の樹の下へ駆け出した。
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