乙女ゲー翔ける男子高生

@hurahura

第1話

「みんな、乙女ゲーを作ろう」


 放課後の情報室。石根技昴はパソコン部の部員、そして幼馴染である大福大和と桃野勇丞を集めて言った。


「何なんですか。いきなり乙女ゲーだなんて」


 勇丞がメガネを下がり気味の眼鏡を押し上げながら昴を見る。


「作るにしてもよぉ、俺は乙女ゲーよりエロゲー作りたいぜ。はぁ〜おっぱい揉みてぇ」


 ニヤニヤと大和は冗談っぽく笑い、乳を揉む動作をする。

 勇丞は「やめなさい」と呆れ気味に言うが、僅かに笑っていた。

 いつものやりとり。高校生の健全な会話である。彼ら緑徳男子高校パソコン部はこの様な会話をして毎日を笑いながら過ごしている。

 しかし今日は違った。

 部長の昴が肩を震わせた。そして悲しくなる大きなため息の後、床がしなるくらいの勢いで土下座した。


「ちょっどうしたんだよ昴! 何で土下座を」


「そっそうですよ! 如何したんですか昴!」


「大和……勇丞……すまん。全て俺のせいなんだ……」


昴は床に頭をつけたままポツポツと語り出した。


「昨日の放課後、お前らが帰った後だ。俺はこの情報室である海外サイトにアクセスした。そして動画をダウンロードしようとしたんだ」


「おい昴。まさかそれってエックス……」


 昴は沈黙。無言の肯定である。

 大和と勇丞は察した。


「で、動画をダウンロードしようとして如何したんですか? まさかバレたんですか? 」


勇丞はヤレヤレといった感じでため息をついた。


「……その通りだ。ダウンロード中に顧問の吉永が来たんだ。それであの野郎「廃部ね」とか言い出したんだ」


「「廃部⁉︎」」


 大和と勇丞の声が重なり、2人は顔を見合わせた。

 昴は「すまん」と言って続けた。


「俺は抵抗した。廃部だけは止めてくれって」


「俺も廃部は嫌だぜ! 情報室が使えなくなったらどこでエロゲーすればいいんだよ! 」


「家ですればいいでしょう。昴、それでどうなったんですか? 」


「あぁ、吉永はある条件を出してきた。七月の末だ。その間に何か大きな成果を残せば廃部はしないと言っていた」


「なるほど……七月ですか」


勇丞は情報室の壁に貼られたカレンダーを見た。


「今日は三月二十日。残された時間は大体三ヶ月ぐらいですね」


「あぁ。俺はその三ヶ月間にパソコン関連の何か大きなイベントがないか調べた、結果俺は乙女ゲームコンペティションという大会を見つけたんだ」


「乙女ゲームコンペティション……あぁそれ知ってるぜ。妹が前に言ってたやつだわ。オトコンって言われてる奴だな」


「そう。オトコンは最近始まった大会で高校生や若手のゲームクリエイターが参加する大会らしい。七月までにある大きなイベントはこれだけだった。だからこれに出て成果を出せれば、廃部は免れる……本当にすまん」


昴は震えながら言った。

それを見て大和と勇丞は昴の肩を優しく叩いた。


「そういう事だったんですね。昴、顔を上げてください」


「勇丞……」


「お前が土下座するから何事かと思ったが、んな小さい事だとはよぉ。要は俺たちがオトコンで何か賞を取ればいいって話だろ。そんくらいなら出来るだろ。任せろって」


「大和……」


昴は顔を上げた。その目は少し赤い様に見えた。


「勇丞、大和……一緒にオトコンに出てくれるか?」


「当たり前ですよ。この部活は気に入ってますし」


「だな。それに腐れ縁のお前の頼みだ。断れねえよ」


 勇丞と大和は昴の肩をグイッと上げ、立ち上がらせた。

 昴の表情は先程の暗鬱としたものとは打って変わり、晴れ晴れとしたものになっていた。


「ありがとう……頑張ろうぜ!」


 勇丞、大和は頷き、力強く「あぁ」と言った。

 ちょうどその時、カーテンの隙間から夕陽が入り3人を照らした。

 それはこれから彼らが作る乙女ゲームの始まりの一場面だった。

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