4.絹糸の織りゆく道-3

「ヤンイェン殿下……」

 唐突に出された名前に、クーティエは呆然と立ち尽くした。

 絶句する彼女の耳に、冷然としたハオリュウの声が響く。

「そもそも、『ライシェン』に関わることを、父親のヤンイェン殿下抜きで考えてはいけないんだ。ご機嫌伺いと称して、彼に会いに行こうと思う」

「――そう、よ……ね」

 セレイエの事実上の夫で、『ライシェン』の父親――ヤンイェンは間違いなく、重要人物だ。しかも、〈天使〉に詳しい。是非とも、協力してもらうべき相手といえるだろう。

 現にクーティエだって、『ライシェン』が王宮に行けば、ヤンイェンが保護してくれるはずだ、と言ったばかりだ。

「……でも、すんなり、お会いできるものなの?」

 それは、素朴な疑問だった。

 以前から、ルイフォンたちが『ヤンイェン殿下に、『ライシェン』のことを知らせなければ』と言いつつ、なかなか実行に移さないので、なんとなく、簡単には会えない人のような印象があっただけだ。

「――……っ」

 ハオリュウの息遣いが、わずかに乱れた。

 それは、気配に敏感なクーティエだからこそ、分かった程度の、些細なものだった。けれど、彼女は、彼が不快に思ったのだと感じ、慌てて弁解するように続ける。

「ごめんなさい! あ、あのね、ハオリュウは貴族シャトーアなんだから、王族フェイラに会うことができるのは分かっているの。それに、ヤンイェン殿下とは親しかったんでしょ? 一緒にお茶くらいしても、おかしくないと思う。――でも、ヤンイェン殿下の周りって、摂政殿下が目を光らせているんじゃないの? ほら、殿下たちは政敵ライバル同士なわけで……」

 自分で言いながら、クーティエは、はっと顔色を変えた。

「ちょっと待って! 脅迫している真っ最中のハオリュウと、政敵ライバルのヤンイェン殿下が会っているのが摂政殿下にバレたら、ふたりが結託して自分に逆らおうとしている、って考えるんじゃないの!? それって、まずくない!? 緋扇シュアンが殺されちゃう!」

 クーティエは盛大に取り乱しながら、ハオリュウに迫る。

 対して、ハオリュウは、柔らかな苦笑で肩をすくめた。

「勿論、ヤンイェン殿下との面会が秘密裏に行われるよう、いろいろと手を回すつもりだよ」

 ハオリュウの声は、とても平静だった。しかし――否、『だからこそ』、クーティエは胸騒ぎがした。

「いろいろ手を回す、って……。それって、やっぱり、危険だってことじゃない!?」

「そりゃあ、僕の生きている世界は、魑魅魍魎の棲み家だからね」

 穏やかに見える善人顔で、ハオリュウが微笑む。

 刹那。

 クーティエの中で、何かが弾けた。

 向かいのソファーへと駆け寄り、自分の手がハオリュウを目指して、まっすぐに伸びていくのを、まるで他人ごとのように見つめる。

「そんな言葉で、誤魔化さないでよ!」

 彼の服に手が触れる――その直前で、彼女は掌を握りしめ、かろうじて彼との接触を回避した。

 彼に掴みかかろうとしたのか、すがりつこうとしたのか。どちらなのかは、彼女自身にも分からない。だが、彼女は、彼に触れていい立場ではないのだから……。

 ぎりぎりのところで自分を制したものの、勢いを殺しきれずに、彼女はソファーに倒れ込む。

 その際、布地の座面に染み込んでいく、自分の涙が見えた。慌ててうつむき、結い上げていない長い髪で、さっと顔を隠す。

 怖かった。

 ハオリュウが、知らないところに行ってしまいそうな気がして、恐ろしくなった。

 だから、引き止めたくて、体が動いた。

 スプリングをきしませ、ソファーに転がり込んできたクーティエを、ハオリュウが驚いたように見つめる。当然だろう。彼女の行動は、充分すぎるほどに不可解だったのだから。

 彼女は、ぐっと腹に力を入れ、涙をき止めた。彼に気付かれないように目元を拭い、何ごともなかったかのように彼の横に座る。

 そして、彼の胸に向かって、彼女の直感を叩きつけた。

「ハオリュウの言っていること、どこかおかしい!」

 突然の叫びに、ハオリュウが狼狽する。

「ひとつひとつは、ちゃんと合っているの。大賛成はできないけど、ハオリュウが〈天使〉になることは有効な作戦だって認めるし、『ライシェン』のことをヤンイェン殿下と相談すべきなのは正論。殿下とは、こっそり会わなきゃいけないのも、その通りだわ」

 ハオリュウは聡明だ。たった十二歳で貴族シャトーアの当主の座を継いだにも関わらず、既に先代以上に領地を盛り立てている。彼の思考は、常人のそれとは明らかに違う。

 しかし……だ。

「ハオリュウは間違っている! ひとつひとつが正しくても、無理やり繋ぎ合わせているから、ちぐはぐだわ! ……剣舞だってね、ひとつひとつの動きが良くても、全体のバランスが悪かったら、いい演技にはならないの! それと同じよ!」

 斬りつけるように言い放った瞬間、クーティエの頭に、今のハオリュウを表す、的確な言葉が閃いた。

「――そうよ! ハオリュウは、暴走しているのよ!」

 間違いない。

 これは『暴走』だ。

 一見、彼が冷静に見えるから、惑わされた。

 本当は、シュアンを危機に追いやった自分を追い詰め、暴走――そして、迷走していたのだ。

「今、一番、大事なことは、一刻も早く、緋扇シュアンを助けることでしょ! だって、酷い暴行を受けているはずだ、って言っていたじゃない!」

 びくり、と。ハオリュウの体が震えた。その動きにあわせ、服に織り込まれた流水文様が、波紋を描くように絹の光沢を波打たせる。

 クーティエは、ぐっと顎を上げ、貫くような瞳で彼を見上げた。

「〈天使〉になるのが有効な手段だとしても、〈天使〉化をヤンイェン殿下を頼るのは、現実的な策じゃないわ。お会いするための根回しに時間が掛かる上に、摂政殿下にバレたときには緋扇シュアンが殺される」

 ハオリュウは押し黙ったまま、硬い顔でクーティエに視線を落とす。

「ヤンイェン殿下は重要人物だけど、彼に会うのは『今』じゃない。――〈天使〉になるなら、やっぱり、メイシアを頼るべきよ」

「……でも、姉様は、僕が〈天使〉になることを絶対に許さないよ」

「私が、メイシアを説得する」

「無理だ」

 にべもない反論は、クーティエの予想通り。だから、かぶせるように切り返す。

「メイシアに、『〈天使〉になる方法を教えてくれないのなら、じゃあ、どうやって緋扇シュアンを助ければいいの?』って訊けばいいいだけよ」

「なっ……、姉様を脅迫するつもりか!?」

「脅迫なんかじゃないわよ、ただの相談よ。メイシアだけじゃなくて、ルイフォンにも考えてもらって、一番いい作戦を採用するの。それで、ハオリュウが〈天使〉になるのが一番の名案だ、ってなったら、そのときはメイシアも教えてくれるはずよ」

 賢いくせに、異母姉あねに対して、どこか過保護なハオリュウは、こんな駆け引きも思いつかなかったらしい。……とはいえ、クーティエだって、『俺が名案を思いつけば、ハオリュウは乗り換える』という、ルイフォンの言葉を借りただけ。――要するに、皆で額を寄せ合って、一番いい方法を選べばよいというだけだ。

「駄目だ」

 静かに、けれど、きっぱりと。ハオリュウの否定が響いた。

「これは、僕が蒔いた種だ。僕が、シュアンを危険な目に遭わせているのだから、姉様やルイフォンを頼るのはスジ違いだ。――『僕』が! 『この手』で! シュアンを助けなければいけないんだ!」

 ハオリュウの闇が、ぶわりと広がる。

「違うわ! 『ライシェン』を手に入れたい摂政殿下が、ハオリュウや緋扇シュアンを利用しているだけよ! そして、『ライシェン』は、ルイフォンとメイシアに託されているんだから、ふたりは立派に当事者だわ!」

 クーティエは、ハオリュウに負けじと声を張り上げ、更に畳み掛ける。

「それに、ハオリュウは『ライシェン』の情報と引き換えに、シュアンを返してもらうこともできるのに、鷹刀のために、それをしない。だったら、鷹刀一族総帥曽祖父上や、次期総帥リュイセンにぃにだって、協力してもらっていいはずよ!」

 ハオリュウが『ひとり』で背負う必要はないのだ。

 クーティエは、強い眼差しで彼を呼ぶ。一緒に草薙家うちに来て――と。

 しかし、彼は、ゆっくりとかぶりを振った。

「僕は、シュアンに対して責任がある。カイウォル殿下の思惑はどうであれ、僕のせいでシュアンに危害が加えられていることに変わりはない」

 ぴんと張られた絹糸けんしの輝きで、ハオリュウは告げる。

 その言葉も、覚悟も、クーティエは美しいと感じた。権力者嫌いのシュアンが、貴族シャトーアの当主であるハオリュウに人生を――運命を預けるのも、もっともなことだと思う。

 だからこそ、この美しくも、もろく儚い糸が切れないように。――クーティエは守るのだ。

「……ねぇ、ハオリュウ」

 彼女は見えない絹糸けんしを握りしめ、自分のほうへと手繰たぐり寄せる。

「ハオリュウは、自分が苦しんだり、辛い思いをしたりすることが、責任を取るということだと思っているみたいだけど、私は違うと思う。だって、そんなの、緋扇シュアンにとっては、なんの得にもならないもの」

 ハオリュウには、自己犠牲を好む傾向きらいがある。

 一生、残る足の怪我だって、異母姉メイシアを幸せにするために『ひとり』で無茶をしたためだ。

 けれど、ハオリュウが傷ついても、誰も喜ばない。皆、ハオリュウのことが大切なのだから。

「ルイフォンは、なんの手立てもないときには、緋扇シュアンを脱獄させようと考えている。でも、『お尋ね者になっちまうから、あまりいいじゃない』って言っていた。――それを聞いて、はっとしたの。ただ助けるだけじゃ駄目なんだ、って思った」

 ハオリュウが目をまたたかせた。クーティエの真意を探るように、彼女の顔を凝視する。

 刺すような視線に、クーティエは一瞬だけ、ひるんだ。けれど、深く息を吸い込み、体の芯に力を入れる。特別な剣舞を披露するかのように、全身に心を込める。

「ハオリュウが、緋扇シュアンに対して取るべき責任。……それは、彼を助けたあとも、彼が今までと変わらずに暮らせるようにしてあげることだわ」

 静謐な書斎に、クーティエの声が広がった。

「日陰者の生活なんかじゃなくて、ハオリュウのそばで堂々としていられること」

 刀を帯びたように鋭く、舞うように鮮やかに。

「あの胡散臭い顔で、ずっと笑っていられるようにしてあげること……」

「――!」

 ハオリュウの目が見開かれた。

「だって、あいつ、ハオリュウのことが大好きだもの!」

 畳み掛けられた言葉に、高い襟で覆われたハオリュウの喉が、こくりと動く。

 それを視界に捕らえつつ、クーティエは更に重ねた。

「今の緋扇シュアンは『死刑の決まっている犯罪者』なの。そんな彼を助け出して、元通りの生活を送れるようにしてあげるって、凄く難しいと思う。……ハオリュウは誰にも頼りたくないかもしれないけど、人手は多いほうが、採れる作戦の幅が広がるはずよ。ルイフォンは情報に強いし、鷹刀の人間は武術にけている。人脈だって、たくさんあるわ」

 そうでしょ!?

 直刀の瞳が、まっすぐに告げる。

 刹那、ハオリュウは貫かれたかのように、びくりと体を震わせ、次の瞬間には、目の前の机に強く拳を打ちつけていた。

「僕は……、愚かだ……!」

 黒絹の髪に指を滑らせ、頭を抱えるようにして呟く。

「シュアンのことを一番に考えるべきなのに。彼のことを思うなら、あらゆる手を尽くすべきなのに……。狭い視野で……」

 ハオリュウは、そこで口を閉ざし、首を振った。今は、そんなことを言っている場合ではないのだと。そして、うつむいた姿勢から顔を上げ、彼女の名を呼ぶ。

「クーティエ」

 その眼差しには、挑むような光が宿っていた。

「今すぐ、僕をあなたの家に連れて行ってほしい。ルイフォンたちの力を借りたい」

「勿論よ!」

 クーティエは、喜色を満面に浮かべる。大きく頷いた彼女に、ハオリュウは少し気まずげに続ける。

「けど、誤解しないでほしい。僕が〈天使〉になるという策を捨てたわけじゃないんだ。今でも、最善手だと思っている。ただ、例えば〈天使〉化に何日も掛かったりするのだったら、別のを考えないといけない。だから――」

 ハオリュウの顔つきは、別人のように変わっていた。

 先ほどまでの、闇と同化した、暴走した彼ではない。しなやかに闇を従える、冷静な絹の貴公子――いつものハオリュウだ。

「幾つもの可能性を考慮して、幾つもの策を用意して、最善の方法でシュアンを助ける。そのために、皆の知恵を借りたいんだ」

 そう言っている間にも、彼は既にソファーから立ち上がっていた。絹地の裾が翻り、流水模様が広がる。風が巻き起こる。

 ハオリュウは執務机に置かれた携帯端末を手に取り、誰かに連絡を入れた。どうやら、相手は執事らしい。数日、屋敷を空けると――その間、藤咲家の当主は、部屋に籠もりきりであるように装ってほしいと告げていた。

 彼は通話を切ると、ふと、執務机と向き合うように置かれた椅子に視線を落とした。クーティエは知るよしもないが、それは、シュアンがハオリュウの書斎を訪れるときに、いつも決まって座る椅子だった。

「クーティエ……。シュアンは、僕のそばにいると誓ってくれたとき、『俺に『穏やかな日常』は、似合わねぇからよ』と言ったんだ」

 唐突な話に、彼女は『え?』と戸惑いの声を上げそうになった。けれど、すんでのところで「うん」という相槌に切り替えた。ハオリュウが、ただ聞いてほしいのだということに気づいたからだ。

「僕は子供で、何も分かっていなかった。だから、そばにいてくれると言われたら、嬉しくて、『ありがとう』と素直に喜んだ。あまつさえ、『対等な友人でありたいから』などと言って、警察隊を続けるように頼んでしまった。……本当に馬鹿で、愚かだ。――覚悟の欠片かけらすらなかった」

 吐き捨てるように、ハオリュウは言う。

「シュアンは腹を決めて、僕のそばにいると誓ってくれたんだ。だったら僕は、対等なんて言葉に甘えず、腹をくくって彼の人生を預かるべきだった」

 ハオリュウは、ぎりりと奥歯を噛んだ。

 口元が、悔しげに歪む。

「シュアンが『穏やかな日常』を捨てる必要はない。僕のそばにいることで、何かを捨てるくらいなら、僕のそばになんかいないほうがいい。――彼が僕のそばにいてくれるというのなら、僕には、彼に『穏やかな日常』を与え、彼を幸せにする義務がある」

 力強く響き渡るハオリュウの声は、比類なき王者の光沢を放つ、絹のよう。

 それももろく儚い、たった一本の糸などではない。数多あまたの思いの絹糸けんしを縦横に織り重ねた、すべらかで柔軟な絹織物である。

 ハオリュウは、クーティエの姿を瞳に映す。

 そして、誓う。

「僕は、僕に運命を預けてくれたシュアンに、幸せを贈る――!」



 奈落の闇に沈む、幽寂な夜に、カタカタと叩きつけるような音が響き渡る。

 ルイフォンは、ひたすらキーボードに指を走らせ、シュアンの逮捕に関する情報を黙々と集め続けていた。OAグラスの下の目は血走り、無機質な〈フェレース〉の顔が、モニタ画面に照らされて青白い光を帯びる。

 そんな彼のもとへハオリュウからの連絡が入ったのは、クーティエが草薙家を発ってから、小一時間ほど過ぎたときのことであった。

『ルイフォン、力を貸してください。僕は、なんとしてでもシュアンを取り戻したい。それも、彼がこの先、幸せに暮らしていけるような方法で』

 険しさをはらみながらも、凛と澄んだ力強い声だった。シュアンの逮捕を知らせたときとは、雲泥の差である。

『今、草薙家そちらに向かう車の中です。詳しい事情はこれからお話しますが、それより先に、シュアンの状況を教えてください。あなたのことですから、監視カメラは、既に支配下にあるのでしょう?』

「……っ」

 ルイフォンは狼狽した。勿論、ハオリュウの言う通り、監視カメラなら、とっくに掌中に収めている。しかし、事態を正直に告げてよいものか迷ったのだ。

『ルイフォン』

 惑う彼の耳朶に、硬い声が重ねられた。対面ならいざ知らず、携帯端末越しであるにも関わらず、まるでこちらのためらいが見えているかのような口調だった。

『シュアンは、理不尽な暴行を受けているはずです。死刑囚を収容する監獄の看守は荒っぽく、憂さ晴らしに囚人を嬲り殺しにすることもあると、シュアンから聞いています』

「……」

 ルイフォンは唇を噛んだ。

 けれど、迷いは消えた。むしろ、ありのままを伝えるべきだと思った。彼は癖の強い前髪を掻き上げ、静かに口を開く。

「結論から先に言う。シュアンは無事だ」

『よかっ……』

 安堵の息をつこうとしたハオリュウを、ルイフォンは鋭く遮った。

「けど、ついさっきまで、酷い暴行を受けていた」

『――っ!』

「様子を見に来た摂政が気づいて、医者を呼んだ。……あと少し遅ければ、死んでいた」

『…………』

 押し黙ったハオリュウに、ルイフォンは淡々と告げる。

「今後は、摂政が目を光らせているだろうから、シュアンが暴行を受ける心配はないだろう」

『……報告、ありがとうございます……』

 ハオリュウが硬い声で答えると、ルイフォンは、ぐっと腹に力を入れた。

 そして、伝える。

 間違っても、ハオリュウを責めているように聞こえないように。努めて冷静に、細心の注意を払いながら。

「……ハオリュウ。シュアンは看守たちを煽って、必要以上に自分に危害を加えさせていた」

『えっ!?』

「あいつは、死のうとしていた」

『なっ!? どうして……』

 それは、とても正視に耐えない光景だった。

 監視カメラを乗っ取った瞬間、メイシアは情報屋との電話中で、あの映像を目にしなかったのは本当に幸いだったと思う。

 それでいて、当のシュアンは、へらへらと笑いながら、時々、カメラに向けて視線を送ってくるのだ。ルイフォンが見ていることを信じて疑わず、あとを頼んだと、片目の腫れ上がった三白眼で訴えてきた。

「シュアンは、お前の枷になりたくなかったんだ。自分が囚われれば、お前が窮地に陥る。それが分かっているから、自ら命を絶とうとした。そして、監視カメラを使って、自分の死という情報を俺に伝えようとしていた」

『…………!』

「とんでもない馬鹿で、お人好しだ……! ……ハオリュウ、絶対に、シュアンを助けるぞ!」

 冷静であろうとしていたはずなのに、気づいたら、ルイフォンは熱く叫んでいた。

 そして、それとまったく同じ言葉が、携帯端末の向こうでも――。

『シュアンは、必ず、助けます!』

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