十月桜編〈のちの形見に……〉

 ――思川静香の店、『十月桜』

 数分後、緋織が写真を手にしたまま、奥のボックス席で薫さんに慰められ、そして護さんはハンカチを手に、少し赤くした目をして頭を抱え、その隣にさくらが裕貴と座り、向かいに静香が涼香と並んでカウンターの中に立っていた。


「ゆーき……は知っていたのね」

「まあ……ね。野尻湖の花火大会の時、緋織さんに聞いていたんだ」


「そう、さくらも何となくは気が付いていたけど、護ちゃんも話してくれなかったから、何か事情があるんだろうな……って思ってたの」

 さくらを背負ってホテルへ行く時、緋織さんから近しい匂いがする、と呟いていたのを思い出す。


「うん。護さんも緋織さんも“大変な事情を抱えていて”、さくらが目覚めてリハビリするのに、悪影響を与えないようにって黙っていたんだ」

「そうなんだ……でももう大丈夫だから打ち明けて欲しいな」

 さくらが護さんを見つめる。


「…………」

 だが護さんは応えない。

「ふん。護、あなた仕事のはかりごとを考えてる時は強気なくせに、さくらの前じゃずいぶんと臆病なのね」

 静香さんがイラだったように護さんを見つめる。


「仕方がないと思うけど……」

「そう、ならいいわ。護ちゃん、無理に聞かないから決心がついたら教えてね?」

「……すまない、さくら」

 護さんが謝る。


「護ちゃん、一つだけ聞かせて」

「なんだい?」

「ママは生きているの?」

「いや、緋織を生んですぐに亡くなったそうだ」


「そう……なんだ……………………お墓とかはあるの?」

 さくらは一瞬顔を曇らせ、少し間をおいて聞き返す。

「生まれた国、ロシアの生家の近くにあるという事だ」

「そっか。……またいつか緋織さんと行ってみたいな」

 寂しそうにそれだけ答えると、うなだれてしまう。


「さくらは何を気を使ってるのよ。そんな顔するならもう少しつっこみなさいな」

「いえ、護ちゃんは必要ならちゃんと教えてくれるから、……それにママの名前も知れたし、肉親が居ると判って……そしてこの服があるだけで今は充分です」


「全くお人好しなんだから。……はぁ、もうちょっとあんた達をいじりたかったけどいいわ。三人の泣き顔が見れただけで今は勘弁してあげる」

 黙っている二人を見て、静香さんがため息をつく。


「……ママ、三人が嫌いなの?」

 涼香が悲しそうに静香の袖をつまむ。


「ええ。悩みや不安を人一倍抱えているくせに、全部飲み込んで、さらに他人を思いやるなんて余裕を見せてる所が大嫌いよ」

 静香さんがディスりながら褒めるという高等テクを見せる。

「そっか。だからママは本音を引き出してあげたかったのね」


 さらにその真意まで理解した涼香が、うれしそうに抱き付く。

「ついでに自分を犠牲にして人をフォローする涼香のそういう所も嫌いよ? そういう所は直してもっと自分本位に行動なさい」

 静香さんが俺をチラ見して、涼香の頭を撫でながら嬉しそうに言う。

「無理。ママの娘だもん♪」


「あんたって……」

 静香さんが涙ぐんで抱き返す。

 よかった……。

 厚い氷河が融けたような展開に、俺も目頭が熱くなる。


「……さくら、これでも飲んで気分を上げなさい」

 その後、上機嫌になった静香さんが、沈んでいるさくらを見かねて、地場産の貴腐ワインを出してやる。

「うわあ、とっても甘い~~」

「すごいね。濃いブドウの香りが隣に居ても分かるよ」


「うん。ハチミツみたいに甘いのに全然しつこい甘さじゃないの~~」

 さくらが嬉しそうにグラスを示す。

「へえ、俺も早く飲めるようになりたいな」

「うふふ、その時はさくらも一緒に飲みたいな~~」

 そんな風にさくらと他愛もない会話をしていたら緋織さんが近づいてきた。


「お母様、服を見つけて、――残して頂き感謝します」

 緋織さんが深々と頭を下げた。

 緋織さんは誰にやってもらったのか、髪を三つ編みにして、フリルのついた白いスカーフを三角に折って、その三つ編みを覆うように、前髪の少し後ろからうなじでまとめていた。


「緋織さん綺麗、さくらも同じにしたいな~~」

「赤いスカーフが奥にあるわ。涼香、探してやってあげて」

「ほんと~~? うふふ、ひーちゃんとおそろい~~♪」

「姉さん……」

 緋織さんが照れたように戸惑う。


「じゃあちょっと探してくるね」

 涼香がそれを見届けて、うれしそうに奥へ行く。

「緋織も礼には及ばないわ。それより護、あなたに一つだけ言っておくわ」

「……なんだね」


「さくらを思いやって、この期に及んで黙ってるんでしょうけど、女はそんなにヤワじゃないわよ」

「……どういう事だね?」

 護さんの懸念は、オフィーリヤさんが娼婦だった事と、心を病んでいて、それにさくらが関係していたかもしれない事だと感じた。

 そして護さんの心配は、俺も考えた事なので一瞬ドキリとする。


「それぐらい自分で考えなさい」

「お母様……」

 緋織さんが護さんと見比べつつ、困ったように呼ぶ。

「……でもそうね。一つアドバイスするわ」

「聞こう」


「バラはね、どこで育ったってバラなの。温室だろうと野山であろうと、育ち方に違いは出ても、成長する意志さえあれば、いつかはバラの花を咲かせるの。それ以外の花は咲かないのよ」


 ――『人の本質は変わらない』か、……深い。


 俺と涼香の強さを信じて、自分の弱さも自覚しつつ、悪役を演じて俺と涼香を導いてきた、母親としての強い信念が伺える言葉だった。


「涼香君のように……かね?」

「そうよ」

 隣に戻って来た涼香の肩を抱きながら、護さんの返しに堂々と答える。

「うふふ~~。やっぱ現役のお母さんはすごいな~~」


「……覚えておこう」

 護さんが真剣な目をして、グラスをあおって一気に空ける。


「さあさあ! キリ良くオチが付いたみたいだし、込み入った話、難しい話は後日にしていただきましょう!! ――それでは“エンもたけなわになった所ですが、あるを尽くして”飲み直しましょうーー!」

 こちらの様子を伺っていた、ホステスの茜さんが手を叩いて注意を惹き、信州ここらへんの中締めの言い回しで仕切り直す。 


「おおーー!」

 親父連中が声をあげて手を叩く。

「ある……をつくす? ……ってどういう意味?」

 涼香に髪を編んでもらいながらさくらが聞いてくる。

 


「それはね、『残すともったいないので、目の前にあるものは全部食べちゃいましょう』って意味なんだよ。ついでに食事関係はもう出ないから、飲みたい人は次に行きましょう、っていうサインでもあるんだ」

「へえ~~、素朴だけどなんかいい言葉~~」


 ――その後、大人たちは度数の高いお酒にシフトして乾物をつまみ始め、それを機に俺達未成年組は帰る事になった。


「祥焔先生が一緒に帰りたそうだったわ」

 さくらの車の助手席に座っていた雨糸が振り返る。

「なんかインテリお姉さんに肩を掴まれてたゼェ」

「お察しだな……合掌」

 学校でのやりとりを思い出して手を合わせる。


雨糸姉ういねえのパパとウチのパパは、まだみんなと飲むから今日は大島さん達のホテルに一緒に泊まるかも、って言ってたわ」

『裕ママも、ママと話があるから帰らない。って言ってた』

 運転手を乗せてきた車に乗って、涼香が会話をリンクさせていた一葉と雛菊デイジーを通して答える。

「ママと……そうか」


『じゃあ夜はどこの家も保護者はいなくなるな』

 涼香と同じ車に乗ったフローラが現状を口にする。

「それなら今晩は雨糸姉ういねえと圭ちゃんは、フローラの家に泊まればいいんじゃない?」

 姫花が指を立てて圭一を見る。


「そりゃあもう遅いし今更家に帰るのも面倒だからありがてぇが。……いいのか?」

『それはいい。用心棒代わりに今日は泊まっていけ』

「そうね、助かるわ」

 軍用DOLL達がいるのにか? ……と、含みを感じつつも口をつぐむ。


 ――そんな会話を車中で交わしている間に家に着く。

 俺と涼香の家は近いので、そこで代行サービスを帰して車を降りる。

「ほら、さくら。着いたよ」

「えへへ~~……だっこ~~」

 ずっと肩に寄りかかっていたさくらの肩を担ごうとしたら、首に手を回してきた。

「ええぇ……?」


 先に降りてるみんなを見回し、困った顔をする。

「「「「「…………………………」」」」」

 涼香、姫花、フローラ、雨糸、圭一が苦笑いする。

「……しょうがないな。悪い、誰か先に行ってドアを開けてくれ」


 仕方がないので、さくらをお姫様抱っこで抱えて、涼香の先導で玄関を通って二階のさくらの部屋へ入り、さくらをベッドへ寝かせる。

「さくらさんは私が着替えさせるわね」

 先導した涼香がクローゼットを開きながらパジャマを探す。


「頼む。それと青葉、今夜はどうする? さくらはかなり酔ってるみたいだし俺も付き添うか?」

「ううん、圭一お兄ちゃんがいるから大丈夫。だから今晩は涼香お姉ちゃんを送ってやってくれる?」


 今日の告白の事を考えての事だと思うが、青葉の気遣いに感心する。

「……青葉、すこし大人っぽくなったか?」

「うふふ。そうかな? ……まあ、今日は涼香お姉ちゃんをフォローしてあげてね?」

「べっ……べべつに……いい、……のに」

 パジャマを出してきた涼香がモジモジする。


「……わかった」

「青葉……」

 黒姫も微妙な顔をする。


 一階のリビングに行くと、フローラ、雨糸、姫花、圭一がソファに腰掛けて、声をあげて楽しそうに話していた。

「――分かった。方法はオレが考えておこう」

「決まりだな。……よう、涼香は?」


「さくらをパジャマに着替えさせてる」

「裕貴がやらないのか?」

 フローラが笑う。

「やりません!」


「そうそう。わたしも今日はこっちへ泊るから、お兄ちゃんは“お姉ちゃん”を送ってあげてくれる?」

 まったく、どいつもこいつも空気読みすぎだ!

「……分かったよ。ちゃんと朝飯作る手伝いするんだぞ」

「はーーい」


「――着替え終わったよ」

 ちょうど涼香が降りてきて報告する。

「……来たか。それじゃあ涼香、行こうか」

「うん」


 そしてさくらの家を後にして家路に着く。

 時間はもう八時を回り、すっかり暗くなっていた。

「「………………」」

 涼香と並んで歩きながら、どちらともなく手を繋いで無言で歩く。


 みんなにあんな風にされたら、するべきことは一つだと思い口を開く。

「涼香、今日は家へ泊れ」

「――! ………………うん」

 涼香はほんの少し驚いて、小さく返事をした


 家に着いて、まずは給湯器を起動して湯船にお湯を張る。

 そうして上に行ってから部屋着を出し、涼香にも自分のTシャツとスウェットの上下を出していると、涼香がクローゼットの自分のタンスから、ブラとパンツを出していた。


「あれ? 今のサイズの下着類なんて入っていたか?」

「うん。高校受験の試験勉強で、ここへ泊まり込んだ時に入れておいたの」

「ああ、そういえばそんな事があったな」

「開けた事なかったの?」


「ない」

「……もう。フローラ達が怒るのも無理ないわよ?」

 涼香はそう言いつつ、どこかうれしそうだった。

「むう、モラルを守ってるのになぜか変態行為を勧められる理不尽」


 そして二人で寝間着(俺はTシャツ&トランクスの下着族)に着替えると、洗い物を脱衣所に持ってくついでに歯磨きをする。

「あー、やっぱりタキシードがそのまんま」

 磨き終わった涼香が洗い物を検分していて、ジュースで汚されたタキシードと肌着類を見つける。

「……まずかったか?」

 口をタオルで拭きながら聞き返す。


「手縫いで表示はないけど、ウールだから普通に洗濯できないんだよ?」

「ウール? ……そうか、スーツとかと一緒か」

「うん」

「じゃあ明日にでもクリーニングに出せばいいか?」


「ううん。早めに落とした方がいいから、今軽く洗っておくわ」

「悪い。頼むな」

「うふふ、どういたしまして」

 涼香は笑いながら俺の下着を手に取ると、不自然に顔を覆って鼻を動かす。


「おい、男の下着の匂いを嗅ぐな! つか、いつからそんな変態になったんだ? ……って、………………あれっ!?」


 そう口にした瞬間、電流が流れたようにデジャヴュを感じ、頭を押さえる。


「……おっ、お兄ちゃん」

 涼香がおずおずと呼ぶ。


「…………一葉、ちょっと黒姫を連れて部屋で待っててくれ」

 入り口で控えていた二体に声をかける。


「ゆーきお兄ちゃん……」

 黒姫が不安そうに呼ぶ。

「わかったわ。――黒姉、行きましょうか」

「……うん」


『湯張りが終りました。これより保温に移ります』

 二体を送り出すと、給湯システムのアナウンスが流れる。

「涼香、一緒に入ろう」

 目を逸らす涼香の細い肩を、しっかり掴んで俺の方を向かせる。


「………………だめ」

 涼香が困ったように拒絶する。

「これは俺が納得しなきゃ前に進めない事だ。嫌がるって事は俺の事を考えてくれてるんだろうが、服を破ってでも入れてやるぞ」

「……お兄ちゃん」


「そんな風に呼んでも駄目だ。涼香が嫌がる理由はこういう事だろ?」

「あっ――!!」

 強張る涼香を抱き寄せ、強引に唇を重ねる。

「うっ!! …………あふっ!! ……………………だめ!」


 俺の胸を押しやりながら、必死に抵抗する涼香を抱き寄せ、うなじを掴んで乱暴にキスをする。

「んっ…… くふっ……………………ん……………………」

 そのうち抵抗する手が緩み、震えながら腕を掴み返してきた。


 唇を離して涼香の顔を見ると、夢見心地な顔をしている。

「「…………」」

 そしてふたたび唇を重ねて涼香の自由を奪いながら、正気に戻さないよう慎重に服を脱がせていく。


 あとは上着を脱がせる時だけ唇を離すが、その時も片腕ずつ外しながら、脇や腰、ささやかな双丘へ手を伸ばしたりして、涼香の意識を反らせないようにする。

 最期にブラを外して下に落とし、ようやく涼香を開放して、自分も脱ぎ始める。

 お互い裸になって向き合うと、涼香の瞳がようやく力を取り戻してきた。


「綺麗になったな」

 涼香の全身をゆっくり見つめ、それだけを言う。

「…………バカ、裕ちゃんのバカァ」

 諦めた涼香が、困ったように顔を歪め、罵りながら抱き付いてきた。


 涼香の手を引き、軽くシャワーで流して、ふたりでゆっくりと湯船につかり、座った姿勢で足の間に涼香を座らせ、包むように抱きしめる。

「「………………」」

 無言になったまま抱きしめていると、そのうちに涼香の耳が赤くなり、体が火照ってきたのが分かった。


 そして涼香の体を左へずらして胸元を覗き込むと、温まった体に桜吹雪のような、紅色の斑紋が浮かび上がっていた。

 旅館の風呂場では、みんなの手前じっくり見れなかったはずなのに、こうして見ても不思議と驚かない事に気が付く。


「やっぱり見た覚えがある」

「うっ……うっ…………」

 右手で斑紋に触れながら呟くと、涼香が静かに泣き出した。


「涼香」

「…………」


 呼びかけるが、涼香は顔を覆ったまま答えない。


「今日はお前が喜ぶ顔が見たい」

「――!!」

 水しぶきを飛ばすほど涼香が驚いて振り向く。


「もう決めた事なのにこんな事を言うのはおかしい。だけどこれっきりだ。頼む」

「どうして?」


「俺も涼香を幸せにした記憶を持っていたいんだ」

「ウソ、確かめたいんでしょ?」


 ――うっ!


「それにこれ以上はフローラ達が悲しむもの。……だからだめ」

 即答で見破られてしまい、涼香はそれだけ答えると、背を向けて寄りかかってきた。


「抱えた秘密が涼香の負担になってるんじゃないか?」

「なってないわ………………」


 そしてそのまま黙ってしまうので、もう一つ思い出した事を囁いてみる。

「家出してこうやって夜を過ごした時、“大丈夫だ。俺がずっと守ってやるから”……そう言ったのを覚えているか?」


「うん」

「その約束を果たしたい」


「ぷっ!」

 すると思いがけず涼香が噴き出した。

「……なぜ笑う?」


「うふふ、違うの」

「なにが?」

 涼香が優しい笑顔で振り返る。


「この火傷の痕も、腕のケガも、…………一度きりの痛みも全部違うの」

「どういう事だ?」


「……そうね、

 『桜色に 衣は深く染めて着む 花の散りなむ のちの形見に』

  ――って感じ」


「涼香……」

 知らない和歌としては珍しく、俺でも理解できる歌だった。

 “この傷痕は失恋しても、ずっと残る大切な思い出なの。だから不幸な事じゃないんだよ” ――か。


 同時に、かつてさくらにも似た事を言った。

 “この傷痕はみんながさくらに咲いて欲しいと願った証なんだ”


 同じ本質の言葉を、真逆の立場で返された事に気が付く。

 ……そうか。そういう事なんだ。

 自分で言っておきながら、さくらに何を言ったのか今になって実感した。


「裕――ううん、お兄ちゃんの一番は欲しかったけど、私はそんな欲張りにはなれないし、みんなが悲しむのもイヤなの」

「涼香……」


 涼香はあたかも巣箱の中のひな鳥のように、周りが暖かくないと心から安心できない。

 これまでの涼香の行動。――フローラ、さくら、雨糸へのフォローの数々。さらに静香さんと俺との確執を解き、自分をも巻き込んで、親子関係まで修復した事を思い出す。

 涼香はそうしてみんなを幸せにする事で、自分も幸せになる居場所を作ろうとしているのだと気がつく。

 それは自己犠牲でなく、涼香自身の為でもあったのだ。


 “ママの娘だもん”――さっきのセリフの意味を知る。


「それにお兄ちゃんが一度、私に“報いてくれた”思い出があれば、それで十分よ」

「……そうか、やっぱり俺は涼香を――んっ」

 涼香が唇を塞いできた。


「「………………………………」」


「大好き、お兄ちゃん」

 涼香が幸せそうに笑って抱き付いてくる。

「……俺も好きだよ」

 追及を諦めて俺も応える。


「本当に?」

「ああ」


「じゃあお兄ちゃんがフローラさんと結婚しても、こうやってお風呂に入ったり抱きしめてくれる?」

 涼香がいたずらっぽく聞いてくる。

「もちろん。それにフローラなら二、三発殴るくらいで許してくれるよ」


「うふっ……ウイちゃんと結婚しても?」

「雨糸は呆れながら笑うな。……多少は拗ねるかもしれないけど」


「さくらさんと結婚しても?」

「さくらは……同じベッドに涼香を引っ張り込みそうだ」


「……確かに『涼香も一緒に寝るの~~!!』とか言いそう」

「だろ?」


「うふふ、そうね。あとは、…………私に恋人ができても?」

「相手をぶん殴って追い払う」

「それじゃあ不公平……」

「兄貴ってのはそういうもんだ」


「むーー、私も邪魔しよっかなー」

「その時は思いっきり甘やかしてなだめるよ」

「今よりも?」

「ああ」


「どんなふうに?」

「前みたいにTシャツの中に抱き込んで、一晩中撫でてやるよ」

「…………ずるい、降参。……ぶくぶく」

 涼香がお湯に顔を沈める。


「涼香……」

 お湯から顔を上げさせると、滴るお湯くらい涙を流していた。

「……私、お兄ちゃんの妹でいいよね?」

「もちろんだ。そして俺もお前の兄貴だ。一生な」

 涼香の濡れた前髪を掻き上げつつ答える。


「うれしい。――大好き」

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