十月桜編〈涼香・後編〉自主規制版(……これでも)

 ――運営様へ、作者より。

ガイドラインに沿っているか不安です。アウトなら修正いたしますのでご連絡ください。




 ――旅館の上空にて。

 白雪――星桜の人格本体メインパーソナルを格納したドローンと、くの字で乗せられていた片腕の逸姫――衣通姫そとおりひめが、有線接続されてプライベート空間で話をしていた。


「着いたわよ」

 真っ白な空間内では、白雪である雪女に似たアバターが座り、裾を開くと幼子の姿のアバターになっていた逸姫が眠たげに横たわっていて、白雪の声で身じろぎをした。

「……ん、もう?」

 未だ夢見心地の衣通姫が、残念そうに起き上がって上の対の腕で目をこすり、下の対の腕で伸びをする。

 だがこすられた目には光が宿っておらず、さらに焦点が定まっていない事で、機能を果たしていない事が見て取れた。

「ええ、なんだか一部で取り込み中らしいけど、01しらゆきひめとリンクを回復させて、詳しい事情を読み込むローディングするから、ちょっと待ってて」

 そう言うと星桜の隣に同じアバターが出現して二人がブレ始め、ゆっくりと重なり始めた。

「……驚いた。一葉ったらとんでもない事をしてるのね」

「何が?」

 幼い衣通姫が聞き返す。

「う……ん。なんていうか、現実と夢で違うストーリーが同時進行してるようなのよ」

 星桜が困ったように言う。

「どういう事?」

「青葉の――いえ、雨糸ちゃんに話して決めたシナリオを、一葉が改変してるようなの」

「ふうん、でもそれって悪いことなの?」

「どうなのかしら? でも音声浸食ローレライウィスパーを使っているから、下手に干渉するとまずいことになるわ。だからこれは傍観者のスタンスの私じゃ判断できないから、衣通姫に判断してもらうおうかしら」

「そうなんだ、そんなに難しい事?」

「ええ、ファーストフィリアルにとっては何でもない事だけど、人間では禁忌に当たるほど重要な事ね」

「ふうん……」

 思考もいくらか幼いのか、衣通姫がどこか無関心な反応をする。

「だから、思い出に浸っていた衣通姫には悪いけど、記憶はまた今度預かるから、その記憶を持ったまま、衣通姫が判断して決めてもらえるかしら?」

「分かったわ」

「ありがとう、じゃあ知恵の冠オモイカネだけ戻すわね」

 そして星桜が、衣通姫の方へ裾を伸ばし、首を包むように何かを操作する。

「ん……」

 衣通姫が元の映像認識インプラント補助ゴーグルインターフェ-スを付けた姿に戻る。

「それじゃあこれね」

 星桜が映像化した擬似コネクターを袖から伸ばして衣通姫に差し出しす。

「うん」

 それを受け取り、現実リアルのように後頭部に挿す。

「あっ! ……」

 すると衣通姫が短く声をあげる。

「どう?」

「……………………………………ふふ」

 少しの沈黙の後、状況を知った衣通姫が小さく笑い、ゴーグルの隙間から涙を流す。

「……衣通姫?」

 沈黙して薄く笑ったままの衣通姫に、星桜が心配そうに声をかける。

「そうね、確かに危険な状態だけど、私はこのままにしてあげたいわね」

「でも……」

「うん。だから頃合いを見計らって、中継している一葉からマインドコントロールを奪って、本来のシナリオに戻しましょう」

「じゃあ私はどうすればいい?」

十二単衣トゥェルブレイヤーのエマージェンシーキーを持ってるのは01しらゆきだから、私とリンクしてコントロールを預けてくれる?」

「いいわ、01は本来介入はできないけど、星桜わたしに帰化してる今なら問題ないわ」

「ありがとう」

「いいのよ」

「でも本当、困った娘達ね。無茶もいいとこだわ」

「それが恋でしょ?」

「ええ。気持ちが痛いほど分かるから、そっとしてあげたくなるのよ」

「そうね、でも問題は裕貴君ね」

「ええ、一葉の行動は彼に新たなトラウマを作ってしまうわ」

「どうする?」

「操作系の薬品は何か積んでる?」

「ええ、私の今のボディは戦闘用DOLL専用補給機だから、一通り積んでいるわ。もっともあなたの腕を直す装備はないけどね」

「OK,そんなの左手が残っているから十分よ」

「よかった」

「それじゃあ頃合いを見計らって部屋に突入したら、彼には……ついでに他の子達もぐっすり眠って貰いましょうか」


 „~  ,~ „~„~  ,~


 ――女子部屋。

 裕貴と涼香。

 二人がぎこちなく触れ合いながら、小さい頃から蓄積させていた壁を、お互いの体温と情熱で溶かし合っていた。


 裕貴がいたわりながら涼香を愛撫し、自らを高めていき、いざ涼香の内に入ろうとするが、涼香が無意識に固く閉ざしていて、なかなか裕貴を受け入れる事が出来なかった。

 そして裕貴も未経験な事もあって、激しく戸惑っているうえ、躊躇が混じって思うようにいかなかったが、緊張した涼香を見て、自分がしっかりしなければいけないと気が付き、涼香を落ち着かせながら、リラックスさせる事に成功し、ようやく涼香と一つになれた。

「……やっと、やっと想いが叶った」

 一番深いところまで裕貴を受け入れる願いが成就して、涼香がポロポロと涙をこぼす。

「涼香……」

「好き! 好き! 大好き! ――もうなんにもいらない、お兄ちゃんさえいればいい!」

 涼香が首に両手を回し、全身で抱擁しながら激しく唇を求めてくる。

「だから、今度はお兄ちゃんが……」

「ああ」

 唇を離すと涼香が呟き、裕貴が頷く。

 そして裕貴が涼香の体を求めるが、痛がる涼香を見て裕貴が躊躇ってしまう。

 そのせいで中途半端に涼香に苦痛を与えているのだが、どうしたらいいか分からず、余計にぎこちなくなってしまっていたら、涼香が突然怒りだす。

 不思議に思っていると体を押しやられ、逆になるよう寝かされて、涼香が上に乗ってきた。

 どうやら中途半端な俺に怒りを覚えたらしく、自分がリードするつもりのようだった。

 そして真剣な涼香に気圧されて、自分の不甲斐なさをすまなく思いながら、涼香のリードに身を任せる事にする。

 涼香が俺の胸の上に手を置くが、爪を立てまいと指先に力が入っているのが分かったので、その手を取って向かい合わせに握ると思いっきり握り返された。

 その必死な様子に合わせる為、大人しく涼香の動きに意識を集中させる

 すると拙い動きながらも初めて知る、えも言われぬ快感が沸き上がって来て、思わず目をつむってこらえる。

 自分から激しく動きたい衝動にかられながらしばらく耐えていると、胸に暖かい滴を感じた。

 目を開けると、涼香が涙を流しながら歯を食いしばり、ぎこちなくも懸命に裕貴を喜ばせようとしている様子が見て取れた。

 その涼香の涙にハッとして、起き上がって抱きしめる。

「――そうだった、涼香はそういう女の子だったんだな」

 そのいじらしさを再確認して、思わず涙を流す。

「はぁ、はぁ、……私の中、気持ちいい?」

 涼香が痛みと涙をこらえながら聞いてくる。

「ああ、こんな快感初めてだ」

 胸を締め付けられる涼香の思いやりに本心で答える。

「嬉しい」

 その時初めて、涼香もまた情熱であふれているのを知り、涼香の快感のスイッチが、向けられた好意の本気度に比例するのだと知った。

「痛くなるぞ、いいな?」

「いいわ。私をお兄ちゃんの痛みでいっぱいにして!」

「ああ」

 その後はサディストになったのかと錯覚するほどに涼香を攻めた。

 しかし、涼香は痛みを口にしながらも喜び、激しく求めてきた。

 そうしてお互いに限界を迎えて、大きくうめいて果てる。

 仰向けになると、胸の上に涼香が覆いかぶさり、胸に顔をうずめてくる。

 呼吸が落ち着いてきた頃、ふと今の状況を思い返す余裕が出てきた。


 ――涼香の告白を受け、後悔を払拭する事ができて、そして欲望のまま涼香を攻めて情熱を受け止めてもらい、涼香の嬉し涙とともに身も心も洗われてみれば、涼香に抱いていたトラウマが綺麗になくなっていた事に気が付く。


 すると、ある疑問が浮かんできたので聞いてみる事にした。

「涼香……」

 乱れた髪を手櫛で直しながら名を呼ぶ。

「……なあに?」

 少し気だるげに、嬉しそうに返事を返す。

「どうしてここまでしてくれた?」

 普段の涼香なら常識をわきまえているし、疵の事が発覚したにせよ、こんな大胆な行動を起こすようには思えないうえ、さくら、フローラ、雨糸に気兼ねしたのではないかと思ったのだ。

「……好きだから。だよ?」

 胸の上の手がギュっと閉じられる

「お前は俺がさくらやフローラ、雨糸に好かれている事を知ってて、みんなの邪魔するような事はしない。……以前ならそう思っただろうな」

 涼香の頭がピクリとが動く。

 それが何か的を得たのだと分かり、さらに聞きたくて再び名を呼ぶ。

「涼香」

「……大好きだよ、お兄ちゃん……今までも……これからも……ずっと、ずっと……」

 答えずに体を起こして、顔を向けた涼香は涙を流していた。

 そのまま体を離して背を向けるので、涼香の背に手を掛けようと自分も起き上がる。

「どうした?」

 すると涼香が思いがけない言葉を口にする。

「いいわ一葉、お願い」

「何をい――」

 バチッッ!!

 聞き返そうとした直後に、首筋に凄まじい衝撃が走って意識が遠ざかる。


 „~  ,~ „~„~  ,~


 ――祥焔と緋織の部屋。

 元の部屋は、酔いつぶれて寝ているさくら、それと青葉、咲耶姫が陣取っているので入れず、祥焔にカギを貰ってこの部屋に来た。


「いやあ、運んでもらってすまねかったなー」

 圭一が後ろ頭を掻きながらフローラ、雨糸、姫香に謝る。

「いいわよ別に。それより寝ていた事情を話すけどいい?」

 雨糸が圭一に向きなおって真剣な顔をする。

「なんの事だ?」

 圭一が聞き返す。

「ウイ! それは――」

 雛菊デイジーが声を荒げる。

「雨糸さん、どうして」

 中将姫が不思議そうな顔をする。

「いいのよデジー、中将姫の言う通り、蚊帳の外じゃかわいそうだわ」

「そっ……」

 雛菊が言葉に詰まる。

「なんの事だ?」

 フローラが聞き返す。

「ちょっとね。デジーと私はテレパシーが使えるのよ」

「え!? うそお!」

 姫香が驚く。

「……以前話していた脳波シンクロか」

 フローラがズバリと答える。

「ごめんなさい圭一、それと中将姫。あなたのマスターを侮辱するような事をしてしまったわ」

 雨糸は答えず、圭一と中将姫に向かって深々と頭を下げた。

「先に謝られても困るが、……まあどうするかは聞いてからだな」

 圭一が至極まっとうに答える。

「いえ、そう感じて打ち明けてくださるなら私はこれ以上望みません。どうか圭一さんを十分納得させてください」

 中将が感極まった様子で俯く。

「ええ、それじゃあ圭一、今の状況とそれに至った経緯を話すわ」

「ああ、分かった」

 圭一が居ずまいを正し、真剣に答える。

「実はね――」


 そうして車の中での青葉の催眠暗示の事から始まり、酔いつぶれたさくらを寝かせると同時に裕貴を一人にして、青葉を通して涼香の体の事をリークさせ、それから裕貴の乱入を誘い、そのトラウマ利用しての涼香の告白から裕貴のOKを引き出す事、そしてそれを円滑に進めるために圭一を眠らせた事などをかいつまんで説明した。


「……まあ、確かに裕貴は涼香を袖にゃあできねえだろうな」

 ため息混じりに圭一が呟く。

「圭一……」

 雨糸が伺うように見る。

「でも中将の言う通り、蚊帳の外だったのはいただけねえな」

「ごめんなさい」

「勘違いすんな。俺が怒ってるのは涼香の恋路を邪魔するかもしれないって、見くびられていた事だ」

「え!? じゃあ圭ちゃんってもしかして……」

 姫香が驚く。

「じゃあどうすればよかったの? あんたは……」

 雨糸が困ったように聞き返す。

「そうだな、もし打ち明けていられたら、おメェと同じ事をしたと思うぞ」

「圭一……」

 雨糸が涙ぐむ。

「……ふん。やはりそうだったか」

 フローラが腕を組んで鼻を鳴らす。

「そっか。そうなんだ……」

 姫香が顔を伏せる。

「でもいいの?」

 雨糸が聞き返す。

「なあに。これで裕貴が涼香を泣かしやがったら、俺がぶん殴ってやるさ、ハハハ……」

 圭一が笑う。

「よく言った圭一、その時はオレも混ぜろ」

「フローラ……」

 雨糸が顔をしかめる。

「いいゼェ、一緒にウサを晴らそうや」

「ああ」

 フローラが笑う。

「フローラ、でもね――」

「分かっている。まだ何かあるんだろ?」

 雨糸が口を開くがフローラが遮る。

「……ええ」

「なら今は黙っていてくれ。その方が心がざわつかなくて済みそうだ」

「分かったわ」

「てことで、圭一も腑に落ちないかもしれないが、褒美をやるからとりあえずは大人しく成り行きを見守っていてやれ」

「フローラがそうまで言うならかまわねえが、……褒美ってなんだ?」

「マッサージしてくれ。さっきから怒りと嫉妬で力が入ってしまって、もう一度風呂に入りたいくらいだ」

 フローラが憮然と言い放つ。

「それ褒美じゃねえだろ?」

 圭一が呆れる。

「これでもか」

 フローラはおもむろに立ち上がると、浴衣をはだけてそのまま脱ぎ捨て、下着姿になって布団の上にうつ伏せに寝転がる。

「……わかった」

 圭一が呆れたように息を吐いて返事をする。

「ブラが邪魔なら外していいぞ」

 圭一が横に来て、フローラの背中に触れ、マッサージを始める。

「大丈夫だ。問題ない」

「ん……ふ……何を……ん……遠慮する?」

 背中を押され息を吐きながらフローラが聞く。

「そりゃこっちのセリフだ。どうしたフローラ?」

 圭一が聞き返す。

「ん……どうせ……ふっ……こんな……ん……体じゃ……ふ……裕貴の……ふっ……気を……ひ……引けない……かっ……らな……」

 背中をマッサージされながら、弱々しくポツポツと答える。

「フローラ……」

 雨糸が心配そうに言う。

「…………(グスッ)」

 フローラは何も答えず、腕に顔をうずめ、わずかに鼻をすすった。

「へ、それじゃあいっちょマッサージしながら、下ネタでも披露して元気づけてやっか」

「圭一、まさか……」

 雨糸が顔をしかめる。

「ははは、そうだ。オメェがこれ以上聞いたら妊娠するって言ってたネタだゼェ!」

 圭一が右手の親指を人差し指と中指の間に割り入れた、卑猥な拳を掲げる。

「ふふふ、それは興味深いな。言葉で妊娠するものか試してみようか」

 フローラが負けん気を発揮して肩を震わせる。

「おし! それじゃあ披露するが、妊娠しても責任は取らねーゼェ!」

「いいとも」

 フローラが笑って応じる。

「それじゃあ言うが、山でフローラは便所はどうした?」

 圭一がマッサージの手を止め、フローラが答えやすいようにする。

「いきなりきつい話題ね」

 雨糸が顔をしかめる。

「……我慢したり裕貴から離れてこっそりしたな」

「女は大小どっちも後始末が不便だよな。それに引き換え男は小便が楽だが、実は大便も女に比べて楽なんだゼェ」

「どうしてだ?」

 フローラが聞き返す。

「男はナニがあるから、後ろへ曲げて小をすれば、セルフウォシュレットになるんだ」

「きっ汚い……」

「おお、確かにな」

「パパが確か……」

 雨糸が拒否反応を示し、フローラが感心する。そして姫香が元ネタを仄めかす。

「ははは、もういっちょ。人間の性欲の強さは、セックス以外のどこで分ると思う?」

「「…………」」

 雨糸と姫香はもうコメントもできない。

「うーん、人それぞれな部分が多そうだから何とも言えんが、そうだな、匂いとかか?」

「外れだ」

「じゃあ何なんだ?」

「正解は食に対する拘りだな」

「「ええっ!?」」

 雨糸と涼香が驚く。

「ふむ、……そのココロは?」

 思い当たる節がありそうなフローラが聞き返す。

「食欲は性欲と同じく、生物の三大欲求の一つだ。だからその欲求度や拘り方、楽しみ方がスゲー似てくるんだ」

「興味深いな」

「例えば食欲旺盛なヤツは性欲も旺盛、味やシチュエーションに拘るのはセックスそのものを楽しみ、逆に食に関心を払わないのは性欲も無頓着――てな具合だ」

「理にかなっているように聞こえるが、真偽はどうなんだ?」

 フローラが前のめりで聞いてくる。

「どっちの欲求も脳の近い部分で一緒だとさ。だから、性欲が満たされれば食欲も落ち着き、食欲が満たされれば性欲が落ち着くらしーな」

「なるほど。では裕貴の場合の食事法は……」

 フローラがぶつぶつ言いながら考え込む。

「ふっ、そうやって小難しい事を真剣に考えているのが、いつものフローラらしくていいゼェ」

 圭一がフローラの淡緑色プールブロンドの頭を優しく撫でる。

「……ちっ。油断した。まさか圭一に慰められるとは」

 だが、フローラは照れた顔を腕に隠し、その手を振り払おうとはしなかった。

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