十月桜編〈ミスティウーマン〉

 ――バトルDOLL研究班。


「……さてと。これでいいかな?」

 一通り道具を準備し、雨糸と雛菊、黒姫を見回す。

 問題は…………。

 黒姫と雨糸二号(仮)を見てため息をつく。

 黒姫にはさすがに刺激が強いかも。……どうする?

「裕お兄ちゃん……」

 悩んでいたら、沈んだ調子の黒姫の方から声をかけて来た。

「ん? なんだ?」

「ちょっと、行きたいとこがあるから、ボディを空けるけどいいかなあ……」

「空ける?」

「……うん。青葉とお話がしたくて」

 その真剣な様子に口元を引き締める。

「面と向かっての話しリアルや、通常コンタクトじゃダメなんだな?」

「……うん」

 それを聞いていた雨糸と雛菊も居ずまいを正す。

「黒姉……アノ事アルか?」

「……うん」

「二度目はどーするアルか?」

「ふーいん、解いてみようかなって……おもう」

「ええっ!?」

 雛菊が珍しく驚きの声をあげる。

 それをを聞いて考える。

 封印……“黒姫”が課している制限と言えば確か……アレか。

「……いいぞ」

 思い当たる事情に気が付いて許可を出す。

 黒姫同様、落ち込んでいた青葉を見ていて、それほどの知性レベルが必要なら、相当な事情なんだと察したのだ。

「ホント!?」

「ああ。二人とも何か悩みがあるみたいだったけど、はっきり言えないなら訳は話せないんだろ? 俺を意識してるみたいだし、ちゃんと断って空けるならそれでいいよ」

 突然居なくなったAlphaAIさくらと違い、そこまでの気遣いがまだ無い年ごろせっていなんだとすれば、そう教えてやる方が祥焔かがり先生の示してくれた、将来の布石になってくれるんじゃないかと思う。

「……ありがとう」

「じゃあ、そこの充電クレードルピットにボディを置いとけばいいわ」

「うん。そうするね」

 黒姫はそう言って、バトルフィールド脇のピットに素体ボディを横たえてカメラアイを閉じると、緑のLEDが点滅して通信状態に入った事を示した。

「…………なんだかみんな色々抱えているようだな」

 雨糸と雛菊を振り返って呟く。

「不安?」

 雨糸が聞いてくる。

「まあ……ね。でも全て理解できるわけじゃないし、助けられるほど自分が強くも大きくもないぐらいは判るから、せめて溢れて来た部分をすくい上げられるように自分を育てておかなくちゃ、って思うね」

「……裕貴らしいわ」

 雨糸が嬉しそうに見る。

「仕方ないアル。樹が大きくなって枝葉が伸びれば、他の枝が見えなくなるのは当然アルしな」

「「おお!!」」

「……何アルか?」

「デジーが知的な比喩を使ってる」

「同感」

「ふっふー。デジーも日々成長してる証拠アルな」

 皮肉をさらりとかわし、ウンウン頷く。

「……ま、ノリツッコミばっかじゃくたびれるものね。そう言う変化なら私も嬉しいわ」

「よーーし! それじゃー気分を変えて雨糸二号のセットアップを始めるアル!」

「嬉しそうだな」

「もちろんアル。これでヒマな時はグフフ……」

「…………何する気よ」

「じゃあ始めるぞ」

 いつもの調子に戻りそうなので、無視してDOLLを手に取る。

「まずはソーラーセルと外皮インテグメントを脱がせてっと」

 立たせた状態から後ろを向かせ、背中の隠しジッパーを外し、ボディを支えながらインテグを脱がせていく。

「……う」

 すると、やはり自分の顔のDOLLが弄られるのが恥ずかしいのか、雨糸が微かに喘ぐ。

「ふふふ……」

 それを見て雛菊が笑う。

 そう言えばデータ収集がどうとか言ってたな、色んな表情を見るのがソレなら、AIにとっての食事みたいなものなんだろうか……。


 ――はっ!!


 そう考えてから、それが人工知能AIの本能のようなものだと、思いがけずに悟った。

 人間は食べる事が成長に繋がるから、それが本能として食欲とういう形で現れる。

 だが、AIにとっての肉体はデータそのものだから、データと言う栄養素を吸収する行動が、こんな風に探究心や知識欲といった形で現れる。

 ……そうか。自立成長型AIと人間の欲求の向く方向が、そもそもこれだけ違っているんだよな。

 AIと人間、その本能の強弱はあれど、決定的な質の違いが見えた気がした。

 将来出現するであろう完璧に近い人間型ロボットヒューマノイドの、人間との絶対的な違いが見えて、思わず感動する。


(――き……)

 以前黒姫が青葉に行ったという“オシオキ”は、おそらくは断線シャットオフの事なんだろうか?

 雛菊のように、その個性が持つ肉体じょうほう要素の傾向が、そのAIの将来の姿こせいになるの――

「裕貴っ!!」

「えっ!?」

 思索から雨糸の叫びで引き戻され、驚いて振り向く。

「ちょっ、そんな……うっ、DOLL……なでまわ……くっ…………さないで……」

 見ると、雨糸が身をよじりながらそう訴えるので、手元に視線を落とす。

「……え? あっ!!」

 なんと、ソーラーセルを脱がせた後、なぜかそのボディをつまんだり撫でまわしていた事に気付く。

「あれ? 俺……なにやって……」

「なに考えてたか知らないアルが、うわの空になって、何かめくろうとしてウイ二号のボディを撫でまわしてたアルよ」

「あっ……そっそうか。柔らかいから触り心地が良くてつい……って、なんでこれ電源入っていてインテグ着てないんだ?」

「はあはあ……それはね。Softソフト segmentationセグメンテーションはそのボディの特徴からインテグメントが必要がないのよ」

 雨糸が息を切らせながら言う。

「そっ、そうだったか……つか、なんでそんなに喘いでるんだ? 俺そんなに卑猥な触り方してたか?」

「ううん……裕貴のせいじゃ……ない、けど…………」

 雨糸が言葉に詰まり、雛菊を見る。

「あ~~、ウイの感覚がシンクロしちゃったアルか」

「くっ……やっぱり」

 雨糸が肩を落とす。

「どういう事だ?」

「どーもこーも。今、ウイの感覚がウイ二号とシンクロしているアル」

 雛菊がしれっと言う。

「なにいっ!?」

「はぁ……」

 雨糸がうなだれる。

「これじゃあ作業ができないじゃないか。……つか、どうして?」

 思わぬ事態に混乱する。 

「その新型ELF-16は、さっきも言ったとーり、ボディが柔らかくできてる他に、もう一つ特出した機能が付いてるアル」

「それは?」

「ボディ全体に質量グラビティセンサーや、温度センサーとか、各種センサーがボディと一体整形されていて、それが人間の皮膚のように細かに張り巡らされているアル」

「なん……だと?」

 通常のDOLL の場合、堅いセグメンテーションと外部のものと挟まれて配線などが傷んでしまう為、外側を通すことができず、センサー類が配置される場所が限られていた。

 また、ボディが堅いとセンサー類や配線など、成型時に不純物が混じれば、そこから亀裂クラックが入ってしまい、強度が下がるのが常識だが、クラックの入りらないソフト体節性に置き換わる事で、弱点が克服されたなら当然の追加機能であった。

 分かりやすく言えば、センサー類が格段に増えて、外部情報が増える事で、より緻密な動作が可能になったのだ。

「でいじー……あんた、こうなる事を予測してたわね?」

 恨みがましく雛菊を見つめる。

「さあ。なんの事やらわかりまそーん!」

 アル語尾が消えてる。……て、仕組まれていたのか。

「はぁ、そもそもどうしてコレとシンクロなんかしてんだ? つか、コレの電源また落とせばいいだけの話だろ?」」

 DOLLを優しく掴んだまま指し示す。

「……デイジー、あんた説明して」

 雨糸は自分の体を抱くように身もだえていた。

「しかたないアルな。……答えは不可能アル。ウイ二号はまだ初期化状態のカラッポで、どんなコントロールも受け付けてしまうアルし、そもそもウイがゆーきに触れられたいと心の奥で思っている限り、現時点でウイ二号はウイ以外のコントロールは受け付けないアル」

「――くっ!! やっぱり……」

 雨糸が真っ赤になって俯いてしまう。

「いや、俺は“どうしてシンクロなんかしてるんだ?”って聞いてるんだ。要点が抜けてるじゃないか。それともこれも聞くなって言うんだったら、不安すぎてとてもじゃないが作業ができないぞ?」

「……ち、ケムにまけなかたアルか」

「俺をなんだと……まあいい。で、どうなんだ? 教えてくれるのか?」

「ウイは今、とある新技術開発の為に、周辺の機器を脳波コントロールする臨床試験の被験者になってて、ウイ二号を意識した事でリンクしていて、感覚を共有してる状態アル」

「なっ――!!」

「ここで止めてもいいアルが、ウイの経験値稼ぎの為にも続けて欲しーアルな」

「……ごめんね裕貴、さっきの事もあってか、私からリンクが切れないのよ……」

「さっき……て。……そ、んな……こ…………」

 言葉が見つからない。

 それは俺を好いてくれてるからだろーし、切るには俺が嫌われなきゃだし、それは現状無理ゲーらしいし、俺が預かって雨糸の見えない所でやればいいんじゃね? ……でもそうしたら雨糸の為にならないし、つかそんなこと言えねーし……。

 て言うか、やる選択肢しかないじゃん!!!!

「………………………………………………………………わかった、やる」

「ひゃっほう!」

 雛菊が踊り狂う。

「うう…………裕……貴……」

 潤んだ瞳で雨糸が見つめる。

 気付くといつの間にか両手で雨糸二号(仮)をそっと握りしめていた。


 „~  ,~ „~„~  ,~


 ――DOLL服研究班、部室。


「進み具合はどう?」

「はっ、班長!」

 後ろから声をかけられ、他の班員に教えていた涼香が飛び上る。

「すまない、驚かせたみたいね」

 振り返ると、金縁眼鏡の長身の班長、“湖上舞乱華こがみまいらんか”と、中背ポニテのマネージャー、“熊谷灯吊くまがいひつり”が立っていた。

「いっいえ……なっ、何がで、……すか?」

「10月最初の長工祭ちょうこうさいで行う、DOLLフェスティバルの新作先行発表会プレイベントの事よ」

 灯吊が言い直す。

「せっ、製作は……じゅん……調です」

「デザインは口出せないって言うから、デザインが決まった子から制作の方を手伝っているわ。それで今の所43人中18人がデザインが決まっているから、手の遅い子から見回っているわ」

「……です」

 言葉足らずの涼香に割り込んで、一葉がフォローする。

「ふふ、本当に有能なDOLLね。あと、よくやってくれてありがとう副班長さん。指導と制作を任せっきりにして申し訳なかったけど、先ほど顧問の先生達と長工祭のスケジュールの打ち合わせが終って、ようやく私も制作に戻れるわ」

「はっ! はい……おお疲れさっさま、……でした」

「それと、お願いされてたDOLL班のステージ使用枠の件だけど……」

 マネージャーの灯吊がもったいぶった様に人差し指を立てる。

「どっ……どうですか?」

「灯吊、可愛い副班長をいじめないで頂戴。――いいわよ使っても」

「あっ! ありがとうございます!!」

 涼香が小躍りせんばかりに喜ぶ。

「……それで確認だけど、ステージに上がるのは三人で、機材の調達や衣装の準備は全部ノータッチでいいのね?」

「それと、あなたが後片付けに参加できないってのもね」

「はっはい、……すい……ません」

「いいわよ気にしなくて。今からステージを使いたいなんて、ステージイベントメインの班が空けてくれるわけ無いものね」

「まあ、それもだけど、本当に衣装は自前で用意するの? なんなら先輩達が残したイベント衣装が沢山あるから、好きに使っていいのよ? てかどんどん使って班をアピールして欲しいわ」

「まあまあ灯吊、ただでさえ苦手な若手の指導をお願いしていてるんだから、このくらいの頼みを、私達が聞かないわけにはいかないわ。それに過剰な善意は副班長さんにはプレッシャーになるわ、分かってるでしょう?」

「……えへへ。聞き方が悪かったわね。ごめんなさい。なんせ、“あの人”が出るんでしょ? 楽しみなんだけど、聞きたいやら聞いちゃいけないやらで、嬉しい葛藤があるのよ」

 灯吊が頭を掻く。

「期待させていて申し訳ないけれど、まだ本人達には何も言ってないのよ」

「ひっ、一葉!」

「「ええっ?」」

 二人が驚く。

「……だから、班長さんにマネージャーさん。三人に迂闊に聞いたりされるとややこしくなるから、今はまだ黙っていてくれると助かるわ」

「一葉……」

「……まあ、そう言う事なら黙っていましょ」

「でも、この学校に来た経緯いきさつくらいは教えてくれない?」

 乱華が納得し、灯吊が聞いてくる。

「えっ!? ………………えっと。……はい……、そ……それくらい…………なら……」

 言葉を濁しながら一葉を見ると、ウインクで返してきたので、仕方なく了承する。

「やった! みんな! 噂のmystyミスティ womanウーマン(謎めいた女性)の話が聞けるわよっ!」

 聞き耳を立てていた班員たちから歓声が上がる。

「……ふう。しょうがないわね。じゃあちょっとお茶にしましょうか。私がおごるから、誰かお使いを頼めるかしら?」

 乱華がまんざらでもない様子で、前に進み出た班員にお金を渡す。


 „~  ,~ „~„~  ,~


 ――バトルDOLL研究班。


「じゃあ雨糸はユーキに背を向けるアル」

「どうして?」

「自分のからだ……自分に似たDOLLがいじくられるの見たいアルか?」

「体って……、わかったわ」

 ツッコミを諦めて雨糸が言われた通りにする。

「…………じゃあ始めます」

「ふつつか者アルが」

「お前が言うな!」

「デイジー!!」

「え!? 確かこう言うのがオヤクソクじゃなかったアルか? Alphaの記録ログデータによると――」

「分かった! 言わなくていい!!」

 仕方がない。やるか……

 泣きたくなってきた。

「……えっと、タオルっと」

 タオルを取り、そうしてまずは左手の上のボディを覆う。

 すると、DOLLがパチリとカメラアイを開けた。

「おお!?」

「ごっゴメン、目を閉じたらそっちが開いちゃった」

「な、……それじゃあ今はDOLLのカメラアイで見えてるのか?」

「うっ、……ううん、閉じた一瞬……だけ」

「そか。……なら続けるぞ?」

「……うん」

 そうして右手で送油弁ドレンプラグを持ち、目を閉じる。

 ……大丈夫。二度目だから前みたいに取り乱さない。平気だ。

 そう自分に言い聞かせ、すうっと息を吸い込んで目を開く。

「ゆーきは体温がウイより高いアルな。てかこーふんしてるアルか?」

「台無しにすんな!」

「ううう…………」

 俺が怒鳴って雨糸がさざめく。

「ふひひ、……ウイは黙ってるけど、とーぜんゆーきの体温をウイは体中で感じてるアルよ?」

「くっ! どこのエロ親父だお前は!」

「もう、いいから。早く……シテ?」

「ぐふっ!…………」

 服を引かれて振り向くと、雨糸が雛菊にはもう構うなと言わんばかりに、涙目で懇願する。

 ……が、いかんせん表情とセリフの内容がやばい。

「その顔と声いいアルな、そのちょーしアル」

「……こいつ」

 エロ親父からエロ監督に昇格した雛菊が喜ぶ。

「さあさあ。巻いていくアルよ」

「…………」

 唇を噛んで作業に戻る。

 ……えっと。柔らかいけど、基本構造はELF-16と変わらないんだよな。じゃあ普通にジョイントプラグを挿せば……。

 そうしてDOLLを見ると両手を握って祈るように目を閉じていた。

「おお!?」

「うう、こんなのいやあ…………」

 振り返ると、本体ういとも同じポーズを取っていた。

「ほうほう。おもたとーり、目を逸らそうとすればするほど、ウイ二号の方へ意識が向かうよーになるアルな。よしよし」

 調教師になった雛菊が分析する。

「お前、わざと……」

 雛菊を睨みながら、怒りがこみあげてくる。

 ぎゅ。

 ――?。

 左手の指を掴まれる感触がするので、再びDOLLをみると、パッチリ目を開けて親指を掴み、フルフルと首を振っていた。

「ま……さか」

 振り返ると、本体ういとは座ったまま目をつむり、居眠りしているように椅子にもたれている。

『いいから。つっ、つづけ……て』

 完全にDOLLに意識が移ったらしい雨糸が、DOLLからマシンボイスで呼びかけて来た。

「おお!! すげ、って……でっでも」

 はっきり言って、フローラがparasit eyeパラサイトアイで俺の勉強を見ていたのと根本的に違い、五感と意識をDOLLとリンクできる技術に舌を巻いた。

『はっ、初めてが裕貴なら……私……』

「ぶっ!! ……て、あれ?」

 あろう事か雨糸DOLLが微かに震えている事に気が付いた。

「……おお、シンクロ率半端ねえ」

「さすがウイ! 密かに仕込んでいた追従トレーシング機能を上書きして意識を移す事に成功したアル!」

 予測した結果が出た研究者のように雛菊が喜ぶ。

「トレーシング機能……通話してる相手に自分のリアクションを同調させる機能か?」

「そうアル。あまり流行ってないアルが、音声以上、動画未満の通話方法コールロジックアルな」

「ハードル上がっちゃったじゃん!!」

 ケモノのように叫ぶ。

「そんな事どーでもいいアルが、さっさと済ませないと、シンクロしてるウイの精神の負担がどんどん蓄積されるアルよ?」

 雛菊がニヤニヤしながら野次馬のように言う。

「……やる……しかないのか」

 そうして、右手に持っていた接続栓ジョイントプラグの先を見つめる。

『いいわよ裕貴、来て』

 雨糸がどこか悟ったように言う。

「くっ!」

「さっさと挿すアル!」

「……いくぞ」

『…………(こくん)』

 そして、タオルの下へジョイントプラグを忍び入れ、つまんだ指先の外側で雨糸DOLLの足の間へ近づける。

「……おい」

 だが……。

『……なっ、何よ』

「力を抜いてくれ」

 がっちりとガードされ、Vゾーンに先端が寄せられない。

『待って……思うようにかっ体が……』

 そう言いながら、なにやらタオルの下で、もぞもぞと雨糸DOLLがうごめく。

 ぐぬぬ、……このやわらかさ、おまけに動きが人間そのものだから、ロボットを扱ってる感じが全くしねえ。

 そんな事を思っていると、背中にじっとりと汗が滲む。

『……どう?』

 ややあって雨糸DOLLが聞いてくる。

「うん、いけそうだ。入れるぞ……あ!」

 くっ、しまった!

 ストレートすぎる言い方に自爆する。

『うっ……こっ、怖い……わね』

「ぐっ!…………」

 優しくするから。怖くないよ。大丈夫だよ。力を抜いて。

 色んな言葉が脳内を駆け巡るが、何を言ってもアレな気がして、結局無言でVゾーンに近づける。

『あっ……冷たっ……うっ』

「ぐふっ……」

 雨糸さん、黙ってくれませんかねえ!!

 心の叫びを飲み込んで無言で探る。

「ふふふ……」

 雛菊がもう何も言わず、じっと見つめながら薄く笑う。

 そしてついに先端が堅い部分に触れる。

『ハッ……裕貴…………ハッ……手…………熱い……』

 雨糸DOLLがするはずもない呼吸を荒げる。

『裕貴、……まだ…………なの? 私……もう…………ダメ』

 DOLL側の接続部分はやはり堅く、ボディが柔らかいおかげで、何重もの手袋越しに精密作業を強いられているようで、思った以上にやりづらい。

「く、……が…………まん……はぁ、して……くれ」

 マシンボイスなのがまだ幸いして、理性が小石ほど残っていた。

 んぐ、…………えいっ!!

 脳みそが沸騰しそうなのを耐えながら、そうしてついに入り口を探り当て、指先に力を込める。

 カチッ。

『はうっ!』

「うっ!!」

 その瞬間、雨糸DOLLが、両足をピーンと伸ばし、全身の誘電性エラストマー人工筋肉が強張るのを感じた。

「『………………………………………………(はぁはぁ)」』

 俺は雨糸二号(決定)を落とさない程度に掴んだまま、雨糸の方は人間であれば、苦しいであろうと思われるほどに、首や手足から力を抜いてお互いに脱力してしまった。

「やあやあ。ブジ開通したアルな。じゃあさっさと出し入れして終わらせるがいいアル」

「くっ、意味深な言葉で言うな!」

「いやあ、ウイはビンカンアルなあ。おかげで貴重なデータが取れたアルよ」

『うっ……裕貴……もう私、お嫁に行けないよう』

 雨糸が出もしない涙を拭うように、手の中でシクシクと泣き始める。

「だいじょーぶアル。裕貴が責任取るアルよ」

「オイル交換の責任だよね!!」

『ひっく……うう…………しくしく』

「あっ……いや、その……」

 全否定したのがまずかったようで、さらに雨糸が泣く。

「あー、ゆーきが泣かせたー」

 誰のせいだよ!

「くっ、まあ……終わったら一つ言う事聞いてやる。だから泣くな」

『…………ひっ……く…………うん』

「じゃあ、続けるぞ」

『うん……』

 そうして、ジョイントホースの中間にあるポンプを、排出アウト側へ動かし始める。


 クッ、チュウウーー。

 ポンプで液体を吸い上げる。どこか卑猥な音がLL教室内に響く。

『んんっ…………んくっ…………いや、恥ずかしい……ううっ……』

 声をあげるな!!

 そう言って口をふさぎたくなるのは、ひょっとして危ない思考なのかも知れない。


 ピチャ。

『いやん……』

 俺もいやだよ……


 クー、ココココ……。

『あふう……』

 ひょえええ…………字面じづらやべえ。


 ぶぴゅ……

『ううう、だっだめ……』

 ごめんなさい……。


 ぷぷぷ……

『許してよう』

 無理……。つか、もうじき来る!

 ぶっ!!

 キター―――――――――――!!!!!!!!

『あうっ!! ……もういやあ……』

 両手で顔を覆って泣く雨糸二号

「ぐっ……だっ大丈夫だ。分かってるから恥ずかしくないよ……」

 と、以前に言ったフォローを繰り返す。

 ……しかし、音が卑猥なのはボディの違いなのだろうか?


「……でもちょっと待てよ? さっきから反応してるのはどうしてなんだ?」

 まさか内部にまでセンサー類が配されているとは思えず、オイルを入れる前に手を止めて聞いてみる。

『えっと……なんか、お腹を下してる……みたいに、グルグルする…………感じ……がする……の』

 照れるように雨糸二号が言う。

「ボディが柔らかいから、膨らんだり凹んだりする感覚が表面センサーに感知されてるだけアル。多分人間にはトイレが近くなるような感覚に近いんじゃ無いアルか?」

『そんなのいやあ』

「身も蓋もねえ……」


「いやいや、これも立派な検証作業アルよ? だから恥ずかしがらずに素直に感じるがいいアル」

『ふええ……』

 ……本当、ごめんな。


 この時ほど、雨糸を巻き込んだ事を悔やんだことはなかった。


「じゃあ、サクっと終わらせよう」

 雨糸二号の頬を指先で優しく撫でる。

『……ふぁい』


 そして今度は、ナラシ用の赤より濃い、濃紅色をした高粘度オイルのビンに吸い口を移して、再びポンプを持って動かし始める。


 コキュ……

『うっ……』

 こっこれは……。

 高粘度ゆえ、ポンプを動かす緩急の動作がダイレクトにボディに伝わる。


 コキュ、コキュ……

『んんん……うぐっ』

 タオルの下で雨糸二号がボディのお腹を押さえる動作をする。

 うおお、そんなに感じるのか?


 コッキュ、コッキュ、コッキュ……

『おっ、お腹が…………ズンズン……来ちゃう…………よう』

 うくっ! ……なっ、何が来るんだよ?

 早く済ませようとリズミカルに動かしているのが、かえって刺激が強いようだ。


 ギュッ、ギュッ、ギュッ……

 満タンが近くなり、ソフトボディゆえの収縮抵抗で、ポンプを動かす力も強めていく。

『くっ……まっまだ、おっおお…………わら……ない……の?』

 苦しそうに全身に力を込めて聞いてくる。

「くっ……もっ、もうじき…………終わる……よ」

 精いっぱい柔らかい口調で言うが、どう聞いてもヘンタイ行為を強要しているように聞こえてしまう。


 ギュギュウー、クキュキュキュ……

『おっ、おわ……り?』

「はぁ、はぁ。……ああ、終った……よ」

『よかっ……た。…………無事に終わって』

「ああ、じゃあちょっと立って足で踏ん張っててくれ」

『う……ん……いい、けど……』

 不思議そうに雨糸二号が聞き返す。

「抜くときボディを掴むより、そのまま下に引き下げた方がジョイントプラグを抜きやすいし、お腹を圧迫しなくていいかなって、思ってさ」

『裕貴……』

 嬉しそうに雨糸二号が見上げてくる。

「ほうほう。ふふふ……気を付けるがいいアルよ」

 雛菊が嬉しそうに何事かを忠告してくる。

「……何を気を付けるんだ?」

 タオルにくるまれたまま立った、雨糸二号の股間にぶら下がるジョイントプラグを掴み、一気に下に引き下げる。


 ブシューーーーーーーーーーーー!!


 抜いた途端、あたかも変態プレイをしたかのように、テーブル一面にオイルが飛び散った。

『いやあーーーーーーーー!!』

 雨糸二号が絶叫する。

「なっ、何が……?」

 手を真っ赤にして呆然とする。

「あーあ、だから気を付けろって言ったアル」

「だから何があったんだ?」

「入れ終わりに、少し空気が入ったのに気付かなかったアルか?」

「あ、そっそうだけど、でっでもこんなに噴き出すな……あ!」

「ソフトボディーで、おまけに雨糸二号が踏ん張ったから、“オイルに内圧が掛かっていたせい”アルよ」

『じゃあどうしたら……』

 タオルを羽織ったまま、その場にへたり込んだ雨糸二号が聞き返す。

「それは……」

「エア抜き」

 言いかける雛菊に割り込んで簡潔に言う。

『エア抜き?』

「……ああ、内圧がある場合、まずは空気を抜かなきゃいけないから、プラグを引き抜くんじゃなくて、プラグの所に空気が集まるようにしてから、アウトに切り替えて空気を抜かなきゃいけなかったんだ」

「注射で空気を抜くのと同じアルな」

『……じゃあこの場合』

「…………」

「Vゾーンをてっぺんにして、空気を集めてからプラグを操作するアルな」

 言いよどんでいると、雛菊が言いきってしまった。

『そんなの嫌よ!!』

 だよね……ホント、ごめん……。


 „~  ,~ „~„~  ,~


 ――その後、嫌気がさしたのが幸いしたのか、無事に雨糸二号からリンクアウトできたので、オイルの再注入を終えることができた。


 そうこうしてるうちに昼になったので、祥焔先生のいる機械科準備室で昼食を取る事になった。

「……そうだったの。それで青葉も途中でリンクアウトしたのね?」

 俺から黒姫の事を聞き、さくらが納得した。

「すまないな雨糸、私の分まで用意してもらって」

 サンドイッチをほおばりながら、祥焔先生が礼を言う。

「いいえ、DOLL達が目立つから、学食とかは遠慮した方が良いかなって思いまして」

「まあな。今日は特に二体が居なくなるなんて状態だから、聞かれても面倒だったしな」

 フローラもフォローする。

「……でっでも、ウイちゃん。なっなんか、急に、けっ……血色が良く……なった、……ね」

 涼香が嬉しそうに聞く。

「「!!」」

 俺と雨糸がビクッとする。

「ふふふ。それはウイがゆーきに初めてを捧げたせいアルよ」

 またしても雛菊がばらす。

「初めて…………へええ、何を捧げたのかしら?」

 さくらは笑っているが、目元に血管が浮いていた。

「詳しく聞かせてもらおうか」

 フローラが立ち上がって近づいてくる。

「隣りの倉庫なら空いているぞ?」

 祥焔先生がイヤなフォローを入れる。

「雨糸、涼香……」

「「……………………」」

 涼香は小さく手を振り、雨糸は真っ赤になって俯いてしまっている。

「いや……だ。たった助け…………」

 さくらとフローラ、二人に腕を掴まれ、背中からズルズルと倉庫の方へ引きずられていく。


「あ”~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」

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