十月桜編〈桜Resonance〉


 ――コンコン


 ノックの音に、肩身狭く俯き、ぼそぼそ食べていた顔を上げる。

「どうぞ」


「五目ラーメン大盛りお持ちしました」

「ああ、圭一の注文か、――はい、ご苦労様です」


 ラーメンを受け取って振り返るが、さっきから肝心の圭一の姿がない。

「どこ行ったんだ?」

「圭一さんなら、さっきトイレと言って出て行かれました」

 中将姫ちゅうじょうひめが答える。

「そうか。……にしては遅いなあ、のびちゃうぞ」

 散々泳いで腹が減ったと騒いで、個室のみの出前サービスメニューで注文したのだ。

「中将、悪いが圭一に連絡してくれ」

「承知いたしました」

 中将にツインを通して連絡させる。

「そうそう、食べ終わってからでいいんだけど、女子達はちょっとbathingベイシング ribbonリボン姿の画像を取らせてもらえないかしら?」

 一葉がみんなを振り向いて聞いてみる。

「そういえば静香が送れとかなんとか言ってたな」

「いいわよ」

 さくらが答え、フローラ、雨糸、姫香が頷く。

「……ふん。放任のくせにこういう事には興味を示すのか。まあ、元モデルなら当然か」

「でもどうして見たがるのかしら?」

 憮然としていう俺に雨糸が聞き返す。

「さあな。涼香は分かるか?」

「ううん。分からない。……もっモデルだった事も、本……を見るまで言った事……ななかった……から」

 そう言う涼香は甘いものをたっぷり食べ、目をこすって気だるげに答えた。


「そうか。まあいいや、この出来で文句を言われる事はないだろうけど、なんかあったらまたウチへ逃げてこい」

 女子達を笑いながら涼見渡すとみんなも頷いた。


「……うん。ありがとう」


「じゃあ、画像の方は一葉に任せて、そこのベンチで横になってろ」

 眠たそうな涼香を促し、持っていたタオルを肩にかけてやる。

「うん」

 そう答えて涼香がベンチに行って横になる。

「裕貴さん。ちょっとすいませんが圭一さんの様子を見て来て頂けませんか?」

 中将姫が聞いてくる。

「どうした?」

「圭一さんの返事がないんです」

「分かった。場所はトイレでいいんだな?」

「はい。出て左にある男子トイレにおります」

 DOLLは普通、トイレや温泉施設などでは、先ほどのような待機所に待機させるのがルールだ。

 一応システムやプログラムで記録を目隠しマスキングする事も出来るが、やはり異性モデルが傍に居ると、落ち着いてできないという意見が大半で、通常は入り口などに設置されている、待機所に一時的において置かれる。

 マスターの安否については、すぐそばでツインをモニターしているDOLLが、異常を察知したらマスターの元へ駆けつけるようになっているので、何ら問題がないとされている。

 ちなみに待機所に置いている間のDOLLは、準警戒レベル状態に移行し、随時関係機関とリンクしており、DOLL本体の安全も図られている。

 先ほどのような場面でも、超高級モデルである青葉――“DIVA”が、単独でいても手出しされないのはその為である。


「さてと」

 部屋を出てトイレに向かい、中に入る。

 ……? いねえな。ウ〇コか?

「おーい、圭一~」

 見当たらないので、閉まっている扉に向かって声をかける。

 キイ。

 音がして手前の方の扉が少し空いたので近づいてみる。

 ツインでモニタリングしている以上、中将姫の情報は間違いがない。

 そして、反応のあった扉の前に立ち、もう一度声をかける。

「そこにいるのか?」

「……ああ。いるゼェ」

 力のない返事が返っいてきた。

「どうした、プールで冷えて腹でも壊したか?」

「いや、そんなんじゃないんだ」

 扉が半開きになると、圭一が赤い顔をのぞかせて返事をした。

「顔が赤いな、具合でもわる――うわっっ!!」

 バタン。

 中に引き込まれると圭一に壁ドンされる。

 見ると圭一は火照った顔で息を荒げていた。

「裕貴、俺たち親友マブダチだよな?」

「あっああ。そう……だな」

 圭一の真剣な言い方に 古い比喩をツッコめず、すこしどもる。

「良かった。頼みがある」

「なっ、なんだよ……」

「貸してくれ……」

「うっうん?……何をだ?」

 金か? そりゃ今なら億単位で貸せられるが、どうもそんなんじゃなさそうだ。

「けっ……だ」

「け?」

「うりゃっ!」

 聞き返した途端、掛け声とともに腕をねじ上げられ、強引に後ろを向かされる。

「――つっ!! おい!! 何すんだ!!」

「ケツ貸してくれ!!」

「なんだと!?」

 驚いて自由になる顔だけ振り向かせると、そこには信じられないモノが見えた。

「圭一! お前勃ってるじゃねえか!」

「ああ、裕貴が女共を焚き付けるからこうなっちまったんだゼェ」

 ハァハァ……。

「くつ!! そっそれは……」

 圭一の荒い息を後頭部に感じながら、自分の窮地を悟る。

 それで密かに部屋から居なくなったのか。

「畜生……結構自分が“ウブ”なんだって気づいちまった」

「だっだっ、だからってこんな事すんなよ。家で自家発電オ〇ニーでもすりゃいいじゃないか!!」

「それまで聖剣ムスコをおっ勃てたままか? つか、そもそも“あの中将姫AI”の前でセン〇リなんてできるわけねえだろおがよおっっ!!」

 圭一が悲痛な叫びをあげる。

「わっ分かった! 黒姫や青葉に言って中将にブロックかけるから、……だから放せ。……な?」

 力では圧倒的な差があり、何とか口先で説得を試みる。


「もう遅せえ、勃起っちまったモンはどっかに収めなきゃしずまらねぇンだ」

 トイレセカイの中心で劣情アイを叫ぶけいいち


「いっいや、他にも方法があるはずだ……」


「大丈夫だ、壁のタイルの目地で迷路を解いてる間に終わらせてやるから」

 なんだその壁の使いかた!!

「たったすけ……」

 思いツッコミと裏腹に気弱なセリフがこぼれてしまう。

「なあに。イザとなったら責任は取ってやるし、そうなったら裕貴も土建屋の若旦那だゼェ!」


 そう言うと圭一が俺の水着に手をかけた。


「ヤメテ~~!!」

 トイレに俺の叫びが響き渡る。


 誰か……、僕のお尻を守って……。


 „~  ,~ „~„~  ,~



 ――涼香の家。

 昼過ぎに涼香からのメール着信の音に目が覚め、寝ていたソファから体を起こす。


 裕貴のマッサージが効いたのか、ソファで寝ていたのに、思いのほか深く眠り、体が軽くなった事に気づいて、首や肩を回してみる。

 ……ふっ、手を抜かないなんて、“あの子も”とんだお人好しだわ。

 クスリと笑いながらダイニングテーブルに設置された総合端末を起動した。

「涼香のメールを表示して」

 音声入力で指示すると、全面ガラス張りの分厚いテーブルの中心部分が発光し、一般向けでは最大クラスの空間投影図エアビジョンが展開された。

『ママへ』

 そう件名が表示され、続いて短い文章と添付ファイルを示すアイコンが点灯した。

『みんなの画像を添付しました。見てください』

「……開いて」

 口元に笑みを浮かべながら、次の指示を出す。

 最初に姫香の画像が表示された。

 個室のテラスに置かれたサマーテーブルに腰を当てて斜めに立ち、背中に手を回しながらポーズを取った画像だった。

「この子もずいぶん女らしくなったものね」

 呟きながら様々な角度で撮られた画像をスライドショーモードで見て、西園寺雨糸の画像で一時停止した。

「この子は……確か小学校からの……?」

 右側に別ウィンドウを呼び出し、涼香のアルバムを開き、空間認識エア・フリックで次々とスライドさせる。

「……やっぱり西園寺君の娘。……ちっ、子供だと思っていたのに、いつの間に“あの子”とこんなに親しくなったのかしら?」

 舌打ちをしてアルバムを閉じ、スライドショーを再開する。

 そしてフローラの画像の時、また一時停止させてじっくり見る。

「ずいぶん背が高かったけど、あの子は気にしないのかしら……? ずいぶんタイプが違うから要観察ね」

 そう言うとまたスライドショーを再開させる。

 そして、さくらの画像が映しだされた瞬間、静香が突然立ち上がる。

 ガタッ!!

「なんで霞さくらが生きているの? どうして――」

 腕を組んで考え込み、テーブルの端に待機していた楊貴妃レディ・ヤンに声をかける。

「ブルーフィーナスへ音声発信、受付に“元妻が大島護と話しがある”って言って」

「承知しました」

 そうしてしばらく待った後、楊貴妃レディ・ヤンが繋がった事を伝えると、画面上の画像ファイルが縮小し、代わりに大島護が映し出された。

「お久しぶりです“あなた”」

『ああ。元気そうで何よりだ』

 言葉だけなら近しい間柄の会話だが、二人には何の感情もこもっていなかった。


「『………………』」


 お互い腹を探る様に沈黙するが、ややあって諦めたように静香が口を開く。

「ふう。……動じないと言う事は、今の状況を知っているのね」

『もちろんだ』

「……霞さくらは“助かったのね?”」

『ああ』

「どうして“あの子”のそばに居るのか教えてくださらないかしら?」

『聞いていないのかい?』

 護の切り返しに静香が顔をしかめる。

「私は“あの子”に憎まれてるわ。知っているんでしょう?」

『私にはそう見えなかったがな。でもまだ諦めていなかったのかい?』

 質問には答えず、少し憐れみをにじませた声で護が聞き返す。

「そうよ。私は執念深いの。知っているでしょう?」

 静香が開き直った様に答える。

『知っている。君は一途だと言う事をね』

「そうやって予防線を張っても無駄。だからさっさと話してくださらない?」

 イラついたように静香が催促する。

『分かった。だが私が話す内容はさくらがそこへ行くまでの話にしておこう。行ってからの話は“彼”に聞くといい』

「今更“彼”が関係あるというの!? それともまた彼を巻き込んでいるの!?」

 静香がテーブルを叩かんばかりに怒りをにじませて詰問する。

『……それは私の話しを聞いてから判断してくれ』

 護は少し厳しい顔をした後、なにか説得を諦めたようにそう告げた。

「分かったわ」


 „~  ,~ „~„~  ,~



 ――サンリバー長野の個室。

「……助かった」

 裕貴がテーブルに突っ伏したまま呟く。

「いいえ。マスターがご迷惑をおかけしました」

 脇にいた中将姫が謝る。


 さっき、あわや後ろの純情を圭一に奪われそうになった時、ツインで事情を聴いていた中将姫が、トイレに駆け込んできて圭一に雷神の一撃トールハンマーを叩き込んでくれたのだ。

 ライトスタン《それ》は触れていた俺にも余波が及んだが、丁度仕切のアルミサッシに触れていたおかげで、分散して威力が半減していたのだ。

「なにがあったの?」

「聞かないでくれ……」

 姫香が聞いてくるが、こればっかりは言う訳にもいかない。

「圭一君大丈夫~~? 食べられる~~?」

 のびきった五目ラーメンをすすっている圭一を、さくらが気遣う。

「はぱ、……っはは、でっ、大丈夫だゾぇ……」

 電撃の後遺症であちこちヒクつかせ、半分緩んだ口元からスープを垂らしながら圭一がカラ笑いする」

 ふっ、ざまぁねえな。――いけね。

 そう思ってから、そばに居て純真な目を向けている(主観)黒姫と目が合い、汚れた自分の思いに少し後悔する。


「……全く。私達のセクシーポーズを生で見ないで、男同士トイレで何やっていたのよ」

 雨糸が呆れる。

「そうよう裕兄ちゃん。私なんてすっごいポーズ取ったんだから」

「――っ! どんなのだ!?」

 驚いて一葉に聞いてみる。

「こんなのよ」

 と言って、一葉が壁の積層ディスプレイレリーフホログラム接続コネクトして映し出した。

 見ると、パレオを外して後ろ手でテーブルに手を付いて、俯き加減で薄く笑い、内股でVラインを微妙に隠しながら、カメラに向かって右足を突き出している画像だった。

 ――そう『私の足を舐めなさい!』的なポーズだ。


「ぶぼはがっっ!!」


 おいっ! そう怒ろうとした瞬間、悲鳴が聞こえたのでそちらを振り向くと、圭一が伸びた麺を鼻や口から盛大に吹き出して白目をむいていた。

 こりゃあ逝ったかな?

 ――合掌。

 慌てて雨糸とさくらが駆け寄り、圭一の背中を叩き始めた。

 二人ともやさしいいなあ。

「dirty.……そういえば青葉。さっき汚されたとかなんとか言ってたな。あれは何だったんだ?」

 汚物を見るように見ていたフローラが、思い出したように言った。

「う、……逸姫いっちゃんたら、私のボディカラダで、はっちゃけちゃって、ポールダンスとか、バ〇殿とか、動物のモノマネとか演歌とか……とにかく周りのギャラリーのリクエストに応えて、……」とにかく色んな事やっていたのう」

「それは、気の毒に……」

 さしものフローラもかける言葉がないようだ。

「でもどうして、ボディにいなかった青葉がそれを知ったんだ?」

「「――うっ!!」」

 青葉だけでなく黒姫まで面喰ったように言葉に詰まる。

「それは青葉がローカルネットにフィルタリ「おバカ!!」あうっ!!」

 代弁しようとした雛菊デイジーを、一葉がカラテチョップでツッコミを入れて止める。

「……まわりで撮影していたユーザーが、SNSにアップしているのを見つけたんです」

 中将姫が一葉と雛菊を見て、呆れながら答える。

「ああ、なるほど。でも十二単おまえたちならハッキングして削除デリートできるだろ?」

「それは――。

 言いかけた一葉を黒姫が制する。

「うん。できるけどわたしたちの力は使つて思うの」

 思いがけず真剣に黒姫が答えるのでびっくりする。

「それはいい判断だ。黒姫は順調に人間の良識を吸収しているな」

 フローラが笑いながら褒める。

「そうね。いいことだわ。……でも本当にすごいAIよね」

 雨糸が心底感心する。

「……そっそう? えっへへ~~♪」

 照れながら俺飲んでの陰に隠れてしがみついてくる。


「あ~~、やっぱりいいなあ。早く私もDOLL欲しいなあ……」

 姫香が呟く。

「DOLLはムリだけど、デバイスにわたしたちの姉妹、十二単衣トゥエルブレイヤーをインストールする事は出来るわよ」

「本当!?」「なにっ?」

 一葉の言葉に姫香と同時に叫ぶ。

「ええ。本当。だけどボディがないから、ただ会話したり、ネットやアプリの補助ホスティングするだけのそんざいになりわ」

「でも! でも! あなたたちって“人間みたいに”成長するんでしょう?」

「まあね。今は黒姫姉さんがバージョンアップしているから、性格だけじゃなくて人格もね。極端な話をすれば、性別やモラルさえも変わっていくのよ」

 簡潔に姫香に説明する一葉。

 ……そうだ。Alphaとはそう言うAIなんだ。

「つまりはケンカもできるし、嫌いにもなっちゃうって事でしょ?」

「それがどういうことか分かって言っているのか?」

 あまりに軽く言う姫香に真剣に聞く。

「もう! 分かっているわよ。だから仲直りする事も、もっと大好きになる事も出来るって事でしょ?」

 そう言ってベンチで寝ている涼香の元に行くと、涼香の髪を持ち上げながらフローラを見る。

「ふふ、そうだったな。よく理解しているじゃないか。そう思えるなら、姫香も十分資格があると思うぞ」

 その行動の意味が分からない俺と雨糸は小首を傾げた。

「まあ、姫香にもデジーの姉妹がついていたら、その方が色々と安心アル」

「!」

 雛菊の言う通りだ。何かに巻き込まれた時、超法規的な判断と行動がとれるAIが傍に居る事が、どんなに心強いか。

 そう。ブルーフィーナスに乗り込んだ時の雛菊のように。

 それにかえってボデイを持たない分、相手を油断させられるだろうし、警戒もされずに済むだろう。

 そこまで考えてフローラ、雨糸に視線を向けると二人とも軽くうなずいた。

「分かった。じゃあ性格設定とかは、雨糸やフローラが俺より分かるから、二人に頼んで、それで見てもらいながらやってもらえ」

「わーーい! じゃあ二人ともさっそく今日うちに来て面倒見てくれる?」

「いいぞ」

「えっ!? ――ってでも、デバイスにインストールなんて、その分の設定変更もあるから、開発者緋織さんとかに確認しないといけないし、何時間かかるか……」

 二つ返事のフローラに対し、雨糸が消極的だ。

「裕兄ちゃんのアルバム見せてあげるし、画像も上げるよ?」

「行く!!」


「兄を売りやがった!!」


 そうして、ようやく涼香が目を覚ましたので、休憩中桜についてに話しかけた事を話す。


「――という事で、お父は立派なオタクになりました」

 さくらは涙ぐみながら続きを話し終え、俺がみんなに笑いながらまぜっかえすように言う

「ふふ~~。もうっ! ゆーきったら照れちゃって。分かってるはずよ? 生半可な正義感や覚悟でそんな事できないって」

「!! ……ああ」

 さくらが知ったように言うが、Alphaの記憶と想いを受け継いでいるのを、この言葉で改めて実感する。

「……ああ。本当にな」

「おっ、おじさんが……」

「確かに裕貴はおじさんの子なのね」

 フローラ、涼香、雨糸が俺を温かい目で見つめてくる。

 ……参ったな。オレの事じゃないのに。

「あれ? でもあの時歌なんて歌ったのかな? 聞こえてこなかったよ?」

「うん。あの時はホントボロボロ泣いちゃって、まともに声が出せなかったから、またの機会に、って昇平さんと話したの」

「またの機会?」

「そ。でもそれはまたのお楽しみ~~」

「ふうん。……まあいいけど、実を言えば俺もさくらの生歌聞きたいな」

 はたして歌えるのかどうか判らない今の状態で、歌をリクエストするのはどうかと思って遠慮していたが、歌えるというのならやはりファンとしては目の前で生歌を聞いてみたいと思う。


「ふふ。裕貴の為ならベッドの中で子守歌だって歌っちゃううわよ」

「ほん――!! ……いやそれは遠慮して、おこうかな」

 雨糸とフローラの怒りのオーラに加え、姫香のドン引きした視線を受け、言葉をキックターンさせる。

「そう?」

「……んじゃあ今一曲だけいいかな」


「アカペラになっちゃうけどそれでもいいなら歌うわよ。何が良い? カバー? オリジナル?」

「ママ! 何のために私がいるの!!」

 ここぞとばかりに青葉がテーブルの真ん中に進み出て、ふんすと胸を張る。

「そうか。そうだったな」

「ええ~~?どういう事? マイクが無いのよ?」

「そんなの私の前じゃ要らないわ。ママの声だけを拾ったうえで、増幅しながら伴奏もできるし、お姉ちゃん達のスピーカーを借りればサラウンドシステムだって構築できるわよ」

「ふふ。いいわよ」「協力するアル」「喜んで」

 一葉、雛菊、中将姫が二つ返事でOKする。

「じゃあOKAMEを使っていいから映像も記録しておこうか」

「本当!? じゃあOKASMEちゃんにリンクさせてもらうわね」

「ふ、いいとも」

 オシオキされたせいか、今度はちゃんと許可を取る青葉にフローラが笑う。


「じゃあ歌は何がいいかしら?」


「そうだね、『桜Resonance』がいいな」


「それかあ。ふふ。思い入れがある歌だから途中で泣いちゃったらゴメンね?」

「いいよ。平気で歌えるようになったら、俺ファン辞めちゃうかも」

「……もう。ゆーきって以外とイジワルね」

「え!? 何!? どんな歌?」

「聞けばわかるさ」

 雨糸の質問を笑いながらかわして答える。

「準備できたよー!」

 青葉がほかのDOLL 達とリンクして、部屋の四方に配置を終えた。

「青葉、長ネギは要らねーのか?」

「あ!」

 圭一のツッコミを離れていて中将が止められず、顔を曇らせる。

「いらないってばもうっ! 圭一のバカ~!」

 青葉がプンスカするのをみてさくらが微笑み、それを合図に歌い始める。


「じゃあ……すうっ……。


 さくら色の木漏れ日が

 君の横顔染めている

 何を見てるの?

 と聞いてみた

 花を―― と答えて振り向いた

 その穏やかな微笑みに

 君の心が知りたくて

 好きなの? と聞き返す

 答えはわかっているけれど

 散ったら桜なんて……

 意地の悪い私

 そんな事は―― と否定する

 桜なんて大嫌い

 庇う言葉が聞きたくて

 もっともっと聞きたくて

 心を共鳴させたくて

 桜Resonanceレゾナンス

 だから錯覚してしまう

 サクヤヒメも怒るわね

 この報いがあるとして

 この瞬間ときだけは許して欲しい

 好きって言われたい

 あなたの声で言われたい

 春限定の自己陶酔ナルシズム

 生まれ変わりがあるのなら

 私は桜になりたいわ

 さくらを見染めてくれたなら

 花の涙で応えるの



 

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