第13話 さっちゃんの悩み

 強い日射しの中、さっちゃんは橋の真ん中で一人立ち尽くしていた。

 橋の下ではさわさわと大きな川が流れている。水面がキラキラと輝いていてきれいだ。


 さっちゃんはキラキラしている川や、すっと広がる空が好きでよく眺めている。魚のようにキラキラの中を泳いだり、広くて大きな空を自由に飛びまわったりするのを想像しては心を躍らせているのだ。


 でも今日のさっちゃんは悩んでいた。

 たった今、目の前で起こったことが本当のことだったのか、さっちゃんにはわからない。わからないから悩んでいた。

 橋の上、さっちゃんの足元には一足の靴がきれいに並んでいる。おねえちゃんのおしゃれな靴だ。

 さっちゃんは遠くから見ていた。

 おねえちゃんが橋の上で靴を脱ぎ、丁寧に並べているところを。

 おねえちゃんは近所に住んでいてとてもおしゃれで大人っぽくて優しい人。

 そんなおねえちゃんが橋の真ん中で靴を脱ぎ、靴下のまんまでぼぉっとしていた。

 それから橋の柵をよじよじと登って、ぴょんっとジャンプして、橋の上から消えて、ドボンという大きな音がして。

「あっ!」

 さっちゃんは思わず声を上げていた。

 大きな水の音と同時にかわいらしい小鳥が飛び上がっていったからだ。

――おねえちゃんが小鳥になった!

 さっちゃんは大急ぎで橋の上のおねえちゃんが靴を置いた場所まで走った。


 おねえちゃんによってきっちりと整えられた靴の所まで来ると、さっちゃんはおそるおそる橋の下を覗き込んでみる。

 ……何事もなかったかのようにさわさわと大きな川が流れている。


 さっちゃんは悩んでいた。

 人が小鳥になってしまうなんて聞いたことがない。でも、もしかするとみんながさっちゃんにだけ内緒にしていて、本当は……?


 強い日射しの中、さっちゃんは橋の真ん中でいつまでもいつまでも一人立ち尽くしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る