説明会後半


 二、キャラクターの作り方


 テーマを物語として語るのがキャラクター。主人公の造形とキャラの配置で物語の方向性が決まり、キャラを作り込むことでテーマを深堀りできるのです。

 特に物語の転機におけるキャラの行動は重要で、このキャラならば当然このような選択をすると読者が納得できる行動をさせなくてはなりません。キャラが作者の操り人形にならないように注意しましょう。実在の人物をイメージすると良いかもしれませんね。サイバーセキュリティに携わる人たちってどんなキャラだと思いますか。と、サイバーセキュリティに関わっている方々を前にしての編集長の無茶振り。それに対する回答。


 本川さん:主人公は一般人でもよい。受賞作を出版するスニーカー文庫の読者層は十~二十代。となれば若い主人公の周囲にそういったキャラを配置し、巻き込まれ型の話にすれば若年層の共感も得られると思う。


 加藤さん:人物像の作り込みをする上で重要なのはその動機。どうしてこんな地味で報われないサイバーセキュリティに携わっているのか、その理由を深く掘り下げればリアリティのあるキャラが造形できると思う。


 名和さん:(※ここは作者の独り言)これ、書いていいのかなあ。いきなり平成二十七年八月三十日に急死した実在の人物を上げて、その人となりを話し始めましたからね。その方、相当優秀だったみたいで、他の人がやらないから、自分にはできてしまったから、だからやっている、みたいな人だったようです。これ以上知りたい方は「ハッカー 公安」で検索しましょう。


 その後加藤さん追加:セキュリティ屋は会社の利益はあまり考えない。他人の安全や人の役に立ちたいと考える人が多い。


 ここまでの回答を受けて、編集長の無茶振りが加速。皆さん、サイバーセキュリティの道に進もうとされた切っ掛けは何ですか? と質問。


 加藤さん:必ずしも正義感だけではない。裏にダークな感情があるかも……と言いながらその後追加。面倒を見ていたサイトが攻撃を受けたのでそれを何とかしたいと思ったのが最初かな、と回答。なんだか加藤さんって掴み所のない人物ですね。


 本川さん:若い頃はセキュリティという仕事はなかった。システムの仕事をしていると誰もやらない黒い部分ができる。それを綺麗にしているとセキュリティになった。


 名和さん:(※ここは作者の独り言)これもまた書くのを躊躇する内容なわけです。というのも名和さんはかつて自衛隊に所属していたそうで、軍関係の話ってのはあまり書きたくないわけですよ。まあ、ビクビクしながら書くと平成十三年海南島事案の後始末が切っ掛けだそうで、そのようなお仕事をしていた時に上官の命令で任務として開始したのが最初、とのこと。簡単に書きましたが実際には事細かに語っておられました。


 話を聞いていて感じたのは、セキュリティ関連の方ってワンパンマンのようなヒーローキャラに似てるなあってことです。

 場所と時に関係なく毎日のように出現するウイルスやワームなどは、言ってみれば別世界から出現する怪人みたいなもんですよ。そして「敵出現」の報を受けて出動し、自分の持てる技量を駆使して怪人、ではなくウイルスを退治する。もちろん誰にも褒められない。もうヒーローそのものですね。


 しかしエンタメヒーローと大きく異なるのは余りにも地味だってこと。光線を発射したり派手に格闘したりなんてことはなく、基本動作はマウスをクリック。もちろん必殺技を大声で叫ぶなんてことはなく無言でディスプレイに向かうだけ。ビジュアルが貧相すぎて漫画や映画にしても盛り上がりそうにありません。エンタメ小説のキャラとしては少々物足りないところ。あくまでリアルを追求するか、見映えを重視した虚構性を付加するか、キャラの特徴づけに少々悩むところではあります。



 三、ストーリーの練り方


 テーマとキャラが決まれば次はストーリー。エンタメの場合はカタルシスをどう作るかが最重要事項。作者の都合で話を動かすのではなくキャラの行動とストーリーラインを無理なく噛み合わせるようにしましょう。一話一話緩急をつけて読者を飽きさせない工夫も大切です。さてストーリーを練ってサイバーセキュリティを盛り込むにはどうすればよいでしょう? 相変わらず難しい質問ですなあ。


 名和さん:クライマックスに種明かしを持ってくるのが良いと思う。フォレンジックな手法で、ハッキングを行っていた者が徐々に明かされていくようなストーリーはどうだろう。


 本川さん:PCのファイルからアクターの証拠を固め、積み上げていく手法は面白い。ただそれだとアクターの人物像がぼやける恐れがある。よく分からないまま終わった、という事態だけは避けて欲しい。


 加藤:やはり推理的なもの、散りばめられた情報を収集していくものが書きやすいと思う。しかし入り口は唐突にやって来ることもある。平和な日常が突然地獄へ急展開という始まりを池袋のギョーザ屋での実例をあげて説明。


 名和さん追加:映画も参考になると思う。例としてスノーデン(アメリカ国家安全保障局の盗聴監視プログラムを暴露した内部告発者の実話)

 ブラックハット(香港の原発がハッキングされる話)を挙げられました。加えて男は女に弱いのでそれを用いたハッキングなどもネタとして有効。


 プロットを組むのは一番大変な部分で、これが終われば小説は完成したも同然と言えましょう。まあこれに関してはどれだけ他者からアドバイスをもらっても、最終的には作者の力量に負う部分が大きいですからね。読者を飽きさせず、違和感を抱かせず、無理なく最終地点まで導き満足させる、そんなストーリーを作ってみたいものですね。はあ~……



 四、事実、技術の取り扱い方


 最後は事実、技術の取り扱い方です。物語には舞台設定が必要。現実世界が舞台ならどこまでをリアルにするか。ファンタジー世界が舞台なら「お約束」をどこまで使うか意識しましょう。特に舞台説明が必要な場合、余りにも長い説明だと勢いが削がれてしまいます。説明を分散させるなどの工夫をしましょう。事実・技術はリアルに徹するべきですが、嘘を入れる時は大胆に行った方が効果的です。サイバーセキュリティ小説における技術のリアリティに関して、皆さんどう思われますか?


 本川さん:ファンタジーでPCなどが出てくると、いつも時間同期はどうしているのかと気になってしまう。それはともかく超科学などを導入すると設定だけで大変なことになる。お約束はある程度使った方が良いと思う。


 加藤さん:技術を詳しく書くと逆にそれが気になることもある。煩雑になるくらいなら思いっ切り大嘘をついた方がよい。ありえないことが起こるのもまたファンタジー。


 名和さん:映画がお勧め。ミッション・インポッシブル、ヒットマン、ボーンシリーズなど。サイバー兵器は現象面で参考になると思う。



 大嘘をついた方がいいってのは同感ですねえ。これまで登場した創作物の中で技術面を完全に無視した大嘘は「タイムマシン」だと私は思っています。技術的な裏付けなんか全然無く「時間を移動する機械ができちゃったよー」で済ませていますからね。しかしこの大嘘は多くの人を魅了しました。現在に至るまでこの大嘘を使った作品が次々に作られているんですから。


 今回のコンテストだってこれくらいの大嘘をついてもいいと思うんですよ。「どんなハッキングも跳ね返す凄いモノができちゃった。これで安心」みたいな設定から始めて、それにまつわるドラマを描写していくような話。リアリティはそのドラマの中に散りばめればよいのです。逆でもいいですね。どんなセキュリティも打ち破る究極サイバー兵器とか、まあ妄想する分には自由ですからね、ええ。


 以上でパネルディスカッションは終了です。


 第五話 質疑応答(全体の部)


 まずは一人目の方。


 問:チームワークで行うセキュリティ作業について教えて欲しい。

 答:複数の人数が必要な場合は臨機応変にチームを組んだりする。その場合は適宜声掛けをする。


 問:チームにテンプレートのようなものはあるか。

 答:メンバーは最大でも十名程度。一名のリーダーが役割と人数を決める。例えばネット追跡に〇名、PC精査に〇名、マルウェア分析に〇名といった具合。事例に応じて役割や人数は変わる。ドラクエのパーティに似ている。


 問:AIが人に代わってセキュリティの仕事を担うのは可能か。

 答:現在、AIは大した仕事はできない。AIが危険と感知したものを人間が本当に危険かどうか判断しているのが現状。


 問:レディ・プレイヤー1という映画ではVR機器を扱っていた。VRのセキュリティについて教えて欲しい。

 答:VRで怖いのは洗脳。ただしヘッドセットは長時間装着できないので今のところその危険はない。ゲーム中にハッキングする行為は活発化している。


 次二人目の方。


 問:一般人とネットとのかかわりについて。

 答:ITに専門性は必要ない。誰でも犯罪者になるし誰でも被害者になる。


 問:セキュリティに関して攻撃と防御以外に何かあるか。

 答:ハッキングはなくとも似た効果は起こせる。例えばSNSを介した犯罪やリテラシー問題など。


 問:名和さんに尋ねたい。十年前の予測と現在で大きく違っているものはあるか。

 答:グーグルやFBの台頭、モバイル機器の爆発的普及、日本の衰退、この三点かな。


 次三人目の方。


 問:小説のターゲットは十代という話があった。若年層にどう伝えればよいか。

 答:出版社のターゲットが若年層という話で、小説に関しては年齢は関係なく面白いエンタメ作品ならよい。


 最後四人目の方


 問:貧しい人が法テラスに相談してホワイトハッカーにたどり着いたという事例はあるか。

 答:私個人のところに話が来たことはない。JNSAや大企業に来たという話も聞かない。(誰の回答か忘れました。すみません)

 少年院担当の弁護士から相談されたことはある(多分名和さんの回答)


 以上で全体の質疑応答は終了。この後は講演を行った四人、司会者、どこかの偉い人、の六人の元へ個別に質問するという形になりました。私は特に質問がなかったのでそのまま帰宅です。外は大雨でした。来る前に見掛けた神輿はどうしているのかなあと心配になりました。


 * * *


 これでサイバーセキュリティ小説コンテスト説明会のレポートは終了です。記憶が曖昧な部分は適当に書いておりますので、正確性に欠ける部分もあります。ご了承ください。あと個人的な雑感がいつにも増して多くなりました。お許しください。


 聞いていて一番楽しかったのは、やはり名和さんの講演ですね。残念ながらここでは紹介できませんが、今はもう通常兵器の時代ではないのだろうなあという印象を受けました。


 現代は日常にネットが浸透しています。例えば国家に対して大規模サイバー攻撃があったとしたら、国民の生活が大混乱に陥るのは想像に難くないでしょう。日常の中にネットが浸透すればするほど、サイバー攻撃の威力は増していきます。やがてその威力は核兵器を凌ぐほどの脅威となるかもしれません。


 先ごろ、とある北の国で核兵器廃棄の動きがありましたが、これは核兵器よりサイバー兵器の方が効率的に攻撃できると判断したから、と考えられないでしょうか。ひょっとすると私たちの知らないうちに、新たな脅威が大きくなりつつあるのかもしれませんよ、と名和さんの講演を聞いて思うわけです。


 国防がサイバー空間の平和を守るという意味に置き換わった近未来の様子を小説で描いてみるのも面白いかもしれません。国防費の大部分はサイバーセキュリティに当てられ、サイバー攻撃は武力とみなさなくてよいという決議により専守防衛の必要もなくなり、サイバー空間で積極的に攻撃を仕掛けていく日本サイバー軍団の物語……いや、性格的にちょっと無理か。私が書いたらお笑い小説になりそうです。でも近い将来には本当にそんな現実が待っているのかなあと感じてはいます。


 最後にセキュリティの知識がなくて投稿を迷っている方へ。私はスマホも携帯も所有していないネット未熟者でして、はっきり言って当初はまったく興味のないコンテストでした。にもかかわらず説明会に参加してちょっと何か書いてみようかなあという気分になったのは、賞金百万円に目がくらんだってのもありますが、むしろネット未熟者であることが主催者の狙いだからじゃないのかなあという考えを持ったからです。


 古い話で恐縮ですが、昔「マッハGOGOGO」というアニメがありました。この作品に登場するマッハ号の基本設計は、車に関してまったく知識のないスタッフが考え出したものなのだそうです。

 そう言われてみれば技術的に無茶苦茶な機能満載なんですよね。走りながらノコギリを出して木を切り倒すなんて、どう考えたって無理でしょう。

 車体下部からジャッキを出してジャンプするのもかなり危険です。停車している状態ならまだしも、高速走行中に地面にジャッキを突き立てたら、地面との摩擦でジャッキが破損しそうですし、車自体も急減速して大変なことになりそう……つまり車に詳しいスタッフならば絶対に設定しないような機能ばかりなんですね。

 でもこのアニメは大変好評でした。アメリカでも「スピードレーサー」として放映され、平成二十年には映画化もされました。残念ながら映画は大コケでしたが。


 マッハ号は車を知らないスタッフだったからこそ独自の発想ができた、今回の小説コンテストも主催者の狙いはそこにあると思うんですよ。ネットを知らない、セキュリティに関して詳しくない、だからこそできる発想、それを期待しているんじゃないでしょうか。

 冒頭にも書いたとおり、人間の想像力は科学技術を発展させるには不可欠です。技術者には決してできない発想、それがセキュリティを向上させる役に立つことだってあると思うんです。ですから技術的な事柄にあまり囚われることなく、自由に作品を書いて投稿すればよいのではないでしょうか。書いた作品はカクヨムで公開されているわけですから、あんまりひどい勘違いは親切な人が指摘してくれるはずです。そして指摘されれば直せばいいだけのことです。ちなみに私は一次落ち間違いないしの大馬鹿小説を書こうかなと思っております。



 さあ、皆さん、百万円目指して頑張りましょう! 御健闘を祈っております!


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