サイバーセキュリティ小説コンテスト説明会(2018年5月13日)

説明会前半

 第一話 五月の神田は祭りだワッショイ!



 神田川祭の中をながれけり


 作家久保田万太郎の俳句。この句で詠まれている祭は神田祭のことだと思っていたんですが、実は浅草橋榊神社の夏祭を詠んだもののようです。句だけじゃそこまで分かりませんよね。


 五月と言えば神田祭。ただし本祭は二年に一度。今年は陰祭なので華やかな行事はありません。でも日曜日に大手町の辺りをふらふらしていたら、神田祭の法被姿に囲まれた神輿に出会いました。ちょっと得した気分です。


 まあ、そんなこんなで日曜日の曇り空の下、昼食を済ませて神田駅までのんびり歩き、そこからさらに数分歩いた場所にエッサム本社ビルがありました。「サイバーセキュリティ小説コンテスト説明会」が開かれるビルです。


 カクヨムが関わるイベントに参加するのは昨年六月名古屋のサタデープログラム以来。特に用事もなかったのでちょっと覗いてみようかなという軽い気分で参加させていただきました。


 開始十分くらい前に会場に入ったらすでに大勢の方がみえていました。最終的に定員八十名のところ六十四名の参加登録があったわけですが、公式ツイッターの会場風景を見るとそれよりも少ない感じですね。キャンセル報告せずに参加を諦めた方もいたのかもしれません。逆に申込みをせず飛び入りで参加された方もいた模様。

 男女比はツイッターの画像を見れば分かるとおり大部分男性。私を始めとして結構なご年齢の方もチラホラ。平均年齢を上げてしまってすみません。


 受付でいただいた資料は次の四点。

 ●学研「まんがでよくわかるシリーズ133」インターネットの秘密

 ●日本レジストリサービス「ポン太のネット大冒険」

 ●技術評論社発行の月刊誌「ソフトウェア・デザイン」の掲載記事を抜粋した小冊子「DNSって何ですか?」

 ●施設見学の募集と参加受付の用紙


 で、定刻の午後一時半に説明会が始まりました。



 第二話 説明会の始まりは二人のご挨拶から


 まずは司会者のご挨拶。今回の小説コンテスト言い出しっぺの方で、その動機を簡単に説明されました。


「IT技術者に書かせてもサイバーネタだけで終わり人間描写ができない。人物像を掘り下げたサイバー小説を期待している」


 というようなお話。

 同感ですなあ。純文学なんかは特にそうですが、小説は人間の本質を描き出そうとするものですからね。カクヨムのコンテストでもキャラクター文芸部門が設けられているように、キャラが決まれば小説全体が決まると言っても過言ではないでしょう。私にそれができるかどうかは別問題ですが。


 司会の方の話は簡単に終わり、続いてコンテスト実行委員長、日立システムズの本川祐治さんのご挨拶。


 私が知る所ではカクヨムも参加したサイバーセキュリティ小説コンテスト関連のイベントは今回で三回目。


 第一回 三月四日「アナログハックを目撃せよ!秋葉原」

 第二回 四月二十日「第五回カクヨムユーザーミーティング」


 で、どちらのイベントも本川さんが出席されているので、今回話された内容も既出だとは思うのですが、私にとっては初耳なので簡単に書いておきます。


 小説を主催する「日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)」は二百十四社が加盟する非営利法人。これまでもセキュリティ啓蒙活動を行ってきたが小説コンテストは初の試み。その狙いは、


「地震などの災害と違いサイバー空間は人が作ったもの。人知の範囲内にある以上、人知によってサイバー攻撃を未然に防ぐことは可能。その為には想像力を膨らませることが大切。想像力を膨らませる手段として小説を活用できないか、との観点から小説コンテストを開催」


 ってことだそうです。


 これも同感ですねえ。科学の発展と人間の想像力は切り離せません。

 例えば百五十年前に書かれたジュール・ヴェルヌ「月世界旅行」では月からの帰還船は太平洋に着水するわけですが、実際のアポロの帰還方法もそれと同じです。

 また、中性子連鎖反応が発見される前に出版されたH・G.ウェルズ「解放された世界」では核兵器の危険性が描かれ、まだ原爆が存在していないにもかかわらずウェルズは反原爆運動を開始しました。まあ結果はご覧のとおりですけど。


 サイバーセキュリティに関しても同じことが言えるんじゃないかなあ。月世界旅行や原爆のように、当時は荒唐無稽と思われるような物語であっても、実はそれが現実の科学技術の先駆けであったわけです。

 ですから今回の小説コンテストも、奇想天外な発想がセキュリティ向上に大きく貢献する可能性もあるわけです。ですからここはひとつ思いっ切りぶっ飛んだ内容で勝負してみてはいかがでしょう。人間の持つ想像力は偉大です。AIにだってなかなか真似できないのですからね。



 第三話 「リアルハッカーとは」サイバーディフェンス研究所 名和利男氏


 続いて名和氏による講演。有名な方のようで某公共放送「プロフェッショナル仕事の流儀」にも取り上げられたことがあるとか。ググれば出て来ますので興味のある方はどうぞ。


 で、残念な話なのですが、この講演に関しては公開禁止の通達が出されました。ですので内容に関しては割愛させていただきます。画像、映像、動画、音声を駆使した名和さんの講演は四十分とは思えぬ濃厚な内容でした。

 いやあ、はっきり言って度肝を抜かれましたわ。例えるなら近くの公民館で開かれる「牛肉を使ったお料理教室」に参加しようと、オッサンであるにもかかわらず可愛いエプロンなどを用意してルンルン気分で出かけたところ、


 いきなり生きた牛を屠殺するところから始まった!


 それくらいのインパクトがある講演でした。


 死にゆく牛の鳴き声を聞かされ、皮をはぎ、首を落とし、血だらけの肉を眼前に並べられ、「ああ、私たちはこんなものを食していたのか。もう二度と牛肉は口にしないでおこう」と思う、そんな感じで、講演を聞きながら「ネットなんて危険なもの二度と利用したくねえ」としみじみ感じた次第です。


 まあ牛肉なら食べなくてもさほど問題はないですが、ネットを完全に利用しないとなると、これはさすがに生活が不便になりますから、それはできない相談ですね。そんな考えを抱かせるくらい迫力がある講演だったと理解してもらえれば幸いです。


 この講演以外にも名和さんはパネルディスカッションとか質疑応答などで発言するのですが、結構ヤバい内容のものもあるので、簡略化もしくは割愛してお送りしたいと思います。


 講演の最後には少しだけ質問コーナーもありました。これも書いたらマズいかなあ。いくつか質問があったのですが、私が面白いなあと感じたのはソーシャルエンジニアリングに関する話。

 これは人間をターゲットにしたハッキングで、例えば、入力している人間の背後から覗き見てパスワードを盗むとか、会社に忍び込んでゴミ箱を漁るなど、ネットを介さずにネット上のセキュリティを脅かす行為のこと。ですから人間自身のセキュリティも高める必要があるって話。ちょっとしたネタに使えそうですな。


 もうひとつ、

「お子さんが腕立て伏せの背中に乗ってくれなくなったらどうしますか」なんて質問もありました。何のこっちゃと思ったら名和さんを取り上げたテレビ番組の中でそんなシーンがあったようで、それに基づく質問だと後で説明がありました。私は未視聴でしたが、某公共放送の番組ですから視聴された方も多かったことでしょう。

 これで凄腕ホワイトハッカーの人物描写が簡単になりました。「彼は毎日幼子を背に乗せ腕立てをしている」この一文を追加すれば余計な説明不要で「ああ、彼はセキュリティに詳しい人物なのだな」と読者に通じるはずです。よし、これも使わせてもらおう、うん。



 第四話 「セキュリティ業界のネタあれこれ」長崎県立大学教授 加藤雅彦氏


 短い休憩を挟んで加藤さんの講演。名和さんの講演中、異常な緊張を強いられていた心身が一挙に弛緩しました。こちらは話の内容も口調も春の陽だまりのようにのんびりしています。


 最初は簡単な自己紹介。加藤さん、実は今回のコンテストの副実行委員長で、インターネットのプロバイダ関連企業に十七年ほど勤務した後、現在の職に就いたそうです。


 その後、JNSAの小説コンテストページを表示して、そこにある「ハッカーが選んだネタ記事リンク集」を簡単に紹介するという流れ。リンク集は、


 一、情報セキュリティ基礎知識

 二、ネタ(記事等)

 三、ネタ(長めのレポートなど)

 の三項目。


 基礎知識と言っても執筆しているのはその道の専門家ですから、ある程度の知識がないとかなり難しいです。帰宅してから試しにシマンテックの項目を見てみたのですが、使われている語句の意味すら分かりませんでした。たぶん利用することはないでしょう。


 二のネタ記事は一般向けの記事なので普通に読めます。ただし単純に関連記事を集めたもので、JNSAがその正確性や方向性を認めたものではない、って点が要注意です。参考程度に留めておいた方が良さそうですね。


 三にはレポートの他にブログ集もあります。ブログなら気軽に読めるだろうと思ってちょいと覗いてみたのですが、さすがは専門家の書くブログ。内容が真面目ですね。「今日はお仕事でセキュリティホールを潰してばかりいたから、おやつに出たドーナツの穴もつい潰しちゃった。あな不思議」とか、そーゆー下らない話は一切ありません。自分の不真面目ぶりを反省したくなりました。


 で、最後に「業界あるある」ちょっと愚痴っぽい内容でした。


 一、言えない話が多い(特に顧客関連)

 二、仕事が地味 クリックしたりプログラムを書いたりしているだけ。

 三、褒められることがほとんどない。逆にウィルスを作ってんじゃないかと疑惑の目を向けられる。

 四、業界が狭い。人材が少なく閉鎖的。友達の友達は知り合いだったりする。

 五、カタカナや二~四文字の略語が多い。しかもすぐに死語となる。

 六、自分だけはマトモだと思っている。


 セキュリティ業界だけでなく、別の業界でも当てはまりそうな項目もありますよね。小説のネタには使えそうです。以上で加藤さんの講演は終わり。



 第五話 パネルディスカッション 「サイバーセキュリティ小説はこう作れ!!」


 ここでいよいよカクヨム編集長が登場です。なまの編集長を拝見するのは約一年ぶりですかね。向かって左端に着席した編集長を見て、


「あれ、髪型が変わった?」


 と心の中で叫んでしまいました。以前に比べて随分頭髪が短くなっている印象だったのです。元々見目麗しいお方ではあるのですが、容姿端麗才色兼備を一層際立たせるヘアスタイルに、思わず天上の女神を重ね見てしまいそうになりました。あっ、お世辞が露骨すぎましたか。すみません。別に下心はないんですよ。まあ冗談はこれくらいにして話を進めましょう。


 登壇したのは編集長の他に名和さん、加藤さん、本川さんの計四人。編集長が「小説執筆の極意」を解説しつつ、何の前触れもなく突然答え難い質問を投げかけ、無茶振りされた三人の当惑した様子を楽しむという、パネラーにとっては針の筵に座らされたような時間になるのだろうと期待していたのですが、さすがは連戦練磨の三人、編集長の難題にも卒なく受け答えしておられました。


 編集長が提示した小説の書き方は次の四項目。これは今回のコンテストだけでなく一般の小説にも当てはまる内容です。


 一、テーマの選び方

 二、キャラクターの作り方

 三、ストーリーの練り方

 四、事実、技術の取り扱い方


 一、テーマの選び方


 テーマとしては時代や場所に関係のない普遍性のあるものが望ましいのです。多くの読者に受け入れてもらわなくちゃいけませんからね。誰もが持っているテーマ、つまり恋愛とか金が欲しいとか幸福になりたいとか、人間なら誰しも抱えるようなテーマが良いわけです。

 そしてテーマを決めたら迷子にさせずに一貫させること。どんな物語か一言で表現できるような作品に仕上げることが重要です。

 今回は「サイバーセキュリティ」というテーマが決まっているので当然これについて書くわけですが、それだけではダメで、前述の普遍的なテーマとうまく絡めなくちゃいけません。これは難しいですよね。どんなふうに絡めればいいと思いますか、と、ここでいきなりの無茶振り。それに対するパネラーの回答。


 加藤さん:AIに絡めるのもひとつの方法。人とAIとの恋愛、AIとAIの対決など。


 本川さん:現代は日常的にスマホなどでネットに接続している。便利で快適なツールであるはずのスマホによって平穏な日常がズレ始め、人々の安全が脅かされていくような話が面白いかも。


 名和さん:本川さんの話のように今は自宅から会社、学校までネットとつながっている状況。見ていると同時に見られている脅威も題材になりうるかも。


 だいたいこんな感じの回答でした。

 加藤さんの「AIに絡める」ってのは気に入りました。そもそも恋愛なんてものはハッキングと同じですよ。だってそれまでは何とも思わなかった相手が突然「どうしよう、頭の中は彼のことで一杯。考えるだけで胸がドキドキしちゃう」みたいな状態になるんですからね。これはもう相手によって脳内をハッキングされデータを書き換えられたに等しい状態です。


 これを今回のテーマに合うように書くとすれば、例えばAIの男女の恋愛模様を描いた話なんてどうでしょう。相手をこちらに振り向かせるために互いにハッキングし合うAI同士のハッキングラブコメなんて面白いかも。

 あるいは大勢のAI高校生が生き残りを賭けてハッキングし合う、ハッキングバトルロイヤルなんてのもいいかも。

 AIはネットとの親和性が高いので、登場キャラを人からAIに変えるだけで、普段ラノベで書いているようなシーンを簡単にネットと関連付けて書けそうだなあ……などと妄想しているうちに次のお題へと進んでしまいました。


 後半へ続く!

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