講義前半

 このサタデープログラムは基本的に生徒たちが主体となって開かれているようです。教室には女性の教職員の方もいましたが、投影機やスクリーンの準備、カーテン開け閉め、来場者への声掛けなどは生徒がやっていました。土曜日なのにご苦労さまなことです。


 もちろん司会も生徒です。「STAFF」の腕章を着けた高校一年のハッタ君(漢字不明)の挨拶で講義開始です。まずはお決まりの注意事項。ケータイはマナーモードで、無許可の撮影は禁止ですなどなど。話し方が初々しくて思わずにやにやしてしまいましたよ。女子高生だったらもっと良かったのになあ。


 講師はカクヨム編集長の河野葉月さんです。ユーザーミーティングでは司会担当ですが今回は主役。こんな風に講義をするのは初めての体験だとおっしゃっておられました。

 教壇にはノートパソコンが置かれておりまして、その画面をスクリーンに投影しながら講義が進みます。以下のような内容でした。


 1 はじめに。自己紹介

 2 Web小説とはなにか

 3 カクヨムについて

 4 編集者の仕事とWeb小説

 5 カクヨムの目指すところ

 6 おわりに。あなたも今日から作家になれる


 まあ、正直なところ、対象はWeb小説を知らない方々、もしくは初心者の方々ですかね。カクヨムにどっぷり浸かっている方々には少々退屈な内容だったかもしれません。それでは各項目を簡単に紹介していきます。



 1 河野さんの自己紹介


 最初に入社したのは中央公論新社。そこで文芸ジャンルの編集の仕事に従事。

 売れ行きが芳しくないことからマーケティングの重要性を感じ、大学院でMBA取得。C☆NOVELSの編集長就任。

 2016年3月カドカワ入社。カクヨムを担当。現在編集長。


 立派な経歴ではないですか。「働く人コンテスト」に参加していただきたかったですね。


 中公に居た頃には250~300冊くらいの本を世に送り出したそうです。代表作は、太田忠司著「セクメト」、堂場瞬一著「雪虫」、九条菜月著「ヴェアヴォルフ」

 いや~、3冊とも題名すら知りません。機会があったら読みたいと思います。



 2 Web小説とはなにか


 説明よりも実際の作品を見てくれということで、まずはカドカワのコンテンツ事例、

「この素晴らしい世界に祝福を」と「Re:ゼロから始める異世界生活」

 どちらも累計発行300万部だそうです。


 カクヨムに入社して初めて会議に出た時、河野さんは面食らったそうです。「このすば~」とか「りぜろ!」とかいう聞いたことのない暗号が飛び交っていたからです。そりゃ、本の題名を知らなきゃ何を言っているのかまったく理解できなかったでしょうね。


 他社コンテンツの例としては、

「君の膵臓をたべたい」(双葉社)と「異世界居酒屋のぶ」(宝島社)


 双葉社の編集さんは仕掛けが上手だと言っておられました。他社の編集に「凄いWeb小説がある!」なんて噂を流したりするようです。それが口コミとなって広がり、やがて本当に凄い小説になってしまったりする……よくある話ですね。河野さんがWeb小説を意識した最初の作品なのだそうです。


 さて本題のWeb小説とは何か。ニコニコ大百科によれば、


「ネット上で公開されている小説」


 そのまんまです!


 カドカワの定義はちょっと違います、UGCとか新文芸とか少々小難しい話なのでざっくり書くと、


 一般大衆の批判を取り込みながら発展し内容を充実させ、受け手と送り手の情報交換により量的評価を獲得していく文芸、これがカドカワのネット小説=新文芸……

 と役員の井上伸一郎さんは語っているようです。


 確かに本になったら改善のしようがないですからね。ネット上なら好きなように直せるし、確かに利点はありますね。


 でもこれ逆にマイナスの面もありますよね。だって受け手って善人ばかりじゃないですから。


 批判や情報交換で名作が劣化し、送り手の心が折れ、マイナスの評価が蓄積していくって場合もあると思うんですよ。両者が高め合おうとせず、足を引っ張り合おうとすれば、自ずとそうなるでしょうしね。この点が新文芸の少々危うい部分ではあるでしょうね。


 で、カドカワの新文芸の事例としては次の3作を挙げていました。

「オーバーロード」「幼女戦記」「デスマーチから始まる異世界狂想曲」


 作品を例示したあとは小説投稿サイトの説明。次の3サイトが紹介されました。


 小説家になろう……2004年開始。ユーザー数100万、作品数50万。国内最大手。

 エブリスタ……2010年開始。ユーザー数140万、作品数200万。

 カクヨム……2016年開始。ユーザー数14万。作品数5万。


 カクヨムはまだまだ弱小。ようやく2年目に入ったところですから無理もない話。ただ「小説家になろう」をライバル視しているわけではなくて、あくまでも共存を目指しているとのことでした。



 3 カクヨムについて


 それではカクヨムはどういった特徴があるのか、というのが次のお話です。


 まずはキャッチフレーズ「書ける」「読める」「伝えられる」

 でも、これって他のサイトでも可能ですよね。カクヨムだけじゃないです。


 一番の特徴は公式レーベルの参加。カドカワの様々なレーベルが参加しているので、公式作品の特別版が読めたりもします。出版社が運営している強みですね。


 もうひとつは公式25作品の二次創作が可能なこと。いきなりオリジナルではハードルが高くても、慣れ親しんだ作品の二次なら比較的容易に楽しく創作できて、それがオリジナルの創作にもつながる、と初心者の皆様へ向けてのアドバイスでした。


 ここで二次創作の例として出してきたのがお馴染みの「涼宮ハルヒの憂鬱」

 こんな二次創作がカクヨムで書かれていますと、スクリーンに映し出されたのは人気順に3作品。


「涼宮ハルヒのオレオ」「涼宮ハルヒのドロップキック」「ある少女の憂鬱の思い出」


 別になんてことのない題名ですね。しかし、その作者名を見て私は息が止まりそうになりました。3作品目の作者名の横に、


「@現在体重90キロ」


 って書いてあったのです。教室の皆さんもびっくりしたんじゃないでしょうか。


「どうして自分の体重なんかを……」

「カクヨムでは体重を公表するのが流行っているのか?」

「90キロあっても二次創作できるんだ!」


 などなど、様々な疑念が頭の中に浮かび上がったことでしょう。教室に居た約10名の生徒たちも怪訝な表情でした。

 こんな余計な情報を付加した作者ですら、まさか愛知県屈指の進学校の教室で、自分の体重が暴露されることになるとは夢にも思っていなかったでしょうね。お気の毒です。私は笑いを堪えるのが大変でした。


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