第3話

なんやかやで、俺には別の彼女ができた。ユキと言う。

しかし、まだ別れてもいないマスミにはユキのことは告げていなかった。


そんなややこしい二股状態のとき、マスミとショッピングモールでのデート中、ばったりユキと出会ってしまった。


ユキと会ったとき、マスミは運良くお手洗いに行っていた。

俺の頭はパニクった。なにも考えられなかった。

しかし、ユキとの関係を崩したくないという選択肢ししか思い浮かばなかった。

俺はユキの手を引っ張って、電車に乗り遠くの喫茶店へ行った。お手洗いから出て来たマスミは消えた俺を必死に探すに違いないから、携帯の電源もOFFにした。


翌日、マスミから電話がかかってきたが、「急にお腹が痛くなって一時間以上トイレに籠っていた」と大嘘をついた。マスミは不可思議そうな哀しい声をしてなんとか受け止めていた。


このことがきっかけで、マスミとは恒常的には会わなくなった。


でも、二ヶ月に一回ぐらいマスミから、どうしてる?頑張ってる?という用件のない電話がかかってくる度に、じゃあ来週会おうかという話になり、逢瀬を重ねてはまた会わない日々が数ヶ月続くということを2、3年間やっていた。


別れ際、彼女はいつも「せいちゃんがこのまま居なくなって、もう会えなくなる気がする…。」と涙をポロポロ流していた。「そんなことはないよ。また会おう。」といつも生返事しかできない自分が冷徹なロボットのように思えた。


マスミからの連絡が途切れ途切れになったとき、

ついに俺はユキと結婚することになった。


ユキと結婚することになったことは、たぶん人伝てでいずれマスミにもいずれ伝わるんだろうという心配はあった。



新婚旅行中、夜飲んでいるときに携帯が鳴った。

マスミからの半年ぶりの着信だった。

ユキとマスミと鉢合わせしたとき以来のパニックが襲った。

結局そのときも俺はマスミの電話には出ることはできなかった。

俺はどのツラ下げて応対できるのか。


たぶんマスミは最後に俺に「結婚おめでとう」と伝えたかったんだと思う。


それも伝えさせなかった俺。

いままで散々やりたい放題に振り回して、必要無くなったら捨てたこんな優しくない俺を祝福しようとした気持ちまで踏みにじんだ俺。


俺には、これからの人生を優しく生きて行く資格はない。

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優しさの資格 芹沢 右近 @putinpuddings

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