第97話 長征(Ⅹ)

 ヘシオネも馬鹿ではない。

 正面から激突したら、その結末は玉砕でしかないことは百も承知だ。

 だとすると・・・二万の軍に五千の軍が立ち向かうには・・・

「夜襲をかけるしかない」

 闇の中から奇襲し、敵に一撃を加えて、闇に紛れて逃げ帰る。

 闇夜の戦いは同士討ちが起こりやすい。だから普通は夜討ち朝駆けといっても、夕暮れ時か払暁ふつぎょうに行うものなのだ。

 当然、敵も油断があるに違いない。例え備えがあったとしても闇夜の中だ、逃げることは容易だ。

 そう、同士討ちが起きてでも構わない。味方の被害を少なくする、いや、全滅しない為にはこれしかない。


 三日後、鼓関の軍が間近に近づいていることを確認すると、兵を早めに寝かしつけると、夜中に召集した。私語を禁止し、馬の口を結わえ、最小限の明かりだけで鹿沢城を出立する。

 鼓関を出た敵軍は長く伸びた縦列で街道沿いを東進している。先頭だけを襲えば、二万の兵を一度に相手にしなければならないわけではない。

 とにかく速度が生命線だ。敵に夜襲をかけるのも、逃げ帰るのも。

 最低限の武器と鎧だけ持たせ、食料も予備の武器も携行を禁じる。漆黒の中、五千の人馬は月明かりが照らすわずかな光を頼りに進んだ。

 やがて前方がぼんやり明るく光る。陣営地だ。

 命じて手持ちの僅かな明かりを全て消させると、ゆっくりと横に広がり陣形を整えた。


 バアルは敵襲に備えて、当たり前のように哨戒の兵や見張りの兵を立たせていた。敵地にいるのだ。警戒するに越したことはない。

 だがいくら指揮官が万全に備えて緊張しようと、哨戒や見張りをする当の本人たちにそれが伝わらなくては何の意味もない。

 戦術や戦略なら同世代の人物を、いやこの世界の人物を遥かに上回るバアルではあるが、そこは理想を信じがちな、まだ若い将軍だった。

 兵士は命じられたらその兵としての誇りにかけて己の職分を全うするものと思っていた。兵たちに理想などなく、ただ食べていくために兵士になっただけということも知らずに。

 そういった現実に即した実務管理能力にはまだまだ未成熟なところがあった。あれだけ念を押して言ったのだから、しっかり実行されているに違いないと高を括っていた。

 関西の軍は気付いた時には陣を半包囲され、不意の襲撃を受けていた。

 三方からの襲撃に哨戒の兵も見張りの兵もなすすべなく死体に変わる。

 夜中の睡眠中に起きた騒ぎに、何がおきたのかもわからず、とりあえず兵としての本能から、剣を手に寝床から這いずり出てこれた者はまだ良かった。ほとんどの兵士は武器を手にする暇もなく出てきたところを切り殺された。寝床の隅で固まってただ震えていた者のほうが生存率は高かった。

 だがヘシオネは勝利に酔ってはいなかった。冷静に深追いさせぬように部隊をコントロールしていた。時間が経てば経つほど敵は何が起こったのか把握し、反撃に移るに違いない。そうなってしまえば数の劣る自分たちはたちまち劣勢となるのだ。この奇襲は強襲なのである。一撃を食らわせ敵に恐怖を味方に自信を与えれば、それでいいのだ。わざわざ敵を探して殲滅する必要など、どこにもない。

篝火かがりびを倒して、野に火を放て! 撤兵準備!」

 手早く指示を出し疾風のように駆け抜ける。

 やがて街道の奥のほうでたいまつの火が増えていくのが見られた。襲撃したことが伝わったということだ。いつまでもこの場にいては危ない。ヘシオネは総撤退を決意する。

 大きく呼子が鳴らされる。それは闇夜に狼の遠吠えのように木霊し、血の臭いと一方的な勝利に酔いしれていた兵たちを正気に戻らせる。

 敵を追うのを止め、次々と闇の中に消えていった。


 時間が経つにつれ、バアルのもとには明らかになった被害が次々と報告されてきた。

「是非追撃を! 今ならまだ間に合います!」

 やられっぱなしでは腹の虫が収まらないという血の気の多い旅長たちは、口々にバアルに詰め寄って出撃を求めた。

 だが今から追撃してどうなるというのだ。勝手を知らぬ闇夜の土地を追撃したとしても追いつくのは容易くない。敵に追いつけるかどうか・・・いや、それどころか側面に伏兵でも置かれていたら、被害を増やすだけの結果になりかねない。

 渋る旅長たちを説得し追撃を諦めさせ、まずは被害の把握に努めた。

 襲撃に驚き、隠れたり逃げたりした兵が多かったのか、実被害はそれほどでも無かった。

 とはいえ、これは軍紀の緩みがもたらした被害である。看過出来ない。

 軍紀を引き締めるために見張りや哨戒の兵の生存者とその管轄将校を罰する。

 そして再びこのようなことが起きないように、厳重に役割分担を徹底させた。


 翌朝、起きたばかりのラヴィーニアは報告を受ける。死亡者二名負傷者十名との報告に、驚きのあまり思わずヘシオネを二度見した。

 ヘシオネはさも当然とでもいった顔をしていたが、得意げな様子は仕草からは消しきれなかった。

「見事に兵の士気を上げられました。お見事」

 だが驚いたのも一瞬だったようだ。一礼して上げた顔はいつもの冷たい表情だった。

「敵は緒戦の敗北に動揺している。篭城戦でも有利に戦を運ぶことができる。これで私たちが優位に立った」

「今日明日中には敵軍は鹿沢城から見える位置に布陣するでしょう。こちらも篭城の準備を急ぎましょう」

「そうね」

 ラヴィーニアの高慢な鼻を叩き追ってやれるものと思ったヘシオネは、ラヴィーニアの平然とした態度に大いに不満だった。

 ヘシオネとの会話を終えたラヴィーニアはいつものように兵站計画の練り直しに夢中なのか、顔も上げようとせずに書類と格闘している。

 だがラヴィーニアは心中大いにヘシオネのことを見直していた。

 ここまで一方的に夜襲が成功し、たいした損害もなく引き上げられたということは、敵に備えがなく、油断があったということだろう。

 とはいえ、結成したばかりの混成軍をまとめ、素早く夜襲をかけて勝利におごらず兵をすぐに撤収させるなど、なかなか端々はしばしに才気を感じさせる指揮ぶりといえる。

「さすがに南部四衆の一人ともなれば、それなりの才覚を持っているということか」

 ラヴィーニアはそう独りちる。

 分かってはいたがアリアボネの人を見る目は曇っておらず、慧眼けいがんであるということだ。もっとも、そのアリアボネがラヴィーニアが愚王と断じた王に嬉々として仕えていることだけはラヴィーニアには不思議だったが。

 だが喜ばしいことでもある。共に仕事をするのなら、無能であるよりは有能であるほうがずっといい。叛乱劇の時に担ぎ出した位階だけは高い、あのロクデナシどもよりはずっとそちらのほうがありがたかった。


 昼には遂に鹿沢城から敵影が見える位置にまで敵軍が進軍してきた。とはいえすぐにも城を攻める様子は見られない。

 距離をとり、陣を設営し、攻城兵器を組み立てる。

 関西勢は多数の攻城櫓を組み上げると、一斉に南面の城壁めがけて殺到してきた。

 攻城櫓には下層に車輪を持ち、中層に城壁や門扉を突き崩すつち、上層には城壁上の兵士を一掃するために弓兵、城壁に移るための渡しが備えられた本格的なものだ。

 鹿沢城は三方を湿原に囲まれた堅城、だが南面は枯れ果てた平原が広がり、弱点となっている。

 そして冬場は湿原も堀も水が少なく、攻めるほうにとって行動しやすい。

 さらに南面は堀も浅い。そこでそのまま攻城兵器をぶつけるように接壁し攻略する。これが長年にわたって鹿沢城に攻め込んだ関西が生み出した常道である。

 攻城櫓は一個横幅三、四メートルはあり、高さは十メートルもあるかなり大型のものだった。

 三日後、全て組み上がり横一列に二十の攻城櫓が並んだ姿はまさに壮観だった。

 一斉にゆるゆると動き出すその姿は、鹿沢城から見ると巨大な壁が迫りくるように見えた。

 ヘシオネはなんといっても女性である。ハルキティアの頭首として兵を指揮して戦いもするが、やはり血風吹きすさぶ最前線に出て剣をとって戦うのは得手ではない。そこらへんは家中の男たちに任せていた。だがここにはハルキティアの猛将たちは不在である。

 そこで幾たびかの敗戦でもなかなかの才走ったところを見せたという、アエティウスの推挙もあったし、守備隊の将たちの中でも信頼があることを確認したうえでガニメデを前衛の大役を任せた。

 だが猛将とは程遠い、その外貌もあってか本心では不安を感じていた。

「来るぞ。ふんばれよ」

 ガニメデは緊張の面持ちで兵を壁の上や当の上に立たせ守備につかせる。こちらは五千なのに対して敵は二万、そして攻城の準備も万全だ。厳しい戦いになるだろう。

 だが櫓が次々と堀に入り、城壁までもう少し、というところで大きな衝撃が攻城櫓全体を襲い、櫓が前方に傾くと、前進が止まった。

 櫓を押していた兵士はさらに一層力を込めるが、びくともしない。

 やがて原因が判別する。堀の中に一メートルほどの傾斜をつけた段差が存在したのだ。櫓の車輪がその段差にひっかかり前へ進めなくなっていたのだ。

 その間、前方に傾いた櫓の上層は城壁の兵から丸見えになった。

 傾いた櫓にしがみつけた者はいたって幸運なほうで、衝撃で振り落とされ地面に叩きつけられた者はほとんどが死んだ。

 だが振り落とされなかった者も城壁の兵から矢を射られ、矛を叩きつけられた。防ぐ手段もなく次々と兵士は命を落とす。

 しかし関西王師の精鋭だ。前線で兵を指揮する百人隊長はすぐに我を取り戻し、兵士たちに大声で指示を出す。

「梯子を渡せ! 城壁を占拠せよ!」

 さいわい傾いたことで櫓の上部と城壁の上は飛び越えられそうなほど近づいた。その声に励まされるようにいくつかの櫓の最上部から、梯子を鹿沢城の城壁上部へと渡しかけようとする。

 もちろん城壁の上の兵は梯子をなんとか押し返そうとするが、それでも全ては防げない。

 やがて城壁の上では白兵戦が開始された。

 どこか一箇所でも敵城壁の上を確保してしまえば、後は後続を惜しみなくつぎ込んで数の勝負に切り替えられる。関西の将士はこのまま押し切れると確信した。

 だがここで城壁から次々と、油が壷ごと攻城櫓に叩きつけられた。ガニメデの合図で一斉に火矢を放つ。するとたちまち櫓は赤い紅蓮の炎に包まれた。

 足元に文字通り火がつき、あわてた関西勢は燃え上がる櫓を伝うというよりは落ちるといった感じで、次々と逃げ始めた。

「ほう、ガニメデ卿はなかなかのやり手だな」

 ヘシオネは敵の攻撃の第一波を防いだという知らせに、ほっと胸をなでおろした。

 一方、敵兵を無事撃退できたとのその報告をラヴィーニアは当然のこととして受け止める。

「そこは長年、関西勢の攻め口になってたんだ。対策くらいはしてあるさ」

 鹿沢城に赴任してからラヴィーニアがまず真っ先にしたことはそれだったのだから。

 ヘシオネと違い、ラヴィーニアは余裕よゆう綽々しゃくしゃくだった。


 次の日、ヘシオネは昨日の戦の余韻が残る城壁の上に立ち、敵陣を一望した。

 塔の上から敵陣を見ると、敵は新しくもう一度攻城兵器を組み立てるでもなく、攻め込むのでもなく、何か忙しくものを運び出しては谷に捨てる動きをしている。

「ヘシオネ卿、敵は横穴を掘り、地下からこの城に侵入するつもりです」

 ラヴィーニアは目ざとく敵兵の動きを察知し、ヘシオネに忠告した。

「わかっているさ、執事殿」

 横穴を掘り、壁の真下でわざと穴を崩落させ壁面を崩すのも、城内に通じる抜け道を作って攻め込むのも攻城戦のイロハのイだった。

 急ぎ竪穴を壁沿いに掘らせ、壷を土中に埋め込み、音が聞こえてこないか二十四時間体制を取って交代で探らせる。

 やがて複数の竪穴からこつこつと土を削りだす音が聞こえたとの報告が上がった。音の強弱、聞こえる方向で敵の横穴の数と位置を割り出すと、こちらから迎撃のために横穴を掘らせ始めた。

 双方の竪穴がつながると、接続地点が堀より向こう側の場合は天井を崩し、堀と横穴を繋げて水を落とし込んだ。鹿沢城の堀は川に繋がっているのだ。水がなくなる心配はない。

 そうでない場合は入り口で火を燃やし、ふいごで横穴内に煙を送り込んでいぶりだした。

 あいついで成功した敵の撃退に意気上がる城内だったが、ここで小さなミスを犯した。夜になって火を消してしまったのだ。

 夜の間も寝ずに火と煙の番をすると、つらい夜警を担当する兵が増えてしまう。

 今日は大丈夫だろう。夕方まで燃やし続けて中は燻ったままだし、と現場の判断で消したのだ。

 ガニメデもヘシオネも昼間の撃退に気を良くして、細かい確認を怠っていた。


「敵からの送風が途絶えた?」

 バアルは穴掘りに連れてきた金掘人足たちから異変があると聞き、バアルはすぐさま駆けつけた。

「はい。いままで向こうから煙が流れてきていたのですが」

 そこには鼻も口もすっぽりと濡れた手ぬぐいで覆われた金堀人足たちが集まっていた。

「ということは向こうの穴を塞いだということか・・・」

 だとしたらもう一度この穴を敵城へと掘り進めれば容易に城内に突入できる。

「いえ、違います。この通り」

 穴の入り口に手に持った蝋燭ろうそくを近づける。その蝋燭からは色の着いた煙が中へするりと吸い込まれていった。

「何らかの事情で煙を入れるのを中止したということか・・・」

 罠ではないかとも考える。敵兵をおびき寄せ、もう一度煙を送り込み窒息死させる。

 だが罠であっても夜の地中を這い進む兵を探知するのは難しいと言える。ならば試してみる価値はある。

「この中をもう一度、鹿沢城まで進むことは可能か?」

 その問いに金堀人足たちは表情を曇らせる。一番先頭を進まされるのは彼らなのだ。つまり何かあれば真っ先に死ぬのは彼らなのである。

「中は煙で充満していますよ。息が詰まって死んでしまいます」

「向こうがしたのと同じように、こちらから空気を送り込んでも通れないか? もちろん金は出す。一人金貨一枚だそう」

 金掘人足たちは危険なガスのでる金山を掘り進むのだ。もちろんそれなりの方策も道具も持っている。こんな夜にまで働きたくない彼らだったが、金貨一枚と聞いて目を輝かせた。金貨一枚は彼らの一ヶ月の平均賃金を上回る。

 しばし仲間内で相談すると、どうやらやると決めたようだ。

「・・・できなくはないですけど時間が掛かりますよ」

「早くてどのくらいだ?」

「そうですね」と金堀人足の長は夜空の月を見上げた。

「丑の刻には」


 宣言どおり、丑の刻には横穴の中はある程度正常な空気に戻っていた。

 それでも少しは煙も残っている。兵たちも全員濡れた手ぬぐいで口元を覆い、慎重に音を忍ばせ横穴を進んだ。

 思ったとおりその横穴は塞がれていなかった。それどころか向こうが掘ったと思われる横穴には作業しやすい用にという考えからだろう、ご丁寧に梁や柱で補強までされていた。

 横穴の先は竪穴に続いていた。その竪穴は四畳半ほどの広さで、地面には消された焚き火とふいご、壁には音を拾うための壷が埋め込まれていた。

 顔を出すが、竪穴の上でここを監視している気配もない。だが明かりが竪穴の壁面の上部を照らしていた。近くに焚き火でもあり、兵がいるということだろう。

 そこで竪穴に備え付けられた梯子をそっと上り、機会をうかがい、一気に飛び出した。

「うわあああっっっ!!!」

 突如現れた敵兵に見張りのはずの兵は混乱し、一斉に逃げ去った。

 その隙に次々と竪穴を登り、まず味方が安全に出てこれるようその場所を確保する。

 だが、攻撃を知られてしまった。見張塔の上の兵が異変に気付き、慌てて鉦を叩いた。

「夜襲!?」

 ラヴィーニアは鉦の甲高い音に跳ね起き、窓に駆け寄ると中庭を見下ろした。

 そこには彼女がこの世で一番嫌いな、くりやにいる黒いやつのように、次々と敵兵が竪穴から湧き出していた。

 それにしても煙を送り込んでいれば敵は穴に入ることさえ出来ぬはずだ。それを無効化する手段があるということなのか・・・? それとも、もしかしてそれを守らなかった者がいるのか・・・?

 とにかく穴を埋めることを明日にしたのが裏目に出た。

「しまった・・・!」

 こうなっては自慢の頭脳もいかんともし難い。彼女の非力な身体では戦闘に加わることすら出来ない。いらいらしながら窓から戦況を眺めるほか無かった。


 関西勢はあらかじめ決められたバアルの指示に従って、塔の占拠、扉の確保、通路の確保と当初は順調に進めていた。

 だがそれに対応する手をヘシオネは慌てることなく的確に、起きてきたばかりの兵を順番に投入し、次々と行った。

 敵は穴を伝わって出てきているのだ。穴は人一人しか一度に通れないだろうし、竪穴を登るのは一分で五人といったところだ。兵が出てくるのは時間が掛かる。

 今、押し込まれたように見える味方だが、実際は敵はまだそれほどの人数ではなく、一旦戦況を膠着こうちゃくさせれば押し返せるとヘシオネは判断した。

 用はあの穴から新兵が出てくることを塞げば関西はジリ貧に陥るのだ。

 関西勢は最初の勢いで塔を全て手にすることが出来なかったことが勝負の分かれ目となった。

 塔から矢を降らせ、竪穴から後続を出させないようにしているうちに、ヘシオネはここぞという時と場所に、兵を次々送り込み、敵兵から城地を奪還していく。

 総指揮官のバアルがこの場にいない関西勢は当初の作戦が崩れると判断に迷いが生まれ、やがてあちこちで分断され敗色を濃くしていった。

 押し込まれ始めるともう逆転は難しい、と関西勢の百人隊長はこれ以上の攻撃を諦め、撤退開始の呼子を鳴らした。

 関西勢は苦心の末、助けられる限りの兵と共に横穴に入ると、最後に金堀衆が天井を崩して関東の追撃を断ち切った。

 ヘシオネは兵を指図し、安眠のために再び火を点して全ての穴から煙を流し込んだ。

 全ての穴で反撃にあい、大量の死者を出した関西勢はこの方法を諦めざるを得なかった。

 とはいえ、鹿沢城攻略自体を諦めてくれはしなかったが。


 鹿沢城の兵士たちは二万の大軍に囲まれた当初の絶望感を忘れつつあった。

 うちの大将は女だと思っていたが、なかなかの敏腕家じゃないか。それにあの陰険眉毛もなかなかどうして大したたまだ・・・

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