第5話

阿弥陀様によると、きりんはもう修行せずに成仏出来るという。だから直々に阿弥陀様のお迎えという事らしい。ちなみに三途の川の幅は人によって違っており、幅が狭い程、成仏へは遠い。きりんは、海の様に広い川であり、修行が必要ないというのも、ここにも現れていた。とはいえ、阿弥陀様も気まぐれで、きりんをある場所に連れて行った。それはどこかの応接室であった。阿弥陀如来様と観自在菩薩様と勢至菩薩様、そしてきりんが部屋の中で浮いている。黙って立っている3人にしびれを切らして、きりんはたずねた。


「あのー、そろそろどなたが来るか教えてもらえませんか。ちなみにこれ以上難しい名前の人は覚えられませんけど。」


ドアが開いて、3人同時に入って来た。みきりんが所属するアイドルグループのプロデューサーの赤井P、メンバー総監督のみなっち、キャプテンのえみゅだった。


「あっ!ど、どうもはじめまして。きりんです!」


3人の突然の登場に、きりんは動転しつつもとっさに挨拶したが、3人は一切無視してそれぞれソファに座った。阿弥陀様ご一行は消えていた。3人はきりんには気付いていない様だった。きりんは仕方なく、みなっちとえみゅが座っているソファの横で正座をした。赤井Pは、みなっちとえみゅに向けて話し始めた。


「上脇のことなんだけども、事務所社長の大川さんから連絡があってね。難しいそうなんだよ。」


みなっちは心配そうな顔を崩さないまま応えた。


「ええ、分かります。あんな事があったら誰だって 無理ですよ。」


えみゅも深刻な顔をしてうなずいている。赤井Pが続けた。


「もちろん、今はね。大変なのも、キツイのも分かるんだけどさ。だから当然ね、しばらく休養はしてもらおうと思ってるんだけど。」


みなっちとえみゅはうなずいている。


「あのー、何か寒くないですか?」


えみゅが腕をさすりつつ、部屋を見渡している。きりんはドキっとしてえみゅの方を向いて目が合ったのでお辞儀をしたが、えみゅは気付いていない。

赤井Pはえみゅには反応せずに言った。


「本人はすぐにでも引退したいって言ってるって。」

「えーーーーーーーーーーっ」


みなっちとえみゅが同時に言った以上の声で、きりんが叫んだ。

みなっちは少し戸惑っている。


「いや、辞めたいと思ってしまうのは仕方ないと思います。でも、今すぐっていうのはどうしてですか?」


えみゅが続けた。


「あの、犯人っていうか、あれは事故だったんですよね。狙われたんですか?」


赤井Pが答えた。


「警察はあれは事故だと言ってる。ただし、単なる飲酒ではなかった様だ。まだ公表はしてないけど、薬を常用していたらしい。上脇自身それは理解している。」


「では..........。狙われるのが怖いっていう訳ではないって事ですね。」

「うん..............。上脇は.........。あの守ってくれたファンの人、きりんさんって言ったよね。」

「はい。」


みなっち、えみゅと一緒にきりんも返事した。


「彼の為に、今すぐ引退したいって言ってるんだよ。」

「えーーーーーーーーーっ!」


きりんがは1人で叫んだ。自分でも聞いたことないぐらいの声で。しかし、部屋は変わらず静寂なままであった。





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