第3話
右側の人が右手、左側の人が左手を挙げると下から雲が舞い上がり手と手の間に大きなスクリーンとなり、映像が現れた。どこか大きな建物の出入り口を囲む様に、たくさんの人が立っている。出入り口のドアが開き、1人の女性がスタッフらしき女性2人に挟まれる様に出て来た。ドアの前の道の両脇に待っていた人々が、それぞれ声を掛けて手を振ったり、ウチワをかざしたりしている。女性はにこやかに手を軽く降って応えながら、歩いてこっちに向かっている。
ここできりんは一部の記憶が戻った。
「み、みきりんや!これ、俺が見たままやん!このあとやねん。このあとや。」
画面のこちらの前を通り過ぎてすぐ、乗り込む車の直前で、みきりんはこちらに向き返って手を振りお辞儀をした。その時だった。10mぐらい右横手に駐車していた車が急に動き出し、みきりんとスタッフ2人に向かって突っ込んで来た。車の前方は一旦手前に向かって動いた、画像は一気に3人に近づき、突き飛ばした所で、真っ暗になり、スクリーンは消えた。
「あーよかった!間にあってるやん俺。みきりん助かったんや!おおおー!良かった!良かったなあ.........。」
当時の記憶に興奮しつつも、ホッとした顔のきりんに向かって、真ん中の人が言った。
「君は助かってないねん。」
「え.............? どういうこと? 」
「これはお前が見た映像や。画面が消えたやろ。これはな、」
真ん中の人が説明しようとするのを遮るようにきりんが聞いた。
「死んだん?俺.........死んだん?」
「医者の診断は、死亡やったけどな。」
「なに上手いこと掛けてるねん。あかんやん。死んだらあかんやん。あっ、そう か。お釈迦様?あなたお釈迦様ですか?」
「出た!お前、お釈迦様言うたな。お釈迦様!みんな言うねん、お釈迦様!お前もか。もう、いい加減にして欲しいねん。」
「お釈迦様と違いますの?」
「違うやん!よう見てみいや。そもそも君、小さいときどうやって拝んでた?」
「まんまんちゃん、あんって言うてた。」
「そうやろ。もうちょっと大きくなったらなんて言ってた?」
「なんまいだあって言うてた。」
「それやん、それ。それな、南無阿弥陀仏って言うてんねん。小さい時から、ずーっと南無阿弥陀仏やねん。」
きりんは目を見開いて、思い出したように手を打った。
「あーっ!そうかあ。」
真ん中の人は、やっと気づいたかという顔で言った。
「そうや、分かったか。」
きりんは自信満々で嬉しそうな顔で言った。
「死んだおじいちゃんか!えらい変わったなあ。」
真ん中の男性の顔が急に凄み始め、ドスの効いた声で言った。
「おい、悟っててもキレる時はキレるからな。」
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