第57話 表現と主張

美空ひばりの歌声を、AIで再現するという試みが昨年行われた。紅白で披露されたが、他マスコミでの扱いはほとんどなかったように思う。


生前の美空ひばりを、私はよく知らない。フルで聴いたことがあるのは愛燦々と、川の流れのようにだけだ。


美空ひばりの歌唱法は、モンゴル歌唱法、ホーミーに似ているらしい。AIひばりもそれを再現し、なおかつ新曲を違和感なく音楽にしたのは、特筆すべき技術といえる。私は初音ミクに慣れ親しんだ世代なので、初めは拒否反応もそれほどなかった。


が、何度も聴いてみると、パターンの集積に過ぎないのではないかと思えてくる。確かに人間そのものとしか思えない歌ではあるが、たとえば、落語家が客の反応を察知して芸に反映させるというような名人芸とは程遠い。あるのは盲目的に過去は素晴らしいという主張だけだ。最先端技術とその主張のギャップに嫌悪を感じた。


劇場版魔法少女まどかマギカ 叛逆の物語において、最良のものは過去にあるという主張で、物語は完結する。観客はそれは違うという反駁をすることができる。観客の反応を含めた叛逆の物語なのだと私は思う。これが表現と仮定したい。


表現の不自由展というのが、昨年話題になった。一度中止騒ぎになったので、ご記憶の方も多いと思う。新聞で、あれは政治的主張であって、表現ではないと書かれていた。そうかもしれない。


表現と言いつつ、一方的な主張になっていないか目を光らせる必要がある。私も含めて他人事ではない時代が訪れている。







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