第26話 幸福な世界の幸福な物語

イリヤの空、UFOの夏というライトノベルを読んでいる。かなり古い作品だが、ある意味で新鮮だった。


冒頭で主人公が夜のプールに忍び込むのだが、主人公より先に見知らぬ少女がプールにいた。


二人はなんやかんやでプールに落ちて……、というボーイミーツガールの使い古された展開のように映るかもしれないが、私は違う印象を受けた。


久しぶりに他者と出会ったというと何を当たり前なと思うかもしれないが、ネット小説となるとそうでもない。


ネット小説には他者が存在しない。読者の分身か、それに準ずるもの。それ以外は敵として抹殺され、存在も許されない。


他者というのは本来、敵でも味方でもなく、流動性の高いものである。覆いをかけられた箱のようなものに手を入れ、正体を探る。


未知との遭遇というのはそういうものではなかったか。そういう感覚が埋もれてしまっている事に怖気が走る。


ネットでは極論が蔓延り、議論があまり深まらない印象を受ける。善か、悪かの二択で、自分の意に沿わない意見を無視する傾向にある。


サマーウォーズという映画で、ネットで繋がった世界の人々が協力するシーンがある。この作品が作られた頃はネットの力を無邪気に信じられたのだと思うが、今は違う。分断は深刻になり、異世界ですら自分と同質なものを求める。


いつかサマーウォーズを観て、あの頃は良かったなと思わない日が来るのだろうか。


幸福な世界の物語が過去にしか存在しない事実を受け止めきれな自分がいる。

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