第2話 舞由
雨が去り、薄暗い雲の覆いが払われた夜空に白く輝く月が地に光を落としている。月の下に広がる集落にはまだところどころ明かりが
その集落へと流れゆく一筋の川を
神の森の
森の外に出たそれは、月の光に照らされその姿を
彼は家の古びた引き戸の前で立ち止まった。仔狼を柔らかい草の上にそっと下ろしてしなやかな足で
静かに地に降りたのは、
青年に化けた雄狐、彼は草の上でじっとしている仔狼を優しく抱き上げる。そして左腕で包むように仔狼を抱きかかえると、軽く丸めた手の甲でコンコンと数回引き戸を叩く。息なきものの
数秒後、暗い家の中で何やらドタドタと忙しい音がした。彼が
戸の向こう側で鍵穴と戦っていたのは一人の女性であった。黒い目に
真夜中に起こされて虫の居所が悪いのだろう。どこかでぶつけてきたのであろう赤い
「どうしたんですこんな
「その前に、いつも言ってるでしょう?戸を開ける前に必ず確認と。俺じゃなかっ
たらどうするんですか。少しは用心してくださいよ。ちょっと、聞いているんですか
彼が優しく舞由を諭す。その顔色は怒っているというよりは、どこか心配しているようだ。
「だって、
ぶつぶつとだって、だってと言い訳をしている。銀狐の蛍はそんな舞由をしばらく見下ろしていたが、やがて下を向いて深いため息をついた。ふと、仔狼が視界に映り先ほどの大きな声で起きてしまったのでは、と心配する。しかしそんな心配は
「
穏やかな
舞由の様子をみていた蛍は安心したようすで、よかったと呟いた。
「ずっと、立っとくわけにもいかないし、中に入ろうか」
笑いながら舞由が提案する。まだ空には月が浮かび、森からはひそひそと話す声がきこえる。
「そのために来たんですけどね」
顔に微笑を浮かべながら蛍がこたえる。
「なんだ、そうだったんだ。あ、ってことはここに来たのはその子のことか」
なるほど~と頷きながら家の中に蛍をあげる。蛍は礼儀正しくおじゃまします、と小さな声で頭を下げる。正面ではすでにあがっていた舞由が可笑しそうにくすくすと笑っている。
「いちいち頭下げなくていいのに。ここは蛍の家でもあるんだから」
と舞由が言った。
「いえ、そういうわけにもいかないでしょう・・・・」
蛍の表情が陰り、瞳の色も哀を含んだ色に変化する。
悲しい君の嘘 沙里奈 @sarina
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