ライキブライスの森
深い森に、小さな男の子と一羽の大鴉が迷い込む。
森は不気味だ。まだ太陽が沈んでいないというのに、光は差し込まないし、だんだんと温度が下がっている気さえする。
どこからか、水の流れる音がする。その音を頼りに、彼らは歩みを進めた。
視界が開ける。しかし、現れたのは小さな川の流れなどではなく、ただただ何もない広場だった。
「驚いたぜ。まさかこんな森の奥深くに、こんな空間があるなんてな」
大鴉のワタが口にした。そこだけは太陽も存分に輝いているし、悪寒を感じることもない、ちょっとした楽園なのだ。
ワタが広場に足を踏み入れた瞬間、突然
「何の音だろう、これは?」
小さな男の子、レテクル・スプリングの疑問に、ワタは答える術を持たない。
浮ついた、どこか幻惑的な組鐘の音色は、しばらく鳴り響いた後、唐突に消えた。
「なんだったんだろうね?」
「さあな。もしかすると、妖精の仕業かもしれない」
ライキブライスという森の奥深く、開けた広場では、毎日決まった時間にカリヨンの音が響く。
森の動物たちによれば、それは妖精たちの国から響いてくるワルツなのだという。
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