少女
ブツブツと独り言を言いながら歩いていると急に足元の地面がなくなり、俺は崖から転落した。
ずざざざざー
「うわぁ~‼」
どさりと草の上に落ちる。
「いってー」
尻餅をついたお尻をさすりながら立ち上がる。草の上だっただけまだましか。手足を動かしてみる。あちこちぶつけて擦り傷や切り傷はたくさんできたみたいでひりひりずきずきするけど、大きな怪我はなさそうだ。
「くそっ。あいつらのせいだぞ」
思わず悪態をつく。
ふうっ。こんな森の中で真夜中に大怪我して崖の下、なんてことになったら遭難ものだ。
自分の落ちた崖を見上げる。三メートル・・・もうちょっとあるかな。暗くて距離感が今一つわからない。
「懐中電灯は・・・落としちまったのか」
辺りを見回すも薄暗くてほとんど何も見えない。草むらに転がっていったのなら探すのは困難だ。
「ちっ。参ったな」
ドスンと胡坐をかいて腕をくんで考える。朝が来るまで待つか、這いずり回って懐中電灯を探すか。
もしかしたらあいつらもどっかで落っこちてるんじゃないだろうな。となると、俺も帰れなかったら女子どもが探しに・・・なんて来るわけないか。
ゴロンと寝っ転がる。満天の星が崖と木々の間から見えている。朝になってから動く方が賢明だろう。
「探しているのは、これ?」
甲高い子どもの声がして目をやると、黒い影が俺の顔を覗きこんでいる。
「うわぁ~」
び、びっくりした。まるで気配を感じなかったのに、至近距離から覗き込まれていたのだ。
「お前っ! 心臓が止まるかと思ったじゃないか!」
起き上がって怒鳴りつけると、影の子どもは仔猫のようにきゅっと縮こまる。暗くて顔は見えないが怖がらせたようだ。
大人げなかったか。
「・・・悪い。大きな声出して」
仄暗くてもわかる肩につくくらいの長さで切り揃えられたストレートの髪。前髪も真っ直ぐ揃っていていわゆるおかっぱ頭に白いワンピース。
なんだろう。懐かしい気がする。会ったことも見たこともないはずなのに。いや、小学校の頃に好きだった子がこんな髪型だったか?
「お前も落ちたのか? この辺の子か?」
少女は首を振る。
「名前は?」
落ちたショックで忘れたのか?
「怪我は?」
また首を振る。らちがあかない。
「それ貸して」
懐中電灯を受けとると崖の上を照らしてみた。真っ暗だとずいぶん高く思えたが、照らしてみると思ったほどでもないようだ。ずーっと左右も照らして確認してみると右の方へ行くと更に低くなっているようだ。
あれくらいなら上がれそうだ。こんな子どもがいるんだったら、早く連れて帰ってやった方がいいよな。親も心配してるだろうし。
「おいで。一緒に行こう。ああ、俺は馨っていうんだ。」
「馨お兄ちゃん?」
「お、いいねぇ。新鮮な響き。俺は一人っ子だからそういうの、なんかいいな」
手をつないでやると少女はぴったりとくっついてきた。普通にしてるように見えたけどやっぱり怖かったのか。
「う~ん、ここが一番低いか」
しばらく探してみたけれど一番低くなっている場所で二メートルほど。肩に乗せてやると登れるかな。
「おい、俺の肩に登って先に上がれ」
「え、どうやって」
腰を屈めてやるのに動かない。難しいか? 仕方がないからひょいっと抱き上げて俺の胸の高さくらいのでっぱりに立たせた。
「そこからなら、俺の肩に簡単に乗れるだろ?」
「うん」
うまく上に登れたようだ。俺もすぐ後に続く。
それにしても、少女はとても軽くてまるで体重を感じなかった。
子どもって軽いな~。サークルの女子どもをこんな風に軽々持ち上げてやったらもてるんだろうな。
なんてのんきにしょうもないことを考えていた。その後に何が待ってるかも知らずに。
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