妖精

 その日、わたしは道ばたで迷子になっていた男の子の妖精をひろった。家につれてかえると、妖精はどうして迷子になっていたのかを話しだした。


「ぼくは工場ではたらいていたんだけど、ミスをしてクビになってしまったんだ。それであたらしいしごとを探そうとしてたんだけど、道に迷ってしまった。そこに君がやってきたんだ」

「工場でなにをつくってたの?」

「きまってるじゃないか。雲をつくっていたのさ」


 妖精はそういって、わたしの部屋の窓をゆびさした。


「ほら、遠くにえんとつがみえるだろう? あそこの工場ではたらいていたんだ」


 わたしは海岸沿いの工場のえんとつをみる。

 もくもくと、まっしろい雲が今まさにつくられているところだ。うまれたての雲は、風にながされてなびいている。


「このへんに大きなえんとつはあれしかないから、このあたりの雲はほとんどあの工場でつくってるんだよ」

「そうなんだ。でも、どうしてクビになっちゃったの?」

「じつは、ひつじ雲をつくるはずが、まちがえて入道雲をつくっちゃったんだ」


 わたしはきのうの夕立のことを思い出した。おき傘がなかったら、ずぶぬれになっていたところだった。


「ほんとうは天気予報どおりに雲をつくらなきゃいけないんだけど、ぼくみたいにたまにミスをしてしまうことがある。そうするとみんなこまってしまうから、責任をとって工場をやめないといけないんだ」

「そうなんだ。はやくつぎのしごとがみつかるといいね」


 次の日、学校の理科の時間に、雲のできかたを習った。


 雲は、海の水がお空にのぼってできるらしい。



 家にかえると、妖精はどこにもいなかった。


 またひとり、わたしにみえる妖精がへってしまったみたいだ。あの妖精は、ちゃんとべつのしごとがもらえたのか、それが気になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る