満足の国

 満足の国、と呼ばれる場所があることを知って、各地を旅している旅行家は好奇心が溢れてくるのを押さえられませんでした。


「なんとも興味深い国だ。ぜひとも訪れてみたい」


 早速、旅行家はその国を目指すことにしました。


 旅行家はその国について、たいへん驚きます。


「なるほど、これはすばらしい国のようだ」


 国には活気があり、貧困とはまったくの無縁のようです。国内の政治も安定していて、選挙によって選ばれた優れた指導者たちが、公正で非難のしようがない政治を行っていました。

 周辺諸国との関係もこの上なく良好、巷には豊富な食材をふんだんに使ったおいしい料理と、アーティストたちの見事な作品が溢れています。

 娯楽も充実しており、まさに満足の国という名前にふさわしい場所でした。


「こんなに理想的な国は初めて見た。さぞ、ここの国民は満足していることだろう」


 ところが、この国の国民は確かに楽しそうなのですが、どこかしら不満そうな顔をしているのです。


「はて、これはいったい、どういうことだろうか」


 旅行家は、街ゆく人に尋ねてみます。


「どこか、浮かない顔をしているようですが、何か気がかりなことでも?」

「いいや、そんなものは何一つないよ」


 旅行家が捕まえた青年はそう答えました。

 この国の国民はみな、やりがいのある仕事と、十分に暮らしていけるだけの給金をもらってるのだと、青年は言います。

 それにこの国の国土には、常夏の浜辺や厳しい冬山といった素晴らしい自然も揃っており、休日には人々は多種多様な趣味を楽しむとのことでした。


「ゲームも映画もアニメも、なんだって充実している。気がかりなことなんて何にもないんだ」

「では、なぜそんなにも浮かない顔をしているのですか?」

「そりゃもちろん、何の不満もないと、何の文句もいえないからだよ!」


 旅行家はその言葉に、口を閉ざしてしまいます。青年のことが、あまりにも愚かに思えたからでした。


 それからしばらくして、気づくのです。


「なるほど……。この国を訪れる人はみな、こうして満足してしまうというわけか」

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