結婚相談所

 輝子てるこは焦っていた。もう三十路も半ばというのに、未だ独身だったのだ。周囲の友人たちは次々と家庭を築いていく。そのたびに、危機感を募らせていた。


「いい所があるのよ」


 同じく独身の美智代みちよは、輝子にそう言った。なんでも、とうとう美智代も今度結婚することにしたらしい。


「ここなんだけどね、今の彼ともここで知り合ったの」


 美智代が勧める結婚相談所は、少々登録料が張ったが、もう背に腹は代えられない。

 輝子は早速そこを利用することにした。



 数カ月後、輝子は有頂天だった。自分のプロフィールと、理想とする男性像を登録した所、あっさりと相手は見つかった。

 それは輝子の思い描いた理想的な男性そのもの、彼のほうも輝子を気に入ってくれて、美智代に遅れることしばらく、彼女も結婚を決意したのだった。


 それにしても、こんなにいい男がこうもあっさり見つかるなんて。

 輝子は自らの幸福を喜んだ。




 それから一年ほど経って、郊外のある工場に、輝子の夫となった男が一人でやって来た。

 工場には、様々な男女が列をなして自分の番を待っている。


 この工場は、ロボット工場だったのだ。



 彼らは結婚相談所の登録者の理想の異性像そのままに作られ、ロボットであることがばれないよう老化させるためにこうして時折工場を訪れる。


 彼らの妻や夫は、何の疑いも持たずに理想の異性との結婚生活を満喫して死んでいく…………。


 なにせロボットだ、彼らの配偶者より先に死ぬことはあり得ない。子供だって作ることもない。

 配偶者の遺産をたんまりと得た後、ロボットたちは再び理想の異性像に作りかえられるのだった。

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