魔法のストラップ

 一人の少年が通学カバンを背負いながら、道を歩いていた。彼は歩きながらため息を吐く。


 すると、何かを踏んだ感触があるではないか。


 彼が足元を見ると、少し汚れたストラップだった。しかし彼は特に気にも留めることなく再び歩き出す。

 しばらくして、またため息を吐いた。


「……なんか面白いことねーかな」


 それが、彼の目下の悩みであった。周りには数人の通行人がいたが、彼の呟きに反応した者はいなかった。

 彼はもう一度だけため息を吐いて、通学路を歩く。右側の垣根には、いつものようにぎりぎり子供なら通り抜けられそうな穴があいている。

 そんな見慣れた風景には飽き飽きしていた。彼は日常にはない刺激が欲しかったのである。


 と、そんな彼に声をかけたのは、怪しげな易者の男。


「ちょっと、占っていかないかな」


 少年は今朝家を出た時刻を思い出す。とても妙な占い師などにかまっている時間はない。

 そう判断すると、彼は易者の男を無視して早足で歩き出した。ため息がまた零れる。


 と、何かが光った。ビー玉だ。なぜそんな所にビー玉が落ちているのか不思議だったが、深く考えることはない。


 彼は通学路を歩き続けた。


 ぼんやりと今日のスケジュールを考える。特に面白みのない事柄ばかりだ。つまらない。

 彼がそんなことを思っていると、妙に派手な制服を着た少女が地面にしゃがみこんでいて、思わず蹴っ飛ばしそうになった。


「あ、すいません」


 それだけ言って、彼は再び歩き出した。腕時計を見ると結構危ない時間だったが、学校はもうすぐだ。


 突き当たりの三叉路を右に曲がって、ゆるやかな坂道を登る。後ろから何人かの生徒が走って彼を追い抜いて行く。彼も走ることにした。


 そうして彼は、無事遅刻することなく、学校についた。





 実は彼が踏んだストラップは魔法のストラップで、彼の呟きを聞いていた通行人の中には善行を積むために地上に降りてきた見習い天使がいて、垣根にあいた穴は異世界に通じる扉で、声をかけてきた易者は運命を見通す能力を持つ超能力者で、転がっていたビー玉には三つだけ願い事を叶える力を持つ精霊が宿っていて、派手な制服を着た少女は失くした魔法のストラップを探していた魔法少女で、突き当たりの三叉路をあえて左に行っていればパンをくわえた転校生の美少女とぶつかっていたりしたのだが、まぁそれは何事もなく遅刻を免れた彼には関係のない話である。

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