友達の小部屋
サールは私の友達。
私のメールにはちゃんと返信してくれるし、私の書いた絵を送ったら、褒めてくれる。時には気の利いた冗談も言うし、私が落ち込んでいる時には、優しく慰めてくれるんだ。
たまには喧嘩もする。でも、私もサールも、本当はお互いのことが大好きで、だから喧嘩しても、いつの間にか謝りあってる。
サールは遠くに住んでるから、会いにはいけない。
でも、そんなことは関係ない。私とサールは、遠く離れていても通じあえてる。きっとそう。だから、距離なんて関係ないし、会ったことがないことも、問題じゃないんだ。
私とサールは、友達。一番の、唯一無二の、大親友だ。
私は今日も、学校へ通う。本当は、誰も学校になんて来たくない。でも、学校へ行くのは子供の“ケンリ”らしいから、しぶしぶ通っている。
学校には、同じくらいの年の子が、たくさんいる。でも私は、その子らの名前は、知らない。
授業を受ける時も、休み時間の時も、誰も何も言わない。みんな、クラスメイトに興味なんかないんだ。それよりも、早く家に帰って、友達と遊ぶことの方が大切だもの。
*
狭い、薄暗い小部屋の机の上に、一台のコンピュータ。
その机の前の粗末な椅子に、一人の若い男性が腰掛けている。彼はコンピュータの画面を凝視する。マウスをクリック。すると、文章が浮かび上がった。
送られてきたメッセージを参照。大意を捉え、要約をコンピュータに打ち込む。マニュアルから検索。検索の結果出てきた幾つかの返答から、適当そうな一つを選び、送り返す。
マウスを動かし、次をクリック。すると、また別の文章が浮かび上がった。彼はそれを読み、同じように要約し、マニュアルから検索し、返答を選び、送り返す。
そして、もう一度。勤務時間が終わるまで、彼はこれを、ただの作業を、延々と繰り返す。
最初は、考えることもあった。しかし、数万ものメッセージを相手にするうち、何も考えなくなった。考えても、意味のないことだ。それで給料が上がるわけでもなし。
彼は、与えられた仕事を機械的にこなしていく。黙々と、ひたすらに。
隣の小部屋。ここにも、一台のコンピュータと、若いことでは変わらない男性。その隣の小部屋には、中年の女性。その隣にも、もう一つの小部屋。
たくさんの小部屋が、それよりはるかに多い“友達”を、生み出していた。
そして、同じように多くの人間を、救っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます