シロのブログ
私のお気に入りのブログを覗いてみると、更新されていることに気付く。早速読み始める。そして、少しばかり憂鬱な気分になった。
このブログはシロという人が書いている。プロフィールによれば女性で、今までの書き込みからすると高校生らしい。
シロはとても繊細な絵を描く。ただ上手いだけじゃなく、どこか味のある絵だ。
媚びていないその絵柄が、私は好きだ。だからこうして、私は毎日ブログをチェックする。
だけれど、最近は絵の更新が減っていた。その代わりに、今日のような内容の更新が増えた。
最初に、注意書きがある。不快な気分になる恐れがあるので、云々。いつも同じ注意書きなので、読み飛ばして次へ。
そこに書かれているのは、愚痴だ。学校生活への。より詳しくいうならば、クラスの生徒に対して。
流石に細部までは書いていないが、どうやら学校でいじめにあっているらしい。
その不満を、ここに綴っているのだ。恐らく、他に吐き出す場所はないのだろう。
私は更新があった時は、ほぼ毎回コメントを書く。今日も、書いた。内容はこうだ。
“辛い目に遭われているんですね……。でも、挫けないでください。私はいつでも味方です。絵の更新、楽しみにしてますね。”
そんなことを、彼女の愚痴を読むたびに書き送っている。ただただ、私の好きな絵を描く彼女に気に入られたいから、という理由で。
実際彼女に、何をしてあげることもできないのに。そう、何も。
次の日、私が登校して教室に入ると、一人ぽつんと佇んでいる生徒がいた。百瀬さんだ。他のみんなはそれぞれに談笑しているのに、彼女だけは一人ぼっち。
彼女はいじめに遭っている。正確には、クラス全体からシカトされていた。
ただ、一部の生徒だけは彼女を無視しない。その代わり、彼らは彼女に地味な、それでいて執拗な嫌がらせをしている。
きっかけは知らない。気づいたら、そうなっていた。
誰も、面倒なことに巻き込まれたくはない。だから、気づかないことにした。私もその一人だ。
何が“挫けないでください。私はいつでも味方です”だ。自分の偽善者ぶりに嫌気が差す。
あんなこと、書かない方がよかった。そうすれば、こんな気分に陥らなかっただろうに。
いや、結局のところは同じか。傍観するだけのどうしようもない人間に変わりない。
自己嫌悪に陥りながらも、結局私は何もしない。何もできない。
今日も、私は彼女を無視したまま、学校を終えた。
シロのブログをチェックする。今日も更新があった。内容は、昨日の続きみたいなもの。
最後に、私のコメントへの返信があった。
“いつもありがとうございます。もう少しだけ頑張れそうです!”
ありがとうだなんて。そんな言葉、私には受け取る価値もない。
そう、そんな言葉を受け取る価値もない、最低の人間なのだ、私は。
いつもコメントを送っている私がそんな人間であることを知ったら、彼女はどう思うだろう。
シロにはあんな綺麗事ばかり言っておきながら。
百瀬さんには、何もできない。
それどころか、気づかないふりで自分を誤魔化しているのだ。
次の日も、百瀬さんは変わらず無視される。いないも同然に扱われる。
彼女が人と関わるのは、一部の人間による嫌がらせだけ。そんな日常が、その次の日も、そのまた次の日も続いた。
その間、シロのブログの更新は、なかった。
週が開けた次の日、百瀬さんは学校を休んだ。その次の日も、そのまた次の日も。
そのまま、百瀬さんは学校に来なくなった。
百瀬さんが最初に学校を休んだ次の日、シロのブログが更新されていた。しかも、久々の絵の更新だった。私の好みに合致した素晴らしい絵だった。
それ以来、シロが以前のような学校生活の愚痴を書くことは、無くなった。
そして、絵の更新が増える。どれもこれも、いい絵だった。
胸が痛い。きりきりする。
なぜだろう。喜ぶべきはずのことなのに、いったい、どうして。
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