神様は不公平 6/7
岡本食堂での仕事を終え、帰宅した悠。待ち構えていたように詩織がやってきた。
「お仕事お疲れ。ポテトチップたくさん買ってきたよ」
いつものお喋りだ。悠はすぐに詩織を中に入れた。続いてお皿を出し、コップに飲み物を注ぎながら聞く。
「何かあった?」
「うん」
「実は私もちょっとあった。詩織から聞かせて」
お茶をテーブルに置き、詩織がポテトチップを皿に出し、お喋りが始まった。
「実はさー、単位落としたんだよ」
「落としたって、あの一番勉強してた授業?」
「そう。でも、それだけじゃなくてさ。私は単位落としたのに、ホルスは単位取ってた」
「あー……」
ホルスが不真面目だったのは、悠も詩織から聞かされて知っていた。思い起こされるのは、昼間あり姐が言っていた『不公平』という言葉だ。
「不公平……ってこと?」
「そうなんだよ! 不公平だよ! そう思わない?」
「うん。まあ、気持ちは分かる」
「でしょ?! もうさ、頭にきた。何で必死にした努力が報われず、してない努力が報われるのか! 不公平だよ!」
「うんうん。気持ちは分かるよ。私もちょうど似たような思いしたから」
「似たような思いって?」
「合コン行くってこの前言ったじゃん? その合コンで男と仲良くなったんだけど、ろくでもないやつだった。会ってその日のうちにラブホに誘われて」
「えー、会ってその日かあ……」
「それだけならまだ何とか許せるんだけど、断ったらその後SNSでメッチャ悪口言われて」
「ふーん……災難だったね」
「一緒に合コン行った黛君は、女の子といい感じになって、今日も会う約束してたみたい。それを聞いて真田さんが『普段の行いが悪い黛が幸せなんて不公平だ』って。仕方ないことだし、やっかみにも思えるけど、正直私もちょっと不公平に感じた」
詩織は「はあ」とため息をつきながら、腕を放り出してテーブルに突っ伏した。
「何かさあ、神様って不公平だよね」
「そうだね。意地悪で不公平」
そう言って二人でうちひしがれていたが、「あ」と詩織が顔を上げた。
「私、もう一つ話があったんだった」
詩織は姿勢を正し、今までより少し深刻そうに話し始めた。
「悠、『アウティング』って分かる?」
『アウティング』という言葉。悠は以前、レズビアンの滝川さんから説明を受けた記憶がある。
「ゲイとかレズビアンとかってことを誰かに勝手にばらされちゃう……って事じゃなかったっけ」
「そうそう」と詩織。
「今日いそべえから聞いたんだけどさ、滝川先輩がアウティングの被害に遭ったんだって」
「えっ?!」
悠に衝撃が走った。滝川さんは信用できる限られた人にしか秘密を明かしていない。悠の他には詩織、いそべえ、他にはレズビアンやゲイ、バイセクシャルの知人(山口さんなど)くらいだと聞いている。
「どこの誰が漏らしたの?」
「それがさ……」
詩織の話によると……滝川さんには好きな人がいた。学科の後輩、一年生の女の子。彼女は、入学してすぐから滝川さんの所属している研究室に出入りするようになり、滝川さんが色々教えながら仲良くなったらしい。二人だけで食事したり遊んだりする仲になり、いけるだろうと判断した滝川さんは告白。しかし、ダメだった。
そのすぐ後、一年生の他の女の子が突然『滝川さんってレズビアンなんですか?』と話しかけてきた。告白した女の子から『相談』と言う形で、その子に伝えられてしまっていたのだ。
「二人とも『秘密は守る』って約束してくれて、今の所それ以上広がってはいないみたいなんだけどさ、滝川先輩は凄くショックだったらしくて。いそべえがそれを相談されたんだって」
「そっか……」
滝川さんがどんな気持ちかは、悠も詩織も、ただ想像する事しかできない。
「私、初めはいそべえに自分の授業の事愚痴ろうと思って電話したんだけど、ちょうど二人が話してる時だったみたいで、私も二人の所に行ったんだよ。滝川先輩、泣いてた」
「かわいそうだね……。それで、黒川君と詩織で話を聞いてあげてたってこと?」
「うん。それで、話の最後に、気晴らしにどこかに遊びに行こうってことになってさ。悠もおいでよ」
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