神様は不公平 4/7




 悠と諒君二人で行ったカラオケ。リトルジャーニーの曲をお互い指定し合って歌い続けるラリーを楽しんだ。有名なシングルは途中から二人で歌ったり、マニアックなアルバム曲はところどころラップのようになってしまったり。三十曲以上歌い、二人とも喉がガラガラになった。

 こんなに楽しいカラオケはいつ以来だったろう。


 帰り道。悠は道案内を諒君に任せ、後に続いて歩いていた。

「久々に楽しいカラオケだったよ」

 後ろから諒君にそう言う。諒君は振り返って笑顔を見せた。

「俺も最高に楽しかった。悠は普段あんまりカラオケ行かないの?」

「行かないなー。友達も少ないし、一人で行くほどカラオケ好きってわけでもないし」

「たくさん歌って疲れたんじゃない?」

「うん。結構疲れた。歌うのって意外と体力使うからね」

「どこかでちょっと休んでかない?」

「いいね。どこにする?」

「ここは?」


 そう言いながら諒君が親指で示した建物。それは、ラブホテルだった。

「……え?」

 温かい楽園のようだった悠の心は、極寒の地獄へ早変わり。平たく言うと、ドン引き。

「何言ってんの、本気? 今日初めて会ったのに……」


「いや、誤解するなって。休むだけ、休むだけ」


 嘘つけよ。


 悠は踵を返して歩き出した。駅の方角は分からないが、取りあえず来た道を戻る。諒君は後ろから手を引っ張った。


「何勘違いしてんだよ。休むだけだって!」

「いい。そこで休むなんて言うなら、もう帰る。私、君みたいにチャラチャラした軽い人間じゃないから」

 諒君は手を振り払った悠に、後ろから大声を上げた。


「何だそれ! お高くとまってんじゃねーよ!」




 駅にたどり着き、ホームで電車を待っている悠は、モヤモヤ考えていた。


 ちょっと前まで良い感じだった。合コンもカラオケも楽しかった。それが、こんな事になるなんて。どうして彼は今日いきなりあんな場所に誘ったんだろう。もししばらく我慢してデートを続けていれば、近いうちに応じることもあったかもしれない。

 だが、近いうちにあったかも、と悠自身が思っているということは、タイミングの問題だったわけだ。諒君が間違えたのはタイミング。一度タイミングを誤っただけで関係を切ってしまうのは、厳しすぎるかもしれない。

 そう考え、悠はスマホを取り出して、合コン直後に交換したSNSのアカウントを覗いてみた。そこには、つい先ほどネット上で更新された、諒君の短い呟きがあった。


 --- 中卒の職人とかいう社会の底辺に上から目線でもの言われるとマジで腹立つな。


 ―― はあああああああああああああああああああ?!!?!



 ブロック、拒否、消去。悠はスマホから諒君の存在を、一切の痕跡を残さず消した。




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