幸せなバレンタイン? 6/6




 仕事を終え、帰宅した悠。テーブルの上に、どさりと荷物を乗せた。普段は鞄一つだが、今日はそれだけでなく大量のチョコも。テーブルの上はにぎやかだが、心はなんだか寂しい。


 お茶を飲み、することもなくテーブルに突っ伏していると、インターホンが鳴った。訪ねてきたのは、いそべえとのデートを終えた詩織。

「お仕事お疲れー。いい事あった?」


「いや、別に……」

 悠がいつものように扉をグイッと押し開け、同時に詩織が入って来る。テーブルを見て、詩織は「えっ!」と指さした。


「たくさんチョコ貰ってるじゃん! すごい!」

「全部義理チョコだよ」

「でもさ、チョコはチョコだよ。義理でもご縁があって、こりゃ結構結構! なっはは!」

 少し酔っているらしい。いそべえとのデートでお酒を飲んだのだろう。


「たくさんあるし、一緒に食べる?」

「いいの?!」

 そう言いながら詩織はすぐに席に着き、一番近くにあった袋からチョコを取り出した。悠は向かい側に座る。

「うわ、これ抹茶チョコだよ!」

 ぽいっと口に放り込む詩織。続けて「うーん!」と嬉しそうにうなる。

「甘ーい。美味しーい」


 悠も適当に一つ取って食べる。これはビターだ。ほろ苦い。何だか寂しい。……何だろう。この寂しさは。


 ふと鞄を邪魔に感じ、床に降ろそうとしたところで悠は気付いた。あのチョコを入れっぱなしにしていた。チョコの入った箱を引っ張り出す。


 深夜、あちこち駆けずりまわって必死に準備した、浩太へのチョコ。よりを戻して付き合う事になるかもしれない、なんて考えていた愚かな悠だが、浩太は今頃、奥さんと婚姻届けを出し終えて正式に結婚しているだろう。寂しさの原因はコレだ。


 ハッと目の前を見る。そこには、彼氏持ちの女友達と一緒にチョコ作りを楽しみ、彼氏とのデートを楽しみ、それが終わった後友達の家で美味しいチョコを楽しみ、バレンタインの幸せを満喫している女がいた。



「んーーのいふぃおいしいーー」



 一瞬、詩織を追い返したくなってしまった悠であった。



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