幸せなバレンタイン? 3/6
「悠の方が私に相談なんて珍しいね。どうしたの?」
ホットミルクの入ったマグカップ片手に、詩織は不思議そうな顔。確かに、夜遅くに押しかけて相談事、というのは、詩織はしょっちゅうやるものの、悠は基本的にやらない。
「実はさっき、高校時代の元カレから急に電話がかかって来て……」
「えーっ!」
詩織は嬉しそうな笑顔で前のめりになった。こういう話題が大好きなのだ。食いついてくるだろうとは思っていた。
「ひょっとしてさ、『より戻さないか』とか?!」
「まだ分からない。顔を見て話したいって言うから。岡本食堂に来るって……」
「へえー」とにまにましながら詩織。
「もしさ、よりを戻したいって言われたらどうする?」
「うーん……」
「迷う? どんな人だったの?」
浩太と付き合い始めたのは高校二年の秋。教室で席が近かったことと、お互い前の恋人と別れて寂しい思いをしていた時期で、よく愚痴り合ったりしていたことがきっかけで、距離が縮まり、何となく付き合い始めた。
浩太は悠と同じくスポーツが得意。身長も悠と同じ程度だったが、勉強は悠よりかなりできた。それなりに優しく、記念日にはデートプランを立ててくれ、そこそこ楽しい付き合いをしていた。
だが、三年になり、受験が近づくと、だんだん一緒にいられる時間が短くなり、それに伴ってすれ違うようになっていった。学校でもメールでも喧嘩が多くなり、関係が悪化。そして、クリスマスイブ、浩太はデートの待ち合わせに現れず、悠が電話したところ、返ってきた一言。
「ごめん、俺、もうお前無理」
そう言って、一方的に電話を切られ、別れたのだ。
「何その言い方! 『お前無理』って何?!」
詩織はさっきと打って変わり、眉間にしわを寄せて怒っている。
「別れるにしたって、もうちょっときちんと言う事あるでしょ」
「うん、まあ。でも、私も当時結構酷い事言ったし……」
「別れた時は、まだ好きだった?」
詩織の質問に悠はまたドキッと心臓が震えた。当時は怒りに飲まれてよく考えていなかったが、そもそも怒りが湧いてきたのは、まだ好きだったからかもしれない。
「好きだったかも」
「じゃあ、より戻す?」
「うーん……十三日に会って、どんな話するか次第だな。まだ分からない」
「そっか。まあ、そりゃそうだよね」
そう言った後「でもさ」と続けた詩織。
「明日来るんでしょ? 二月十三日だよ。やばくない?」
「え、何で?」
「だってさ、バレンタインの前日だよ? チョコどうするの?」
「えー、付き合うかも分からないのに……」
「付き合うかも、しれないわけじゃん。十四日会えるか分からないのにさ」
「準備しておくべきってこと?」
「一応しておいたら?」
「今から?!」
「明日お店が開いたら買う、は無理だよね。お仕事あるもんね」
「うーん」と詩織は指を顎に当てて考える。
「今からコンビニで板チョコ買って、手作りで」
悠も「うーん」と考えた。七年ぶりに会う元カレ。もしよりを戻して付き合う事になったら、何もないバレンタインはちょっと惨めだ。できる範囲で準備した方がいい。
悠と詩織でコンビニへ向かった。バレンタイン直前で板チョコは軒並み売り切れており、必要な量揃えるまでコンビニ五軒も回ることになってしまった。ドライフルーツやナッツ、生クリームも買い、材料は準備オーケー。悠の家へと二人で戻った。
深夜のお菓子作り。料理は得意だがお菓子作りはあまりやらない悠は、詩織と一緒に本を読みながら、ドライフルーツ入りのチョコやナッツチョコ、トリュフチョコをいくつも作り、適当な箱につめた。これで準備オッケーだ。
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