甘え下手 4/5




 年が開け、一月二日。悠と詩織はそれぞれ実家から大学近くまで戻ってきた。駅の前でいよかんと待ち合わせている。


「何かさ、向こうを付き合わせてるみたいで申し訳ないな」

 そう言う詩織に「うん……」と微妙な反応の悠。

「神田さんが『美紀さんの顔を立てます』って言ってたから?」

「うん。だってさ、いよかん、自分のためじゃなくて美紀のためにやってるんだよ?」

「確かにそうかもしれないけど、神田さん、私にはそんなことする子には見えないな」

「どういうこと?」

「本当に純粋に美紀ちゃんのために誘いを受けるような子だとは思えない。何か、理由があるかも」


 改札からいよかんが歩いて来た。一応、笑顔だ。

「あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとう」

「おめでとう」

 いよかん、詩織、悠の三人は、挨拶を済ませるとすぐに歩き出した。




 *




 三人がやって来たのは、宮ちゃんに教えてもらった、二日から営業中のゲームセンターだった。悠が先頭に立って店内を見てまわる。

「神田さん、やってみたいのある?」

「そうですね……最初はクレーンゲームかな」

「よし! ここたくさんあるから選んで!」


 いよかんが選んだぬいぐるみのクレーンゲームを三人でやる。まずは詩織があたりまえのように失敗し、いよかんが普通に失敗。悠は「任せて」と腕を回して見せた。

「私結構上手いから」


 悠の操るクレーンは、初めから狙っていたライオンのぬいぐるみへと一直線にすすんでいく。完璧なタイミングで動きを止めたクレーンは、ゆっくりと下がり、ライオンのぬいぐるみの足をつかむ。ぬいぐるみは持ち上がった。

「ほらね! ほらね!」

 そのまま出口へと向かって行くぬいぐるみを三人とも固唾をのんで見守る。ライオンのぬいぐるみは、出口にストンと落ちた……と思いきや、たてがみが引っかかり、出口に詰まってしまった。

「ええっ?!」と三人。

 悠がドンドンと機械を叩くが、落ちて来そうにない。

「ちょっと! それはないでしょ! 店員さーん!!」


 店員さんに出してもらい、ライオンのぬいぐるみをゲット。次は詩織が希望を出し、シューティングゲームへ。

 詩織は「えーっ!」とか「うわーっ!」とか「何ーっ?!」とか大騒ぎしながら、255というスコアを出した。

 続いていよかんが挑戦。詩織より女子っぽい叫び声を上げながら出したスコアは306。

 最後は悠。「えっ?!」「どうなってんの!」「何それ!」と敵機に翻弄されながら出したスコアは、ビリの196。


「ビリは悔しい! 次は私に選ばせて!」

 悠が選んだのは、もちろんパンチングマシン。だが、ただパンチしてもつまらないということで、何か叫びながらパンチすることになった。先ほどと同じく詩織からだ。


「ラーメンいちむら屋! 無料ご飯大盛りもっと大盛りにしろーっ!」

 ベチッとパンチングパッドが倒れ、77というスコア。続いていよかん。


「黛地獄に落ちろーっ!」

 バチン! とパンチングパッドが倒れ、スコアは98。満を持して悠が、パンチングマシンの前に立った。


「定食屋の店員にベタベタ触るなーーーーーっ!!」


 ドバァン! と爆発音のような音とともにパッドが倒れ、しかしスコアはなぜか0。

「はあ?! 嘘でしょ?!」


 いよかんは詩織と二人で笑っていた。



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