勇気の使い所 2/6




「詩織、やってみて」


 悠は家に帰ってきてから詩織を呼び出し、一枚の紙を見せていた。

「……心の性、体の性、好きになる性?」


 その三つの項目には、それぞれ横線と両脇に、『男』『女』という文字が書かれている。これは、セクシャリティを表現するアンケートなのだ。悠はすでに滝川さんにやらされていた。

「ああ、なるほどね。その三つがそれぞれどっちに近いか、みたいな事か。よし……」

 詩織は全く迷いなく、心は女、体も女、好きになるのは男という、非常にシンプルに典型的な『女』スタイルの印をつけた。……つまらん。

「えー、全然迷いなし?」

「うん。全然ないよ。だってさ、まず心の性はさ、私男じゃないし……」

 ふふん、と得意げに笑う悠。

「男じゃなかったら、女なの?」

 この揺さぶりは、悠自身が滝川さんの前で同じ事をやった時、されたものだ。つまり受け売り。詩織は「え」と固まった。

「……どういう事?」

「私、多分こうだな」

 悠はもう一枚の紙に自分の印をつけた。心の性は、殆ど女だが、端っこではなくちょっとだけ男寄り。

「ん? そのゾーン、女だよね?」

「女だけど、ちょっと男っぽい女」

「えー何それ?」

 そう言って軽く笑う詩織。悠がふざけていると思っているような反応だ。

「そんなのあり?」

「ありだよ。詩織、もう一回考えてみて」

 悠がそう言って考えさせようとすると、詩織は全く迷いなく、元々自分が書いた箇所に上からもう一度書いた。

 完全に、女。……つまらん!


「本当に? 本当に完全に女? 詩織、パンクロックとか、何かこう……男っぽいの好きじゃん」

「えー? そんなの別に音楽の好みの話じゃん。パンクロック好きだったら男寄りなの?」


「ん……そうじゃないけど……」

 確かに詩織の言う事ももっともだ。じゃあ、さっきの飲み会で話していた服の好みの話は……悠は服の好みが男っぽいから男寄りなのだろうと考えたが、だんだんよく分からなくなってしまった。



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