一番誰かを想える人 6/7 ~宮ちゃん、想う~

 テーブルの真ん中に大きなボウル。そこにみんなが順繰りにスプーンを突っ込んでタネをすくう。

「悠さん、チーズあります? あたしチーズ入ってんの好きなんですよ」

「ああ、いいね。スライスチーズならあるよ。今持ってくる」

「ねえしー坊、タネ多すぎだよ。それじゃ包めないよ」

「えー、大丈夫だよきっと。ていうかさ、いそべえだって下手くそじゃん。それじゃワンタンだよ。宮ちゃんは上手いよね」

「俺は実家でしょっちゅう作るの手伝ってたからねえ」

 五人分の餃子を一度に焼くには悠のフライパンは小さすぎる。三回に分けて焼く事にした。



 全員で「いただきます」と手を合わせて食事が始まった。宮ちゃんのお皿にはチーズが入った餃子とワンタンみたいな餃子、タネが多すぎて皮二枚ではさんだ餃子に、きれいに形が整った餃子、それよりさらに完璧に整った餃子がいくつも乗っている。

「あのさ、美紀はどんな事まで知ってるの? あり姐さんの今の気持ちとか、そもそも不倫に至る経緯とかさ」

 詩織が小皿に醤油を垂らしながら言った。

「んー、実際ほとんど知んない。でも相手は皆川先生で、捨てらったって事は本人から聞いた。着信拒否んされたって」

 宮ちゃんが大根の味噌汁をすすって「ふー」と息をついた。

「それは『やっぱりそうか』って感じだよねえ。でも、それを言うのもきっと、あり姐はつらかっただろうなあ。あり姐の中で、それでも言わなきゃダメなんだっていう理由が何かあって、勇気振り絞って言ったんだろうねえ」

 美紀がコップにお茶を注いでみんなにまわしていく。

「そん通りだよ。やっぱよく分かってんじゃんお前。あり姐、ちょー自分に厳しいかんね」

 詩織が餃子をかじってご飯をかき込む。

「ぎゃあは、ほえいごうへあいきげあいおえ。ほえげもかえへあげあえうほこばおは、あはきはひあは…」

「飲みこんでからしゃべりな」

 悠がお酢をたっぷり小皿に注ぎ、いそべえは餃子に直接醤油をかけた。それを「えー!」と詩織が指さしながら非難する。

「俺もしー坊の言う通りだと思うよ。あり姐が話せない事は、下手に聞くべきじゃないよね。それでも俺達がかけてあげられる言葉を考えないとね」

「ああ…しー坊、そう言ったの?」

 詩織が宮ちゃんにうなずいた。

「いそべえ、よく分かるねえ」



 あり姐にはみんなで手紙を書くことになった。特に細かい事は話し合わなかったが、食事が終わると自然にみんな書き出し、悠が用意した封筒に押し込んだ。

 今から届けに行こうと言った悠に、宮ちゃんがストップをかけた。

「餃子すごく美味しかったです。あり姐にもみんなで何か作ってあげましょうよ」

 すぐに悠が買い出しに向かい、みんなでミキサーと電子レンジを駆使してベイクドチーズケーキを作った。あり姐がこれを好きな事は美紀が覚えていた。

 出来上がったチーズケーキを五等分し、五人それぞれがチョコやアラザンでデコレート。タッパーにつめて、日付と「今日明日中に食べてね」と書いたメモを貼り、全員であり姐の家へ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る