筋肉の塔
僕は登っていた。
自民塔である。
日本の政治はもはや筋肉によって全てが決まる国となっていた。
僕は第237回自民塔主肉体踏破大会に参戦しているのだ。
「まてぇい!逃がさんぞぉー!」
僕の後ろから怒声がする。
超科学プロテインで増強された筋肉を持つムキムキの男だ。
なんと恐ろしい。
僕はこの肉体のみが物を言うこの塔を攻略するにはとても華奢だ。
僕はこの塔を頭脳で登っているのだ。
懐からバナナの皮を取り出して、ヒョイと投げる。
「ぬわああああ!小癪なぁー!」
強化ムキムキマンはバナナの皮に足を取られ、その場でビターンと倒れ、階段の角に頭をぶつける。完全に決まっていた。
男は気絶。超科学プロテインで筋肉を増強していなかったら彼は死んでいただろう。
僕は自民塔主になり、自民塔を、自民党に戻す。これはそのための戦いだ。
今のこの国はあまりにも筋肉に陶酔しすぎている。
2020年、東京オリンピックが発端のこの筋肉政治は、日々強まるばかりだ。
ここから北にある民主塔は超科学プロテイン中毒になった男が塔主となり、恐るべき筋肉政治の準備をしているらしい。
それが生み出すのは超科学プロテインのさらなる強化であり、さらなる筋肉国家への道を歩み続けるだろう。
そして、広がる非筋肉民への迫害。僕もその影響を受けていた。勉強をすれば後ろ指を指され、哲学なんかを考え始めた日には身体中に殴られた痣がたくさんできた。
僕はそんなこの国を解放したい。
人々が筋肉に縛られない、そんな世界を。
自民塔主肉体踏破大会は誰にでもその門が開かれている。
だから僕はこれを誰よりも早く上りきらなきゃならないのだ。
残る階段は3段。
残るバナナの皮は2つ。
順位は1位。
もう少しで念願の自民塔主だ。
この国を変えるのだ。これはその第一歩なのだ。
僕にとっては5段、しかし超科学プロテインで増強した人間にはただの小石程度の障害、いや、ただの道だ。
用心しなくてはならない。
3。
踏み込む。
2。
とても遠くから怒声。
1。
念のためにバナナの皮を投げておく。
0。
到達。
いとも簡単に3段を登りきったことに少しびっくりする僕の目の前には一人の男がいた。
前自民塔主だった。
「よくぞ辿り着いた若人よ」
超科学プロテインで増強された筋肉がありえない形に造形していて、人間のそれではなかった。
言葉を発音する肉の塊は語る。
「ほう、筋肉のない人間か、面白いことが起きたものだな」
「僕は筋肉政治を終わらせたい」
「勝手にしろ、ワシはもう人としての形を維持できん、超科学プロテインは最終的に人を融解させる。力との引き換えるものはとても大きい」
よく見ると、肩だっただろう肉がどろりと融解していた。
「これを読め」
一冊の本が、こちらに放り投げられる。
肉体言語で書かれた書物だ。
僕はそれを読む。
「筋肉も、被害者だったんですね」
数分後、読み終えた僕が口を開く。
「うむ、そうである。超科学プロテインは筋肉政治を加速させた。しかしその先はどこにも行き着かん。やってくるのは筋肉を超え、肉体を超え、そしてヒトは融解する」
「なんてことだ...」
「超科学プロテインを製造するオリンピック協会、ヤツらが全ての混乱の原因だ、あとは頼んだぞ。筋肉を持たぬ青年よ」
そう、伝えるとどろりと肉が液体に変換された。
「たしかに、頼まれましたよ」
筋肉と知識の融和、それをスローガンに僕はオリンピック協会を打ち倒す。
僕は新しい道に一歩を踏み出した。
という夢を見た。
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