一話間欠

九層霞

CM


 カメラ頭のサイバー盗賊が、隠れ隠れに進む。石壁の大書庫、その最深部へ。ひときわ堅固な扉がある。盗賊はその前でかがむと、砂よけの口周りをあけ、鍵穴に針金を入れた。


 現場の頭上。壁からパトランプ頭の天使が忽然と現れ、鎖の一振りで盗賊を捕縛した。天使に質量は無いのだ。

「ご法度、文書泥棒。写本取締委員コピペ・ケルビムです」天使が霊的に言い渡し、ビカビカと発光した!



 盗賊は身もだえするが、鎖が鳴るばかり。天使の横で、巨大な羊皮紙が吊り下がる。盗賊の罪状が一覧されている!

「バカな!まだ何も盗撮できてないのに!大体、ここはお前たちの書庫でもない!俺が何を盗んだ!?」と盗賊。


「その答弁は全事象予測バビロン・ライブラリに記載済である。コピペ行為と見なす。増罪++イテレート!」羊皮紙に一行増えた。


「なッ……あんな遺物レガシーを今持ち出してくるな!見境なしブルートフォース異端崇拝アンセーフ・コードどもが!まとめて領地没収ガーベジ・コレクトされろ!」


「その答弁も予言済であるうえに、著しく不敬!増罪++増罪++増罪++!即刻、我々の書庫データベースに収監する!浄化の火よアップキャスト!」

 天からの光が盗賊を照らす。その肉体を火が舐めて、基底なる文字列ベースオブジェクトへと再構築していく。

「あああ……!」「さらに、精製パッケージ!」天使が次に唱えると、白い文字列は圧縮された。塩粒が転がる。


 天使は天秤を呼び出し、塩粒を乗せた。

「フゥーム。貴様の存在はしめて4キロバイト。優良だ。転送エクスポート!」塩を収めた革袋に、鳩の翼が生えた。窓を探して飛んでいく。宛先は実質的な牢獄である。



 文書泥棒は犯罪です。律法により、銀貨30枚以下の罰金、太陰暦3年以内の幽閉に処される場合があります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る