マダム・シック
目を潰したい意志の元に配されたとしか思えなかった。
垂れ幕と言って連想するような反機能性、細々造り込まれ無駄を凝らして豪奢なそれは、ただ単なる、飽くまでそう、のれんに過ぎない。この部屋にあっては。一枚一枚が、次に縁者をめくって除ける私を、生まれて来ないようにと呪い、鈍重に渋った。時折、巨大な入れ墨を施されてから永らく老けた壁紙が、虜囚のような距離感で垣間見えては、また貞婦の施した過剰包装に遮られ追い払われていった。いつか生けるに値した時間はここに泥々に融け合って、だから今は黙って年貢を納める他ないのだよ。そういううわ言を強迫してくる、半ば臭気、半ば妖気のようなとにかく停滞してしまって久しい致命的な疲労感の集積が、一切合切にぶよついた鬼子を孕ませ、私以外を消し飛ばす。孤独な私は、まだ抗っている。写真立てに収まるセピア色な、あれが目を引かなくなったら、待て恐ろしい妄想はよそう。婦人は部屋の真ん中に。私もそこに。
婦人はギョロと見る。見ているのが見えて、私が見ていることも見えた。見つめ合った恰好になり、婦人は気軽くうつ向いて赤らんだ。加齢と失墜は言うほど感じられない。未だ無言であるに相応に冷めた瞳のそのすぐ下の隈は、期限付きで貼って当てたものだ。ものの見事に、むしろ嫌みたらしさを浮き彫りにして止むことがない。鬱蒼と埃が床へ滴り落ちる。時間が急速に去っていく。壁掛けの懐中時計が堂々とサボっている。内壁をポッケになぞらえてなにか意味があるのか?時計はサボらない。私は部屋に、まさか好んで胃袋に?
会釈をしよう。した。こちらへ笑い、それから笑い、笑い、笑い、おっと笑いそびれ、悪びれ、藁、パラソル、笑い蛭、アルビレオ、溺惑して美麗、Y、ソビエトレール、さもカラー、届いた?密かに全天を溶いた?……病魔?
話が噛み合っていない。婦人よ。
もう一度笑った顔はインチキ占い師だ。獲物を箸でつまんだ、それは幼児期のしわで、随分と下から私を見下ろす。今や抗う恐怖。
理性が巡らす、信号を。得失点差。テニスボールが飛び交う。これは、打ち返すといずれ呑まれる。その筈が段々に、狂い望む方の比重が増える。私はまだ抗っている。そっと写真立て揮発。瞬間崖が見えた。遺跡が列組んで魔方陣を描く。全裸の美男が肩を組む。箒星に古代人が加わる。かの戦闘機群の末路に見られるよう、墜落した先に大きな甲羅だとか(セーフティネット)は無い。つまり
数分後あたしは出られることが出来たように思えた。安全だと分かった虎穴になど忘れものを取りに百六十五回戻ったし、眺めた陽は背に負ういとも晴れやかにも天幕を。ああ密室。奥方と幸わうあたしゃバトラー、負けてなるかと紅茶注ぐ。一息に苦虫も雪ぐ。推定無罪、閧の声も逸ろうもの。これは、胎外くんだりへ出で来以来出逢った皆。あたしはまだ、腹這っているよ?交響曲角番。
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