第7話 ライバル登場?
「殺せ! 殺せ! 殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!! 殺せ!!!……」
「ゃめて、お願い……」
リンデを大切な人を守りたかっただけなのに……どうしてこうなったんだよ。どうなってんだよ。完全に裏目に出てるじゃねえか。とんでもないことをやっちまってんじゃねえかよ……。
どうすればいい?どうすればいいんだ?この場でリンデが頼れるのは俺しかいねえ、俺が何とかしないと……でもダメだ、頭が回らない。
「全く何を騒いでいるんだ?」
その時、観衆の間を潜り抜け一人の青年がやってくる。青年の背はリンデと同じくらいだがそれ以上に顔はとても幼く見えた。単なる童顔なのかそれとも本当に予想より若いのかは定かではない。
「寄って集って若い娘を虐めるとは随分と民度の低い街だな」
おいおい、仲裁してくれるのかと思いきや、思いっきり火に油を注いでいるぞ。ただでさえ、雰囲気が悪かったのに余計に悪くなっていく。やっぱり俺が何とかしないといけない。
「おい、お前、誰だか知らねえがさっきから馬鹿にしやがって! ぶっ殺されてえのか?!」
「ぶっ殺す、ははは、面白い冗談だ。それでは一つ皆さんお見せしましょう。あちらに見えますのが一本の大木です、それがあら不思議……真っ黒焦げになってしまいました。で、もう一度言ってください。ぶっ何ですって?」
「あ、いや……そうだ店に戻らないと……」
「ああ、俺もだ。嫁に店番任せっきりだわ」
「私も買い物に来たんだったわ。早く帰らないと……」
すげえええ、あれだけの観衆が一瞬にして場を去っていく。あの手品……というか魔法だろうけど、すげえええ。歯が丈夫なだけの俺とは大違いで迫力がある。相手もそれだけ怯ませられるだろう。
「という訳で坊やだけになっちゃったけど死にたい?」
もう、ここには俺とリンデ、助けに入ってきた青年とそれから俺らを襲った少年だけになっていた。青年は矛先を少年に向けた。もう既に少年は先のパフォーマンス以来べそを掻きながら潤んだ瞳でリンデと青年を見つめる。これだけは断言できる、少年は今とてつもなく後悔しているだろう。
「ゴ、ゴメンナザイ、ゴメンナザイ……」
「謝っても遅いこともあるんだよ、取り返しのつかないこともあるんだよ、だから君は死をもって償うべきなんだよ」
「オデガイ、ユルジデ、ユルジデグダザイ……」
やばい……一難去ってまた一難だ。こいつマジで殺そうとしてやがる。それが雰囲気で伝わってくる。いくら何でも子どもを殺すのは可哀想じゃねえかよ。
「待って!」
「どうしたんだい、リンデ?」
「その子を助けてあげて」
「えー、でもリンデを殺そうとした奴だよ、別に良いんじゃない、死んでも」
「私が襲われたのだから私が彼の生死を決めても良いでしょ、反省してるみたいだし問題ないと思うわ」
「んーーー、分かったよ。リンデがそういうのなら」
まさに修羅場だった。最後はリンデが何とか青年を押し切る形でまとまった。これにより、少年は殺されることなく済むってわけだ。いやー、めでたしめでたし……なのか?
「アリガドウ、オネエザン」
「もー、あんな危ないことしちゃだめよ、約束よ」
「ウン、ヤグゾグ」
「よし、じゃあ行きなさい」
少年は無事に殺されずに済んだ。やっぱり、自分を殺そうとした人間を許せるくらい心優しいリンデが人殺しなわけがない。少年も観衆も何か誤解をしているのだろう。少し調べてみてもいいかもしれない。
「助けてくれてありがとう」
「リンデの為だからな、こんなのは当たり前だ」
「ところで……あなた誰?」
何だリンデの為にとか言ってたのに知り合いじゃないのか?……じゃあ何でリンデって名前知ってんだ? どこかで調べてきたとか?いや、もしくはストーカー!
「……はい? 何言ってるんだ。三代名家の一つ、エステル家長男のグリストロフ・エステル様じゃないか。そして君の将来の夫だよ、約束したじゃないか」
は?ここでライバル登場?俺だって将来のリンデの夫だ。きっと、何か呪いが解けて人間に戻っていい感じになって結婚する予定になっているんだ。多少不明確ではあるがそうなるはずだ。これは戦争だ。
「ああ、グリねグリ。覚えてる……覚えてるわよ……会うのは二回目だったかしら?」
「四回目だよ!全然覚えてないじゃないか。結婚しようって約束したよね」
「父さんとでしょ、私は返事してないわよ」
どうやら、俺の敵ではないな。はっはっは、この戦争は我々の勝利だ。にしても、名前を覚えてもらえられない。いつ会ったかも思い出してもらえないって悲しいなあ。少しだけ同情する。
「でも、運命は決まってるんだよ、リンデ王女」
……ん?
リンデが……王女?
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