第824話、多人数相手の訓練です!

「んにゃろ!!」


目の前に現れた土人形を技工剣吹き飛ばし、次に備えて精霊石を飲み込む。

するとその隙を突いたかの様に、マネキンの様な人形が襲い掛かって来た。


「っぶね!」


人形は手に武器を持っており、どちらも魔剣の類だ。

斬撃に魔力が込められていて、見た目以上に威力がある。

出来る限り躱しつつ、流石に無理そうな攻撃は技工剣で弾く。


「動きは単調――――ちょ、多い多い!!」


反撃に移ろうとすると、更に人形が三体襲って来た。

それぞれがタイミングをずらし、一旦下がって逃げるしか道が無い。


「ほらほら、早く倒さないとどんどん行くぞー。あっはっは!」

「ホントこの人腹立つなぁ!!」


尚人形をけしかけているのはアロネスさんだ。

偶には多人数相手の訓練も必要だろ、とか言われてこうなっている。

多分色々やる事が終わって、少し退屈になったんじゃないかな


最初は土人形だけだったんだけど、途中から何故かマネキンが増えた。

しかもクソほど頑丈で、技工剣で切りつけて何とか壊れる強度だ。

それが一体二体どころか、壊しても壊しても追加が出てくる。


「つーか、何時までやるんですか! かれこれもう3,40体は倒してるんですけど!!」


マネキンの攻撃を避けながら叫ぶが、その間に土人形が補充されていく。

話聞く気全然ねえなあの人! もう全部吹き飛ばしてやる!


『開け!』


四重強化を使って全力で背後に飛び、技工剣で魔力の花を咲かせる。

範囲攻撃で土人形とマネキンを、アロネスさんごと飲み込んで行く。


「あっぶねえなー。今の俺も狙ったろー」


ただ当然ながら、範囲外からアロネスさんの余裕の様子が見られるんだけども。

まあ、躱されるとは思ったよ。転移の魔力見えてたし。

妨害したのに、ほんの少しの時間稼ぎにしかならなかったか。


やっぱりこの間のは、イナイと二人がかりだったから出来た事だな。


けどチャンスだ。今ならアロネスさんの周りには何も居ない。

精霊石を三個追加して魔力を補充し、二乗強化を一つ使う。

そして転移を妨害しつつ接近戦を――――――。


「なっ、暗っ!?」


踏み込もうと思った瞬間、突然周囲が闇に包まれた。

しかも探知も効かない。何も見えないし解らない。

いや、違う、一つだけ解ってる事がある。


この暗闇から濃密な魔力を感じる事だけは。


『巻き取れ!』

『わっ、びっくり』


反射的に技工剣で魔力を引き寄せると、膨大な魔力が込められると同時に闇が晴れた。

すると俺から少し離れた位置に、堕天使のような姿の子が。

アレは確か、闇精霊だったっけ。名前は・・・あ、やべ、忘れた。


『にげろー』


どう見ても焦っている様には見えない無表情で、棒読みでポテポテ逃げていく。

何か気が抜ける。つーかチラチラこっち見てるのは、追いかけて欲しいんだろうか。


「ふっ!」

『あ』


無視してアロネスさんの方へ突っ込む。何せこの間にもう土人形が補充されている。

俺の目的はあの人を一発で良いから殴る事だ。悪いけど闇精霊は捨て置く。


「あだっ!?」


すると今度は二歩目で足首取られ、そのまま前にこけた。

全力で飛ぶつもりだったから止まれなかった。

くそっ、土人形にでも掴まれたか!?


「ぐのっ!」


俺の足を掴んでいる大きな手を、粉砕するつもりで全力で蹴る。


「固った!?」

『ほう、素晴らしい一撃だ。だが一撃で砕くには、少し足りぬ』


違うこれ土人形じゃねえ! 土精霊だ!


「うおおおおおお!?」


地面から土精霊がずもぉっと出現し、当然足を掴まれたままの俺は振り上げられる。

まってまってまって、これそのまま振り下ろされるやつじゃないですかね!!


『穿てぇ!!』

『おお、素晴らしい威力だ』


さっき巻き取った魔力を全部使い、黒い一線が放たれる。

流石にこの一撃は耐えられなかったらしく、土精霊の腕が吹き飛んでいく。

衝撃で精霊本体も飛んでいくけど、かなり余裕そうに見えるから心配無いかな。


着地したら今度こそ―――――。


「クソッたれ」


火精霊が構えていた。しかも近づかずとも解る程の熱気を放っている。

いや、あれやばいでしょ。近づいたら死ぬって。アレは本気でやばいって。

けど彼女を突破しないと、その後ろでニヤニヤしてる人を殴れない。


「どうしたタロウ、早く動かないと間に合わなくなるぜー?」


しかもその間にも土人形が増えていき、更にマネキンもまた増えてる。

あれ、なんか違う形の人形増えてないですかね。

まさか性能違いとか言いませんよね。何この虐め!!


転移で近づこうにも、下手にやると逆に危ないんだよなぁ。

何だかんだアロネスさんって、魔術の技量も滅茶苦茶高いし。

雑に転移なんかしたら、出現位置に攻撃を置かれる可能性が大だ。


『まったく、悪趣味。あんなのが私達の契約者かと思うと悲しくなるわね』

「なら、そこを退いて貰えないですかね・・・」

『ごめんなさい、報酬の劇を見たいのよ、私』

「ですよねぇ!」


火精霊が突っ込んで来るのを、全力で回避する為に逃げ回る。

途中で土人形が壁になったり、壊した土人形からマネキンが出てきたり、時々アロネスさん本人から魔術を打たれたりしながらも、何とか反撃の隙を探して走り回る。


「つーか、火精霊さんは反則だと思うんですよね!」

『あらっ、貴方なら、その気になれば私ぐらい吹き飛ばせるでしょう?』

「うぐっ・・・!」


いや、うん、出来る気はしてる。つーかさっき土精霊の腕吹き飛ばしたし。

ただ彼女の姿がどうしても、剣を振るうには抵抗あると言うか。

一応あの体は仮初の物で、本体じゃないって事は知ってるんだけども。


そうだ、相手は火の精霊なんだし、森林の中に入って行けば攻撃し難いんじゃ。


『成程、そこに逃げ込むの? ふふっ、可愛い判断ね』


あ、態度を見るに意味無さそう。あの人燃やす物は任意っぽ―――――。


「ぐあっ!?」

『捕まえた』


木の根が、突然凄まじい勢いで絡みついて来た。

あー、忘れてた! そうだよ、木の精霊も居るんだよあの人!

木の中に混じってたらしい精霊は、ぽやっとした顔で俺を縛りあげて来た。


「んなろっ!」

『わ』


技工剣を手首だけで回し、魔力を込めつつ刃を開いて回転させる。

半身側の木を粉砕したら、そのままもう半分も吹き飛ばした。

そして精霊の攻撃範囲から逃げる為に、全力で転移を使って離れた。


近づいた場合は迎撃されるけど、逃げるだけなら何とかなる。

けど、結局それは攻撃範囲に入れていない事と同意だ。


「くっそ、近づけねぇ!」


せめてアロネスさんが動き回ってなけりゃなぁ。

浸透仙術を一発ぐらいぶち込んでやるのに。


多分あの人、動かなかったらやられるの良く解ってる。

しかも俺の精度が悪いのも良く解っていて、一定距離以上近づかない。

本当に厭らしい戦い方させたら天才だなあの人!!


「ほれほれどうしたー! 時間をかければかける程、お前が不利になってくぞー!」

「―――――ぶっとばす」


ムカつきの衝動に任せて突っ込み、その後何十分戦っただろうか。

最終的に俺の足が動かなくなり、倒れ伏した所で終わった。


「いやぁ、久々に楽しい訓練だったな、タロ―――――てめ、やりやがったな・・・!」

「ゆ、ゆだん、する、からですよ・・・!」


ただし倒れた俺に近づいてきた所で、仙術をぶち込んだのでドローだ。

まあ近づいて来たって言うか、俺に手を差し伸ばしてくれた所で流し込んでやった。

卑怯? 知ってる! でも、もうこれで限界。


足に力が入らず倒れ込むアロネスさんと、もう何も出来る気のしない俺。

ちなみ引き起こされた際の出来事なので、俺もしたたか地面に打ち付けられている。

めっちゃ痛い。


「ぐっ・・・おまっ、これ、シャレになってねえぞ・・・う、動けねぇ・・・!」


尚ダメージはアロネスさんの方が上な模様。何せ仙術直撃だったからね!

流石に死ぬ様な威力で入れて無いけど、容赦してないので身動きも取れないはずだ。


『いい気味。訓練とは名ばかりの憂さ晴らしした報いよ、アロネス』

『油断大敵という事だな。いい教訓になっただろう』

『アロネス、大丈夫?』

『アロネス、痛い?』


木精霊と闇精霊は心配しているけど、土精霊と火精霊は容赦が無い。

尚イナイには「・・・お前らどっちも馬鹿だろ」と呆れられた。

まあ、うん、俺の攻撃、完全に負けからの反則みたいなもんだしね。


しっかし・・・腹立つけど、アロネスさんも本当に強すぎる。

本気でやられたら、やっぱりまだ勝てない確認をしただけになったなぁ・・・。

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