第823話、その後の暫くの日々です!
国が覆った日から暫く経ったが、俺はまだこの国に残っている。
その間に何が有ったかと言えば、正直俺に関していえば大きな事は無い。
あえて何かがあったとすれば、再度遺跡に向かった事ぐらいだろうか。
前は一応内部破壊に留めておいたけど、念の為完全破壊しておこうという話になったので。
向かったのは俺とクロトとハクという、完全対策面子である。
クロトが居るので当然魔術では飛ぶ事が出来ず、ハクに抱えて貰って向かった。
ただ結果としては、遺跡の機能は完全に壊れていたし、特に何事もなく破壊出来た訳だが。
俺自身にあった出来事はその程度の事だ。
ただ、国に起こった出来事となると、やっぱり大きな騒動となった。
「女王として即位する事を、ここに宣言します」
王女様は国王が無くなった事を国民に公表して、自分が女王となる事を宣言。
同時にほぼウムルの属国となる事も伝え、ただ一般市民には何の問題も無かった。
何せ今までが今までだ。特権階級の力が強い国の民だ。反抗より諦めの方が強かったのだろう。
『誰が王になろうと同じ』
概ねそう言った感じの反応だった。
ポヘタも貴族の権限は強かったが、あの国はその代わり民には自由があったと思う。
この国にはそれが無い。下手な真似をすれば奴隷にされる恐怖と共に過ごしてきたからだ。
奴隷にされずに過ごすには、頭を下げて何も見ずに騒動が通り過ぎるのを待つしかない。
そうなれば属国になった事など、民にとっては結局命じる貴族が変わっただけの話だ。
勿論ポルブルさんの領地の人達なんかは喜んだけど、大多数はそんな感じだった。
「・・・反乱が起きずに済むだけ、良しと思いましょう」
無気力。それに近い民達の反応に、女王陛下はそう言っていた。
民に対し武力を振るわずに済んだだけ良かったと。
ただしその優しさは一般人に対してだけであり、犯罪組織には容赦が無かったが。
女王陛下が許可を出した事で、ウムルはこの国で心置きなく行動を開始した。
先ずは既得権益を貪って来た貴族達に、一斉に強制調査が入る。
当然殆どの貴族が犯罪を犯しており、だが彼らを全て処罰する事は出来ない。
何だかんだと国を回すには人が要る。全てを処罰しては国が回らなくなる。
ただし他国に害を与えていた証拠が挙がった人間は、一切の容赦なく処断されたが。
「何故俺がこんな目に遭わなければいけないんだ! 俺はこの国のやり方に従っただけだ!」
「ふざけるな! 何がウムルだ! 何が大国だ! この侵略者め!」
「小娘が! 売国奴のなにが女王だ!!」
連中は大体そんな事を言っていたが、女王陛下はただ冷たい目で処罰して行った。
同時にそいつらと繋がる組織も容赦なく潰しにかかり、ウムルも全力で支援した。
ああそうだ、俺には何も無かったと言ったけど、一応こっちにも参加している。
とはいえ俺が参加したのは、基本的に野盗狩りの方だけど。
探知を全力で使って走り回り、片っ端から仙術をぶち込んで行った。
強い奴なんて一人も居なかったので、完全に作業になってたと思う。
何回か奴隷にする予定の人間を捕えている時もあり、その時は少し力が入ってしまった。
一応一人も殺してはいない。連中は正しく司法によって裁きを受ける。
とはいえ基本は処刑だろうが、それでも公的に処罰すると言う事が大事だそうだ。
「野郎ども、あたしにつづけー!」
尚リンさんはそんな事を叫びながら、アジトも粉砕するという事を何度かしていた。
財宝類をため込んでいる連中も居るので、掘り返すのが面倒だから止めて欲しい。
因みに手に入った財宝類は、全て女王陛下へ送られている。
「受け取れません。これは、我が国が受け取って良い物ではありません」
「いいから、受け取っておいて。今後この国にはお金が要るでしょ。まるで違う国にしていくんだから、色々入用になるよ。それに賠償金の支払いも有るんだし。ね、ツツィちゃん」
「・・・リファイン様・・・ありがとうございます」
受け取りの際にはそんな話もあったそうな。
賠償金。これはウムルにではなく、周辺国に支払われるものだ。
今までの奴隷の中には、他国から攫われた民も居る。
女王陛下はそれらを誤魔化す事なく、謝罪と賠償金の支払いをするつもりらしい。
援助に頼る国のままで居ない様にする為に、奴隷無しの国交の為にも必要な行為だとか。
ウムルが後ろに居るからこそ出来る事だという打算もある、と本人は言っていた。
まあ俺その場に居なかったから、また聞きの話なんだけど。
だって俺は全力で野盗探し回ってたからね。知る訳が無いんですよね。
まあ野盗を探し回ってた理由も、遺跡があるかもと思っての事だ。
クロトとハク、あとアロネスさんも加わって、念の為の捜索って感じで。
因みにイナイはシガルが護衛に着いている。
多分そうじゃなかったら、クロトはイナイから離れなかっただろうな。
結果は完全に空振りで、一つも遺跡は見つからなかったけど。
「まあ、見つからないならその方が良いだろ。見つかった方が面倒だ。無駄な労力になった方が良いだろ、こんな事」
とはアロネスさんの言葉である。実際その通りだなと思ったけど。
色々やらかしてくれるのに、こういう所カッコいいから困るよね。
無駄な労力の方が良いか。うん、本当にそう思う。
そんな訳で、俺個人には大きな事件は無く、ただ淡々と仕事をこなす日々を過ごしていた。
ああ、そういえば遺跡に居た部隊の指揮官と顔を合わす機会もあったっけ。
「タロウ様、御身の身分を知らなかったとはいえ数々の御無礼を働いた事、深く謝罪致します。どうか、私の首で部下達はお見逃し下さい」
なんて言って来たから滅茶苦茶焦ったけど。要らねえよそんな物。
とりあえず、彼は単純に仕事人なだけで、悪い人ではない。
それは一緒に行軍していた時に解っていたし、でなければあの時もっと拗れていただろう。
俺としては被害が少なくて良かったと思うし、今後の為にも指揮官は必要だ。
特に彼の様に、真面目に上の命令を聞く指揮官は、絶対に要る。
余りに真面目過ぎるのは、それもそれでどうかとは思うけどね。
その事を伝えると、彼はただ「感謝致します」と言って去って行った。
しかし身分って。まあ大貴族様が身内に居るけども。
まあそんなこんなで、今回の騒動は段々と終息しつつある。
勿論完全に落ち着くにはまだ時間が要るけど・・・俺が出来る事はそろそろ無くなりそうだ。
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